五十七
「何で!? 何で! 何で、何で……何で、なんだよ……」
漸くクゼの身体から力が抜ける。膝をついたクゼを見て、ハクビは掴んでいた手を放した。頭を抱え込み、幼子の躯に縋り付く。伏せられている顔がどのような表情を抱えているのか窺えないが、ハクビにはそれが泣いているように見えた。
段々と雨脚が強くなっていく。その水が、彼らの周りの火を消していった。
「何で、だよ……なあ!! なんでこんなことになった!? なんで、なんで!?」
水滴はやがて大雨になる。すぐに桶をひっくり返したような土砂降りになった。周りの火はいつの間にか全て消え去った。黒い炭だけが残される。
クゼにはもう、何が何だかわからなかった。あの男が憎い。殺してやりたい。あの男を逃がしたハクビが憎い。けれど、あの男が悪いのか。全てあの男が悪いのか。確かにあの男が殺した。悪いことだ、憎らしいことだ。ではあの男は何が目的だったのか。なぜこの児は死んだのか。なぜこんなことが起きたのか。その明確な答えが欲しい。
「食い物が欲しい? これから貧しくなるから? 何で!?」
なぜこのような事が起きた。なぜこうも人の命が軽視される。センだけではないのだ。今も雨水のどこかで死人が出ているだろう。その、理由は。
「何でセンは死んだ? 何でこんなことが起きた? どうして……」
雨水だから? 違う。確かに厳しい地だ。しかし、こんなに非道ではなかった。
この憎しみは、恨みは、この負の連鎖は、いったいどこに向かえばいいのか。どこに向けていけば良いのか。
「……王が、弑された」
その答えが、今、明かされる。




