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三十六
【真名】。それは、各々が持つ固有の名前。魂の名。
誰もが生まれた時よりひとり一つ持ち、其れは己が本当の姿を現す、と言われている。その【真名】は、言葉の力、言霊を用いることによって具現することが出来るのだが――
(――彼は、扱うことができるのか)
本来人々は、成人の年齢である十六歳まで【真名】を知らないものである。成人の儀と呼ばれる、己の真名を神官に視てもらう儀式を行って初めて、肉体に付けられた名とは違う自身の魂の名を知る。しかし、成人の儀を行えるのは貴族や金持ちの豪商ぐらいなもので、庶民は自身の【真名】を知らずにその生涯を終える者が殆どであり、それが当たり前であった。
(彼は十六歳より前に【真名】を知っていた)
あの、聞いた話に出てきた“火”は、間違いなく彼の【真名】のもの。
(成人の儀で視てもらう事の他にも、【真名】を知る方法は一応あるって、聞いたことはあるけれど……)
それはとても稀で、しかもそうそうできるものではない。
(ちょっと、調べてみようかな)
ハクビは、少しの心当たりを感じ、ある場所へと歩を向けた。この都の北、政治を掌る、貴族や王族が集う王宮へと。




