突撃 最終決戦(1)
「やつの能力はフィールドに穴をあけることだったよな?」
「あの斧で穴をあけていきます」
「そいつは厄介だな。コウ君はどうすればいいと思う?」
「ルーズさん、束縛魔法をお願いしていいですか?」
その答えを予想していたのか、ルーズはすでに詠唱の準備に入っていた。詠唱段階になってようやく軽くうなずいた。
「効力は長くないし、連続使用も不可能だ。まわりの信者たちにはかまうな。グラントを止めたら、一気に突入するぞ!」
ぽうっと魔方陣がルーズとグラントの足元を照らす。
グラントは足元の異変にすぐ気付き、斧を握り周囲を警戒しはじめた。
するとグラントはすぐにぼくらの姿を捉えた。
だが、こちらに向かう1歩目を踏み込むまえに、グラントの体は止まった。チートクラスの束縛魔法が成功したのだ。
「よし、行くぞ!」
ぼくのその言葉を合図に、『アルカディア』の建物の扉に向かった。
信者もバグラーも、互いのタッゲートのHPを削ることに精一杯で、ぼくらのことを気に留める様子はなかった。止まったグラントを不思議そうに見ているプレイヤーがいるぐらいだ。
時間が経てば異常に気付くだろうけど、いまはまだ大丈夫。
なので、グラントが守る扉のまえにはすぐにたどり着くことができた。
「こいつ、固まる直前に俺たちを見たな」
グラントの視線はさっきまでぼくらがいた方向を見ている。近づくと目を見開き、驚いていることもわかる。
「束縛魔法が解けたら、こいつは建物の中に入ってくるだろう。こいつに追いつかれる前にアギトのもとへと行くぞ」
ぼくらはすぐに扉を開け、建物の中に入った。
「何者だっ!?」
建物の中に入ると、剣士が5人と魔法使いが3人、今にも襲いかかってきそうな構えで立ちはだかっていた。
おそらくアギトの信者だろう。
それにしても、装備も金箔が塗ってある高レベル装備ばかりで、守りは厳重そうだった。
バグラーではないにしても、少しは苦労しそうだ。
どうする、と思う矢先、
「えーっと……アギト様の忠誠を誓うフィオナです! 外の様子についてご報告しに参りました」
フィオナが平然と嘘をついた。驚愕するぼくを無視して、手をおでこまで上げて敬礼までしてみせた。
「そうか、わかった。なら通ってもいいぞ……」
「ありがとうございます」
フィオナを先頭に、ぼくたちは堂々と剣士の前を通りすぎようとした。
しかし、
「ただし、通っていいのは地獄への道だけだ」
と剣士たちは突然、ぼくらの行く手を阻んだ。
「グラント様に拘束魔法を使ったらしいが、チャットはできるということに気付いてなかったようだな。グラント様からお前らの容姿を教えてもらったぞ!」
そう言って、剣士は身の丈ほどある大剣を一振りした。
「気を付けろっ!」
ルーズはそばにいた剣士の相手をした。
小枝ほどの大きさの杖を両手でもち、細かな火球を無数に放ち、廊下を火の海に変える。
ルーズの職業はサングラスとスキンヘッドのせいで前衛っぽく見えるが、束縛魔法を扱える魔法使いだ。もちろん、攻撃魔法も得意だった。
「ぐっ……こんなせまい所でファイヤーボムなんて正気か。味方も焼け死ぬぞ」
「だったら私は、こんなせまい所でこの武器を振り回すことにするわよ!」
巨大な剣がぼくの目の前を通り過ぎる。
廊下の天井にぶつかりそうになるぐらい巨大な剣を振り回せるのは、もちろんフィオナだけだった。攻撃力も増えていなければ攻撃範囲も広がっていない、完全な張りぼてだ。
もはやぼくらはそこに驚かない。
しかし敵の魔法使いは剣先に触れまいと、悲鳴を上げながら逃げまくっていた。
フィオナはそんな相手の反応が面白かったのか、執拗に追いかけては剣をぶんぶんと軽々と振り回している。
「なんてバグラーだ。ならこっちは奥手で――」
という金箔の鎧を着た剣士のHPは、いつの間にかガクンと減った。
いつ減ったのか最初は理解できなかったが、そばにベルクがいたことで理解ができた。ベルクの動きは超速だ。誰にも視認できないスピードで動き、攻撃をしたのだろう。
ただトドメまでは刺さない。
それはベルクの超速が無限に続くわけではないことも理由にあったが、それよりもぼくらバグラーがプレイヤーを倒せばフリーズするという理由が一番にあった。
フリーズさせてしまえば制圧は簡単だ。だが、見知らぬアギトの信者たちをそんな目に合わせるのは非道とすら感じた。
それにぼくらは、身近なプレイヤーがフリーズしてしまう悲しみや恐怖を『42』との戦いで知っている。相手の悲しみも容易に想像ができる。
だからフィオナもベルクもルーズも、本気では戦っていない。
そして、ぼくも本気ではない。
「バグラー風情が調子に乗るなよ!」
二刀流でやってくる剣士がぼくに近づいてきた。
だけどぼくはその2本の剣を、999ある力を使って、片手剣・カッツバルゲルではじき返した。
ぼくによる強大な力が加わった2本の剣は、形が崩れていき、ただの鉄くずとなって床に散って消滅した。
「嘘だろ……」
絶望するのも無理はない。ぼくが壊した片手剣はどちらも超レアドロップアイテムだ。本当は壊したくなんてなかった。ただ、フリーズさせてしまうよりはるかにいいはずだ。
次第に劣勢となっていった信者たちは後ずさり、集会所の方へと逃げようとしていた。
これでよかった。無駄な殺生は避けたい。
ぼくらは武器を腰に収めて建物の奥へと進もうとした。
しかし、安心するのはまだ早かった。
「おい、てめぇら! 調子に乗ってんじゃねえぞ。全員、フィールド外に落としてやる!」
グラントの声だった。
そしてそのうしろには3人のプレイヤーがいた。
全員、虹色の光を有していた。つまり、バグラーだ。
「束縛魔法の持続時間が思った以上に短かったか。すまん」
ルーズはそう言って、グラントに魔法を唱える。連続使用できない束縛魔法ではなく、通常の属性魔法だ。
フリーズブリザード、ライトニング・ヘルと、連続して威力が高くMP消費が激しい魔法を繰り出した。
だが、グラントはまったく動じていなかった。それどころかHPもあまり削れていなかった。
「そんな普通の攻撃なんて効かねえよ。お互いバグラーなんだし、もっと激しい戦いをしようぜ?」
そう言うグラントは、気がつくといつの間にか2人になっていた。
なにが起こったのかはわかった。
うしろの3人の誰かの能力が発動したのだ。
まったく同じ動きをするグラント2人は、ぼくらに倍となった威圧感を与えながら歩み寄ってきた。
グラントは1人でも強い。そんなプレイヤーが簡単に増えるなんて恐怖でしかなかった。
「あの……コウさん。やつらのことを知っているぼくが引き止めますんで、みなさんはアギトのところに早く行ってください」
ベルクが、グラントを目で捉えながらささやいた。
「なに言っているんだ、お前。バグラー4人を1人で相手にできるわけがないだろ」
と言つつもルーズは、「だから俺もやってやるよ」と加勢することを宣言する。
「ルーズさん、参戦してくれるのは大変心強いんですが、束縛魔法は使えないんですよね?」
「加えて魔力もない。まあそこは打撃だ。打撃を与え続ければHPは減らせる。そして相手の攻撃は避けてしまえば0ダメージだ」
運動神経の有無でなんとかなればレベル上げなんてする必要がない、とはとても言えない。言えるはずがない。
「でもパーティーメンバーは多いほうが、微々たる打撃であっても蓄積ダメージは大きくなるでしょ?」
そう言ったのはフィオナだった。
妹の心配をする必要がないせいか、それとも妹を守るためか、どちらかはわからないが、その表情は凛々しく、勇敢さがあった。
「じゃあ私もルーズたちについていくわ」
今度はアサノが言った。
しかしアサノはフィオナとちがって無理やりつくった笑みがひきつっていた。アサノの恐怖を表しているように見えた。
そんなアサノを置いていけるはずがなかった。
つられるような形でぼくも言う。
「じゃあぼくも――」
「ダメだ。コウ君とアサノさんはアギトのところに行け」
ルーズにぼくの言葉は遮られた。
「どうしてよ?」
ルーズに対してアサノが抗議をする。
「だってアギトのところにいるリッカちゃんは、君たちの現実の友だちだろ? で、その子を説得するんだろ。だったら2人とも行くべきだろう」
「でも……」
「でももクソもないわ、アサノ。コウはもちろんだけど、アサノもリッカのところに行くべきなのよ」
「ただ、ぼくとアサノが抜けるとして、ルーズさんたちはどうやって相手をするんですか?」
「だから言っているだろ? 打撃を与え続けて、塵も積もればなんとやらだ」
「そんなの、めちゃくちゃじゃないですか」
「いや、勝機はある」
その無謀な策のどこに勝機があるのだと、不思議に思った。
だが、ルーズはにっこりとサングラス越しに笑ってみせた。
「お前とアギトとの決着がつけば、この戦いがおわる。それまでなら打撃でなんとかしのげる。そういう勝機だ」
期待しすぎにもほどがあった。
そういうことはあなたの方が適任じゃないのか、と言いたくなった。
しかし誰かがグラントたちを食い止めてくれないと、アギトの部屋にまでたどり着けないのも想像ができた。
無謀なようでいて、ルーズは正しい。
「わかりました。じゃあぼくはできるだけ早く決着をつけてきます。だからそれまではやられないでください」
「ああ、わかってる。防御強化魔法でも唱えて待っておくよ」
冗談か何なのかよくわからないルーズの言葉は、少し楽しそうでもあった。
ぼくはアサノの手を引っ張って駆けだした。
「あ、おい待てよっ!」
グラントがうしろで叫んでいた。
しかし無視だ。待つものか。
ぼくはアギトに出会うため、まず1つ目の扉を開ける。
コナミコマンド『上上下下左右左右』を呪詛のように唱えつつ、ぼくはこの建物の最奥にあるアギトの部屋を目指した。




