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10話 もっと一緒に居たい

医者に軽い打撲と診断された帰り道、デバイスに高天原社からの返信が届いた。

要約すると、ナミの修理費の支払いは不要。テスト期間の延長もナミの買取もダメとの事だった。


「まぁ、そうだよな……」


ダメで元々。分かってはいたがちょっとショックだ。


「どーしたのソーマ?はっ!やっぱりどこか痛いの!?」

「ちげぇよ。もう痛く無いし、ナミは気にすん……」


待てよ?何となくメールの件はナミに誤魔化そうとしたが、隠すメリットってなんだ?

……恥ずかしいから、とか?そんなの、クッソどうでも良くね?

今回の事故では、俺は軽傷で済んだし、ナミもコアパーツは傷つかなかった。

でも、そんなのはたまたまだ。一度起きたんだ、また同じ事が起きないとは限らないし、その時2人とも無事とも限らない。なら、やれることはやれる時にやるべきじゃないか?


「ソーマ?本当に大丈夫?調子が悪いなら、本当に病院に戻った方が……」

「あぁいや。怪我は本当に大丈夫だ。ただ……家に帰ったらナミに相談したい事がある。知恵を貸してくれ」

「……直ぐに病院に戻って頭を診てもらおう?ね?いつものソーマなら言わないでしょ、そんな事っ」

「頭は打ってねーよ。ほら、帰るぞ」

「あ、待ってよ、ソーマ!」


ショックを受けたって意味では、頭を打つ以上の衝撃は受けたかもしれないがな。

……もう二度と、あんな思いはごめんだ。


◆◆◆


「つまりだ、ナミの義体(からだ)がバラバラになった時、俺はとんでもないショックを受けてメンタルが死んだ訳だ。大切なものは失ってから初めて気づく。なんて言葉があるが、俺の中でナミの存在は思ってたよりもデカくなってた事に気がついたワケ。分かったか?」

「そっか。ソーマは人間だもんね。目の前でナミがバラバラになったらショックだよ、ね?」

「そりゃそう。でも他人や他所のアンドロイドなら嫌な思いはしても寝込んだりはしなかったと思う。アレはナミだったからだ。で、このままだとナミは8月末に高天原社に回収されてしまうだろう?だけど俺はもっとナミと一緒に居たいから何とかするために知恵を貸してくれって話」

「……やっぱりソーマが変!」

「ふはは!変で結構!俺のしょっぱい見栄よりも実利を優先する事を決めたからな!開き直りとも言う!」


昼前にナミから事故の顛末を聞いた時とは反対に、俺からナミへ俺の思いの説明を行う。

と言っても『もっと一緒に居たい』以上のことは特に言うこともないんだが。ありふれた言葉ではあるが、これを伝えているか、いないかは後々大きな差になる気がする。そんな気がするってだけだけどな。


「ソーマはへんてこりんだけど、ソーマの思いは分かった。ナミも後半分でソーマとお別れ。データを回収して処分されるのは、なんか嫌かも。うん……うん!考えてみたらそうじゃん!ナミは高天原社のアンドロイドだから、時間が来たら帰らなきゃって思ってたけど、もっと色んな所へ行きたい。もっともっと色んな物を見たい!もっともっともっとソーマと一緒に遊びたい!!!う〜〜~よっしゃぁ!『ソーマとナミ、ずっと一緒に居よう大作戦』の発動をここに宣言する!!」

「うるさ、てか作戦名ダッサ」


ちょっと前にしたようなやり取りに、ナミと2人目を合わせて、どちらからともなく笑いが零れる。

作戦名はダサいが、ナミに反対されなくて良かった。ナミのテスターは契約を結んでやってるからな。その内容を変えようって言うんだ。高天原社に所属するナミには反対されるかも、と若干の不安はあったんだ。

まぁ、大丈夫だろうとも思ってたけどな。契約を一方的に破棄しようとか、非合法な方法を取ろうとしている訳じゃないし。今の所は。


「で、だ。俺としては高天原社にナミのテスター延長と買取を断られたが、そこをなんとか!って食い下がるぐらいしか手が思いつかないんだが、スーパーアンドロイドのナミさんには何か冴えたアイディアがあったりしないか?」

「ふふん。スーパーアンドロイドのナミさんの意見を言わせてもらうと、9月以降もソーマと一緒に居る方法は……思いつかない!」

「ぅおい!……とツッコミは入れたものの、まぁそう簡単にはいかんよなぁ」


自分が思いついていないのに、ナミが思いつかないことを責めるのは変な話だ。


「た・だ・し!ナミは思いつかないけど、分かりそうな方法に心当たりはあるよ!」

「マジか。で、その心当たりってのは?」


ふふん。と笑うナミから、画面共有のリクエストが飛んでくる。同意して開いたそのサイトのホーム画面を見て「ぐぇぇ」と鶏が喉を締められた様な声が俺の喉から漏れた。


「分からない事は、分かりそうな相手に聞く!高天原社のことなら『イザナギ』に聞いてみよう!」


ナミに見せられたのは、『万能生成AIイザナギ』のチャット画面だった。


◆◆◆


「よし、分かった。やれることはやれる時にやるべきだと決めたしな。俺も潔く覚悟を決めよう。ナミ、やってくれ!」

「……30分ぐらいウダウダ文句言ってたのの、どこが潔いいの?しかもやるのナミだし」

「……苦手意識ってのは、正論じゃ消えないんだよ」


イザナギは俺にとって、いや全クリエイターにとっての天敵だ。

まぁイザナギや高天原社が悪かと問われれば全然そんな事は無いというか、むしろめちゃくちゃ配慮してもらってるのは分かってるんだぞ?

でも実態(それ)と感情(これ)とは話が別だからさ。イザナギに触れただけで鳥肌立つもの。ほら見てみろよ、腕毛がスタンディングオベーションだぜ。


「はいはい。じゃあナミが聞いておくから。ソーマはナミの後ろに隠れててね」

「うん……頼むわ……」

「Heyイザナギ!ちょっと相談したい事があるんだけど……」


音声入力モードを起動したナミが、イザナギへと状況の説明をしているのを、ナミの背中越しに見守る。

ナミもすっかりデバイスを使いこなしてるな。音声入力機能なんて俺使ったことないぜ。早いのは分かるんだけど正確性とか修正性とかに問題ありそうで嫌じゃね?


「担当者にはソーマから説得してもらうから、それ以外の案考えて!なんかこう、スパッと全部解決してハッピーエンドロールが流れるやつ!」

「んな無茶な……」


イザナギの事なんだと思ってるんだよ。アレは単なる機械で神じゃ無いんだぞ。


「お?おおお?ソーマソーマ!これ見て!これ!」

「なんだなんだ……国造りシュミレーションVRゲーム『八百万の箱庭』で『イザナギの国産み祭』イベントに優勝し、賞品としてナミの購入権を貰う……?」


なんじゃそりゃ。

聞いた事のないゲームの話が急に出てきて、俺はナミと顔を見合せた。

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