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9/12

9話 成人男性玄関前号泣事件

ピンポーン


「……」


部屋に響いたチャイムの音で目が覚めた。

もう朝か?遮光カーテンで部屋が真っ暗だから時間が分からん。デバイスを起動する気力も無い。


ピンポーン


また鳴った。宅配か?冷凍おかずの定期配達は停止してるし、最近何かを注文した記憶も無いから、ナミが何か頼んだのか?

……ナミ。

はぁ、宅配の人には悪いが、出直して来てもらおう。今は、何もする気が起きん。


ピンポーン


「……」


ピンポピンポピンポーン


「……」


ピンポピンポピンポピンピンピンポピンポーン

ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドンドンドンドンドン!


「だぁぁうるっせぇ!誰だ、人ん家のドアを三三七拍子で叩くヤツは!!!」


普段であればそんなイタズラ無視するか、通報するかの二択なんだが、この時の俺にはそんな心の余裕は無かった。

……いや、違うな。この時の俺は、むしろ好都合だと思っていたのかもしれない。この消えないモヤモヤを八つ当たりできる対象を探してたんだ。きっと。


外も確認せずに鍵を開け、相手が誰であろうと怒鳴りつけてやろうと息を吸い込み扉を開ける。

暗闇に閉ざされた室内へ陽の光が差し込んでいき、遂に眩しい廊下に立つソイツが目に入った時、目の前の現実が理解できずに体が固まった。


「もう、ソーマ!お昼過ぎなのにずっと寝てたでしょ!今から帰るって連絡したのに既読も付かないし!ナミが居ないとダメなんだからまったく。あ、ご飯はちゃんと食べたの?」

「……ナミ?」

「うん?どうしたのソーマ?」


そこに居たのはナミだった。最初に家に届いた時と同じ無地のワンピースとスリッパ姿のナミには昨日の事故の故障(けが)は見える範囲には無い。


これは本当に現実か?夢か幻じゃないのか?

いや、そんな事はどうでもいい。どうだっていいんだ。


「ナミ……ナミっ!」

「わっ、ど、どうしたのソーマ!」

「ナミ……おかえり……」

「……うん。ただいま、ソーマ。よしよし」


平日の真昼間に、成人男性が美少女型アンドロイドに泣きながら抱きついて、頭を撫でられている姿を誰にも目撃されなかったのは幸運な事だった。

いや本当に。もし見られてたら羞恥で死ねるわ。


◆◆◆


「つまりね、あの義体(からだ)はもう修理も無理そうだったけど、シャットダウンの直前までソーマとお話出来てたって事は、人格とか記憶とかを保存しているコアパーツは損傷が少なかったって事なの。ナミも左胸を庇ってたしね。それで、高天原社の人達に回収してもらって、新しい義体(からだ)にコアパーツを載せ替えてもらって帰ってきたの。分かった?」

「あぁ、まぁ……。そうだよな。ナミは、機械(アンドロイド)だもんな」


成人男性玄関前号泣事件から少し経って落ち着いた後、部屋に戻ったナミによって明かりが付けられ、カーテンが開け放たれた。

今はあり物で飯を作っているナミの口から、顛末の説明を説明を受けているところだ。

ナミが戻った途端、家自体が生き返った様だ。なんて一瞬頭を過ぎる。

変な話だ。家に命なんてあるはずはないのに。


「ナミのことよりソーマは大丈夫だった?ちゃんと病院行った?」

「……行ってない」

「なんで!?行かなきゃダメでしょ!自分じゃ気づいてなくても怪我してるかもしれないし。ナミもついて行ってあげるからご飯食べたら一緒に行くよ」

「お前は俺のオカンかよ……」


事故にあったからか、大泣きしたからか、あるいはその両方か。ナミが普段よりも過保護になっている気がする。

色々とあった直後だから、俺が精神的に不安定になっているのは分かるがな。俺もそうだろうし。


「まぁ、病院には後で行っておこう。事故の事後処理は懇意の弁護士先生が居るから丸投げしておこう。上手いことやってくれるはずだ」

「ならばヨシ。ご飯できたから食べよー」


湯気の立つ丼と、コップや箸を載せたお盆を両手に1つずつ持ったナミが台所からこっちへ来るので机の上を軽く拭いて場所を作る。

ありがとー、と軽く礼を言いながらナミが置いたお盆に乗っていた丼の中身は……なんだ、その、なんだこれ?


「本日のメニューは、超豪華!欲張りおかず全乗せラーメンだよ!ババン!」

「ようは、余り物を乗っけた袋ラーメンだろ?」

「言い方ぁ!この世の全ては物は言い様なんだよ?美少女アンドロイドのナミが愛情込めて作りました♡って言っておけば、余り物とインスタントの寄せ集めにも付加価値が付くの!」

「まぁ、一理ある、か?ちょっとぶっちゃけすぎだがな」


ははは、と笑い合い昼飯に箸をつける。なんだかんだと言ったが、美味いものに美味いものを乗っけたんだから不味い訳は無い。

向かいでは俺より一回り小さい器に盛り付けた料理をナミも食べている。

最初の頃は食事は俺だけで摂っていたんだが、ナミに料理を作らせて俺だけが食べるのは何となく居心地が悪かったので、今ではナミにも少し食べてもらうことにしている。


「そう言えば、ナミの修理費ってどうなってるんだ?振り込みが必要なら後で払っておかないと」

「ん?どうなんだろ、テスト期間だし、故意の破壊でもないから要らない気がするけど……取説に書いてあるかも。んー、はい」

「センキュー」


ナミが取ってくれた取説を改めて見てみるが、故障した際の連絡先は書いてあるが、修理費については記載が無いな……。


「書いてないな」

「そかー。ならいいんじゃない?ソーマが気になるなら、聞いてみてもいいと思うけど」


まぁ必要なら高天原社から請求が来るだろうし、そこまで気にしてはいないんだが……と、適当に取説を捲っていたらとある文言が目に止まった。

『テスト期間6/21〜8/31』

残り1ヶ月と10日程。


「ごちそうさまでした。ソーマももうごちそうさま?」

「ん、あぁ、ごちそうさま。美味かったわ」

「でしょ〜?ドヤドヤ!じゃ病院行くから準備してね」

「いや、その前に高天原社にメールだけ送らせてくれ」

「そう?ソーマって割と心配性だよね。じゃあナミはお皿の片付けしてるねー」


ナミが両手にお盆を持って行くのを見送りながら、取説に書いてあった問い合わせ先宛へメールを書く。

内容は、ナミの修理費の話と……テスト期間の延長あるいはナミの買取が出来ないかの相談だ。

受けてくれる可能性は低いとは思うが……ダメで元々。言うだけタダだ。


「ソーマー。お皿洗い終わったよー」

「こっちも終わった。なら病院行くか」

「うん!おんぶして行こうか?肩車でもいいよ!」

「勘弁してくれ……」


願わくば、少しでも長くこの日々が続かん事を。

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