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8話 『ソーマにナミを描かせたくする大作戦』

ナミの『ソーマにナミを描かせたくする大作戦』はその日の夕方から早々にスタートした。


「じゃーん!見てソーマ!どう!?」

「どう、とは……まぁ似合うんじゃないか?ツインテ。なんでお玉を持ってるかは分からんが」


長いピンクの髪をツインテールにしたナミがお玉を片手になにやらポーズを決めている。妹キャラアピールかな?


「ふふん。ナミは考えたのです。ソーマにナミを描かせたくするなら、ソーマが昔描いた絵を参考にすれば良いと!」

「まぁ、一理あるか」


過去に描いたと言うことは、描くたくなった事があるってことだからな。参考にはなるだろう。


「つまり、こういう事!」


無駄に綺麗にクルッとターンしたナミは、お玉の先を俺に突きつけてこう言い放った。


「なっみなみにしてあげる!」


「……なんか、零れそうでいやだなぁ」


俺のツッコミをガン無視したナミは、持ってたお玉をネギだかマイクだかの代わりにして、俺が産まれるよりずっと前の曲を歌って踊り始めた。

俺も雰囲気と言うか、サビのワンフレーズしか知らないから、いまいちリアクションに困るんだが?


「……ふぅ。どう、ソーマ!?ナミのこと描きたくなった!?」

「うーん……多少は?」

「えー!何点ぐらい?」

「38点」

「辛口!えぇい次ぃ!」


◆◆◆


「『オシャレ大作戦』!ドンドンパフパフ!」

「ファッションショーならこの前ショッピングモールでやっただろ。暫くは行きたくないんだが」

「チッチッチ。甘いよソーマ。味噌田楽ぐらい甘い!」

「……パッと甘さが想像しづらい例え出してきたな。まぁ、甘いのか?」

「ショッピングモールでのオシャレも楽しかったけど、あれはお店にあった服を合わせただけでしょ?店員の佐藤さんとナミが好きな服を着てただけでソーマの好みとはまた違うと思うの」

「まぁ、一理あるか。あといつの間に店員さんを名前で呼ぶ関係になったんだ」

「だから、ソーマが寝てる間にデバイスを借りて、ソーマの好みを調べたの!」

「おい待て。この前お前が勝手に使ってからデバイスにはロックを掛けてたはずだよな!?」

「解除した!」

「おい!」

「でね、ソーマが好きな女の子に見た目を合わせようかと思ったんだけど、統計を取ったらナミの義体情報とほとんど一致しちゃったから、一旦保留にしたの」

「あぁ、うん。そう、はい……」

「だから、髪型と服装でソーマの好きなアニメや漫画の女の子の真似っ子する事にしたの!コスプレって言うんだよね。衣装も用意したから見てて!」

「そだね……ご自由にどうぞ……」


なんか、なんだろうな、ネットの閲覧履歴から機械が趣味の解析をするなんて、ネット広告表示ではありがちな事なのに、なんでこんな顔が熱いんだろうな?


「だらららら!ウサギさん!」

「だらららら!メイドさん!」

「だらららら!魔法少女!」

「だらららら!ロボット!」

「だらららら!ウサミミメイド魔法少女ロボット!!」


「ぶほっ!」


くそ!ダンボールガン〇ムまでは耐えられたのに全部乗せはズルいだろ!!


「あ、ソーマが笑った!これはボーダー越えの高得点が……?」

「83点」

「惜しい!昨日と位が入れ替わった!じゃあこれからはウサミミメイド魔法少女型ロボット姿で居るね!」

「頼むからやめてくれ!」


自分のアンドロイドにそんな格好させてたら、佐藤さんに俺の感性が疑われるわ!!


◆◆◆


「『数打ちゃ当たる!ショート動画大作戦』!ドンドンパフパフ!」

「ショート動画撮るのか?動画は謎解きチャンネルとゲーム実況しかほぼ見ないが……」

「ソーマはそうかもしれないけど、多くの人が見てると言うことはそれだけ魅力があるってこと!でしょ?」

「まぁ、一理あるか」

「ということで行くよー!音楽に合わせてモノマネ10連続チャレンジ!鳩!深夜のコンビニバイト!パソコンの起動音!」

「ふふ、おい起動音はズルいだろ。どちらかと言えばパソコンが本体じゃねぇか」

「猫!ゾンビ!ファミレスの入店音!新幹線!ポッポー!」

「それ新幹線の汽笛じゃないだろ」

「鷹!虎!飛蝗!」

「タトバじゃねぇか。何年前のライダーだよ!」

「ナミを描きたくなった?」

「ちょっと面白かったが描くたくは無いな。2点」

「激辛っ!」


◆◆◆


「『ゲームで仲良し大作戦』!ドンドンパフパフ!ソーマ!一緒にゲームしよ!」

「え、やだ」

「なんで!?そこは「まぁ、一理あるか」って言うところでしょ!!」

「だって、ナミはアンドロイドじゃん。反射神経や思考力が重要なゲームだと勝てないだろ。手加減されるのも嫌だからやらないに限る」

「なんで対戦前提なの!?仲良し大作戦って言ってるじゃんー!協力プレイしよーよー!」

「うーん。そもそも最近のゲームがあんまり好きじゃないんだよな、だからパスで」


最近のゲームは大抵シナリオかイラストかNPCにイザナギが使用されているからな。その時点で俺からすればマイナス点だ。


「じゃあボードゲーム!ボードゲームしよう!このお部屋にも幾つかあったよね?」

「……ほう?流石は高性能アンドロイドボードゲームの良さが分かるとはなまぁボドゲは基本的に3人から4人でやるのが一番楽しいと思うが(個人の感想)2人で出来るボドゲも幾つかストックがあるぞナミがボドゲをやるのが初めてな事を考えるとルールが分かりやすく1ゲームか短い物がいいよなガイスターもいいがここはやっぱりキングドミノだろキングドミノは2017年ドイツ年間ゲーム大賞を受賞したボドゲでなルールも簡潔で分かりやすいしゲーム自体の雰囲気も非常に良くて……」

「はわ、はわわ!ソーマ!止まって!そんな一遍に言われてもナミ分かんないよ!」


ゲームに夢中になり作中止。0点。


◆◆◆


『ソーマにナミを描かせたくする大作戦』はまだまだ続く。


「『美味しい料理でハートをゲット大作戦』!ドンドンパフパフ!一日掛けて味をシミシミにしたローストビーフ!食べて!」

「うん。美味い」

「ナミを描きたくなった!?」

「ローストビーフならちょっと描きたくなったかもな。ナミなら36点」

「むー!次!」


「『単純接触効果でナミを好きになってもらおう大作戦』!ドンドンパフパフ!ソーマに四六時中くっつきつつ、部屋中にナミの写真を貼って、ソーマの心をナミでいっぱいにしちゃおう!」

「普通に迷惑だからやめてくれ。限度考えような。10点」

「お片付けします……次!」


「『ゲームで仲良し大作戦リターンズ』!ドンドンパフパフ!ソーマ!ソーマがやってたTRPG教えて!」

「……ほう?いいぞ。システムは何にする?世界観や判定の分かりやすかったから言えばCoCかエモクロアかだが一般に想像するゲーム感と言う観点では少し外れているんだよな分かりやすく剣と魔法のファンタジーにするならばソドワやD&Dもいいが本当に最初に触るのであればキャラメイクで疲れ果てるかもしれなくてなぁお試しならサンプルキャラ使ってもいいんだがそれはそれで味気ない逆に可愛い系に振ってゆうこややウタカゼを遊ぶというのも……」

「はわ、はわわ!ソーマ!止まって!そんな一遍に言われてもナミ分かんないよ!」


楽しくキャラメイクして遊んだ。0点。


◆◆◆


ナミの『ソーマにナミを描かせたくする大作戦』は室内に収まりきらず、ついには外まで飛び出し始めた。


「『ピクニック大作戦』!ドンドンパフパフ!ソーマ!ソーマ!偶にはお外でご飯食べよう!暑いからやだ?ならお月見ピクニックだ!」

「『映画観て聖地巡礼しよう大作戦』!ドンドンパフパフ!ソーマ!ここら辺が舞台の映画やってるみたいだから観に行こう!ポップコーンでっかいの買おうね!」

「『動物園触れ合い大作戦』!ドンドンパフパフ!ソーマ!期間限定でウサギさんと触れ合いイベントやってるって!行こう!」

「『一緒に花火見に行こう大作戦』!ドンドンパフパフ!ソーマ!隣町で花火大会やってるって!行こう!」

「ソーマ!」「ソーマ」「ソーマァー!」

「……はいはい、お付き合いしますよ、お姫様」


町中グルりと見て回った後は自然にも足を伸ばし始めた。

山を見た、森を見た、海を見た、夕焼けを見た、星空を見た、朝焼けを見た、雨を見た、太陽を見た、月を見た。


なるべくイザナギに触れない様に部屋へ閉じこもっていた10年間。その年月をあっさりと上回る程の景色を、僅か1ヶ月程度で浴びた気がする。

その景色には必ずナミが居て、最後には決まってこう言うんだ。

「どう、ソーマ。ナミを描きたくなった?」

そして俺はこう答える。

「今日は惜しかったな。もう少しで描きたくなりそうだったんだが」

そしたらナミは笑ってこう言うんだ。

「なら、明日はもっと楽しい事しなくちゃね!」


そう言うナミの笑顔があんまりにもキラキラしていたものだから……あぁいや。これは無しだ。もう少しの間だけ、な。


◆◆◆


「ねぇソーマ。いつものスーパー寄ってこ。今日は何食べたい?」

「んー。なんでもいいぞ」

「出た!『なんでもいい』!主婦が嫌がる夫の発言ナンバーワン、ナミ調べ!」

「ナミは分類分けするなら家政婦だからセーフだろ」

「似たようなもんだよ!もっと本質を見ようよ!」

「ぜってー違うと思うけどなぁ……」


『ソーマにナミを描かせたくする大作戦』の帰り道、夕暮れの中ナミと並んで家の近所のスーパーへ買い出しに向かうのが、最近のお決まりとなっていた。

ナミが料理を出来るようになってからは、おかずの定期配達は停止しており、健康の為に1日3食生活を送っている。まぁ、料理と片付けまでやってくれるなら、食べるだけだし、嫌がる程のことでもない。

外出の機会も増えて歩き回るようになったから俄然健康になっちまうぜ。今なら健康診断も素通り出来るかもな。無理か。十年の不摂生は重い。


「ともかく、和食がいいとか、中華がいいとか、お魚がいいとか、お肉がいいとか、何か食べたいものないの?」

「んー。いや、本当になんでもいいな。なんなら久しぶりにカップラーメンでも……」

「ダメ!のお家にあるカップラーメン、安いけど体に悪いやつばっかだもん!ソーマは健康で長生きするの!」

「今更一食カップラーメンにしたところで変わらんて……ん?」


……俺がナミよりも先にそれに気がついたのは単なる偶然。あるいは第六感とでも言うべき勘だった。

何となく振り返った俺が見た物は、道へ飛び出した犬を避ける為、急ハンドルを切ったトラックの姿だった。


真っ直ぐ俺を照らすライトが眩しくて、片手を上げて目を庇う。

俺が出来たのはそれだけだった。咄嗟にできたのは、そんな何の意味もない行動だけだった。


だけど、俺なんかよりも遥かに高性能な彼女は、この一瞬で自身がやるべき事、やれる事を判断し、実行する事が出来た。出来てしまった。


「ソーマ!!」


……それが、俺の望みと一致しているかは別の話だ。


「―――痛っ」


体に衝撃が走ったと思ったら、地面へ倒れていた俺は、一瞬何が起こったか分からなかった。

しかし、すぐに理解が追いつき、状況を把握する。


「っ、ナミ!!」


慌ててさっきまで俺達が立っていた場所を振り返えれば、トラックが民家へと突っ込み、派手な警告音を鳴り響かせている。

あの一瞬。トラックが突っ込んでくる軌道上に居た俺は、確かにナミに突き飛ばされたんだ。ならば、突き飛ばしたナミは俺の後ろに居るはずなのに、そこにはトラックしか……


「ナミ!ナミ!どこだ!ナミっ!」

「っ、あ……ソーマ」

「ナミ!!」


トラックの周囲ばかりを探していた俺は、背後から聞こえたナミの声に慌てて振り返る。

そうだ、ナミはあの高天原社が作った最新式のアンドロイドだ。俺を突き飛ばした後に自分も飛び出したから、俺より遠くに居たんだ。そうに違いない。

鳴り止まない心臓の鼓動と嫌な予感に蓋をするように、祈るようにそう念じながら、きっと無事であろうナミを探す。


声がした方向には、ナミが。……あぁ、見間違えるはずも無い。間違いなく、ナミが居た。


「良かった……ソーマ、怪我ない?」

「ナミ……な、み……」


ナミには、腰の可動部から下が無かった。

残った上半身も右半分は損傷が激しく、元のナミの姿を保っているのは全体の四分の一程度しか無い。

故障部(きずぐち)はバチバチと火花を散らし、ナミの下には何かも分からない液体が水溜まりとなって広がっていく。

俺にはそれが、ナミの身体から命が流れ出ている様に見えた。


「な、ナミ、待ってろ、直ぐ傷口を塞ぐから―――」

「ダメ!ナミの身体、漏電してるから。それ以上近づいたら、ソーマ、感電しちゃう」

「あ、ぐっ、うぅ……」


半分に欠けた顔で、困った様にナミは笑う。

スピーカーには損傷が無かったのか、声はハッキリ聞こえるのに俺は今にも死にそうなナミに触れることさえ出来ない。


「ごめんね。この義体(からだ)はもうダメみたい。やっぱり、晩御飯はカップラーメンにしてもいいよ」

「んなこと、どうでもいい!もうダメだなんて言うな!ほら……絵!『ソーマにナミを描かせたくする大作戦』!まだ途中だろ!まだ……まだ、俺はナミの絵を描いてないぞ!」

「え?うん。そうだね……あ、でも、今のナミはあんまり描いて欲しくない……か、も―――

「ナミ?おい、ナミ!返事をしてくれ!ナミ!」


ナミは俺を見つめたまま、時が止まった様に動きを静止させた。

人が死ぬときとも違う。これがアンドロイドの死(シャットダウン)。

素人目には修復なんて到底不可能に見える。ナミ本人も、もうダメだと言っていた。

ナミが……死んだ。死んだんだ。本当に。


◆◆◆


それからどうなったのか、俺は余り覚えていない。

覚えているのは、すぐに警察と救急がやってきたこと。

俺は、車に乗せられて、聞かれるままに何かを答えていたこと。

深夜遅くに自宅へと帰ってきたこと。

それぐらいだ。


玄関を開け、ただいまと声を出しても、当然帰ってくる返事は無く。

明かりを付ける事さえ億劫で、適当に靴を脱ぎ捨てその辺に倒れこんだ。

とても寝るような様な気分では無かったが、精神的疲労からか俺の意識はあっさりと闇へと落ちていった。


――― 2040/07/20 0:00

――― テスター期間終了















まで、残り42日


ピンポーン

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