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五十八
「……え?」
クゼは顔を上げた。少し先のハクビの顔を見る。傘を差さず大雨の中に立つ彼の表情は、何の色も示さなかった。
「直に王が起つよ。でも、きっと偽王になる。……おそらく、もっとこの国は酷くなる」
無表情に淡々と紡がれる言葉。その内容は、俄かには信じ難いことだった。
「正しい【龍】じゃないんだ。天が怒る。この国は、荒れるだろうね」
「ちょっと、待てよ……。それ、本当か?」
その疑問に、ハクビは遠くを見つめていた双眸をクゼに戻した。それを見て、クゼは雨の中尚も激昂していた己の体温がスッと冷えたのを感じた。ぞっとするほどの、怖いくらいに真剣な目。胡散臭いと思っていた男の言葉だが、これは何故か信じる気になった。
(本当、なのか)
その綺麗なまでの無を湛えた表情に、少しだけ悲愴が混じる。
「正しい次王が、この国が、危ない……」
クゼはハクビから目が離せなかった。ハクビがもう一度目線を上げる。目が合った。
「ねぇ、クゼ。……君は、この国を救いたいと思うかい?」
「……え?」
「この国のために、正しい王のために、世を動かすほどの戦を仕掛ける想いが、覚悟が、君にはあるかい?」
突拍子も無い、冗談ともとれる問い。けれど、これが真剣なのだと、本気なのだと、クゼは知っている。




