四十七
小ぶりな池の周りには季節ごとに花が植えられているようで、質素なれども風流さがあった。
無遠慮にもしげしげと屋敷の観察をするクゼ。すると、そこに凛とした声が響いた。
「そこに居るのは誰!?」
未だか細い、少女特有の声。その直後に、バシュッと空気を切る音と、何かが木に突き刺さる音が聞こえた。
ギギギッと効果音が付きそうなぎこちない動きでクゼは横を見る。そこには、深々と木に突き刺さった矢が伸びていた。その位置は、クゼの頬のすぐ脇。少しでも横にずれていたら、クゼの顔面に風穴をあけていたことだろう。否、わざと軌道を横にずらしたのか。
「誰!?」
再度尋ねる少女の声。ぎくりとしながらもクゼが声の方を振り向くと、階の先、軒に吊るされた御簾の向こうに、小柄な人影が見えた。やや小ぶりな弓を構え御簾の隙間から矢を覗かせ、こちらの様子を窺っている。声から考えるに、例の成人の儀をした少女だろうか。
「こ、コウばば……コウ婆さんからの贈り物を持って来たんだ! ここのお嬢さんの成人の儀のお祝いにって!」
敬語を取り繕うことも忘れ、焦って話しかける。再び矢を飛ばされては敵わない。と言うか、もともとクゼには敬語など無理だったようだ。
「コウさん? 福屋、の……?」
「そう! あの、大店通りの茶屋の福屋!」
クゼはぶんぶんと首を縦に振る。もう少しではずれそうな勢いだ。ここで理解してくれないと殺されかねない。文字通り必死にクゼは説明をした。重箱の入っている布に染め抜かれた屋号を指さす。
「それなら、どうしてそんなところから出てくるの……?」
「こんな身形のやつ、衛兵が入れてくれなかったんだよ!」
クゼが自身の身形を指さしそう叫び訴えると、少女はそれを繁々と見、しばらくして納得したのか弓の構えを解いた。




