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三十七
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あれから数日。
ハクビが廃屋に来て子供たちに字を教えることが日常と化してきつつある日。ハクビは、子供たちの面倒を見つつ、少し離れた位置で寝転がるクゼを盗み見た。
本当に寝ているのか、こちらに背を向け、肘を付きピクリともしない。
(やはり、あの子は……)
「……いちゃん? ハクビお兄ちゃん!」
「わっ! ……と、何?」
急いで思考の渦から覚醒し笑みを取り繕う。下を見ると、不満そうに頬を膨らます少女の顔があった。
「何回呼んでも反応してくれなかったよ!」
「ごめんごめん」
謝り、彼女が持っている書物に目を向ける。少女が指さす部分を読んでいると、視界の端に立ち上がったクゼの姿を見つけた。クゼはそのまま廃屋を出ていく。
「あ……クゼくん! ちょっと待って!」
「え? ハクビお兄ちゃん!?」
「ごめん! 後で教える! ごめんね!」
急に立ち上がったハクビに驚く少女をそのままに、ハクビはクゼを追って廃屋から飛び出した。




