11話 『八百万の箱庭』
『八百万の箱庭』は、所謂サンドボックス系のVRゲームだ。
例に漏れず高天原社が発売運営をしているこのゲームでは、各プレイヤーが自由に国を作ることができ、他のプレイヤーが作った国へ遊びに行くこともできる。
モンスターと戦闘出来る国、景観が良い国、ファッションを楽しむ国。国の特徴は作るプレイヤーによって様々であり、名の通り八百万の国が『八百万の箱庭』の中に存在している。
イザナギが建築のサポートをしてくれるため、初心者でも比較的簡単に好きな国を作れるらしい。
また、運営から定期的にイベントが実施されており、『イザナギの国産み祭』も定期イベントの1つである。
イザナギの誕生日である6月21日に合わせ、毎月の20日までに作った国をイザナギへ奉納し、21日〜28日まで高天原社の公式サーバーで投稿された国を展示する。展示された国へは誰でも遊びに行くことができ、参加者の投票で一番になった国を作ったプレイヤーは、高天原社のマスターサーバーに招待されて、イザナギに好きな物を作ってもらえる。
と言うのが、『イザナギの国産み祭』のイベント内容だ。今まで優勝者へ渡された賞品の内容もザックリとだが公開されており、その中には自分好みのアンドロイドの作製、購入権を与えられた人が居るようだ。
「つまり!!ソーマとナミでめちゃスゴイ国を作って、このイベントで優勝!そんで、高天原に行って、ナミをくださいってお願いすれば、バッチオーライってことだよ!」
「うーん。まぁ、事故の時も一晩で新しい義体に乗せ替えが終わってたしな。名目さえ立てば新しい義体にデータをコピーしたナミを貰えるのか……?だが、なぁ。国造りゲームなんて、俺もナミもやった事ないだろ?そんな上手く行くか?」
「やった結果上手くいくかなんて、やってみないと分かんないでしょ!とりあえずやってみよう!ダメだったらその時にまた考えればいいの!」
「うーん。百理ある。そうだな、今月分のイベントは明日から展示が始まるんだろ?今日は情報の裏取りと『八百万の箱庭』をプレイする下準備に当てて、明日展示された国を見に行かないか?」
「賛成!へっへっへ。敵情視察ってやつだね!」
腕が鳴るぜ!と柄の悪い事を言いながら腕をグルグル回しているが、殴り込みにでも行くつもりなのか?あながち間違いでもないか。
◆◆◆
「ヤオヨローズ!」
「どうした急に。ライバーの挨拶みたいな事言って」
「へへへ。なんとなくっ!」
なんとなくかー。それなら仕方ないな。
『イザナギの国産み祭』参加を決めた翌日。俺とナミは揃って『八百万の箱庭』へログインしていた。今は2人ともデッサン人形みたいな初期アバターでロビーに立っている。
ロビーはプライベートスペースなのでアカウントを連携した俺とナミしかこの場には居ない。
『八百万の箱庭』は基本プレイ無料で、ダウンロードすればデバイスだけでも最低限のプレイはできる。
よりスペックを求めるならば、ゲーミングPCを経由してデバイスでログインする方法もあるらしいから、必要であれば買うことになるかもな。よく知らんが七色に光るんだろ?
「それで、敵国はどこ?シュッシュッ!」
「『イザナギの国産み祭』の展示があるのは、あっちの方みたいだな」
「りょーかい!うおぉ突撃だぁ!たのもー!」
なんか妙にテンション高いと言うか生き生きしてるな。シャドーボクシングをしたかと思えば両手を上げて高天原のイベントスペースへ走っていった。
いつものナミならともかく、今は見た目がデッサン人形だから凄いシュールだ。
「ソーマー!なんかいっぱいあるよ!楽しそう!!」
「はいはい。リアルでは隣に居るんだから叫ばんでも聞こえるぞ」
VRを貫通してナミの叫びがリアルで響いたぞ。てか、敵対モードは5分持たなかったな。まぁ楽しそうにしている方がナミらしい。
VRで歩く感覚に、体が置いていかれるような独特な違和感を感じつつナミの元へ近づくと、今開催している『イザナギの国産み祭』の展示国一覧と、過去の優勝国の一覧が見れるようになっていた。ここから選んだ国を見に行けるようだ。
それぞれ国名と並んで製作者のプレイヤーネームも掲示されているが、名前の被りは見当たらない。『イザナギの国産み祭』では一度優勝した国の製作に関わっていたプレイヤーは殿堂入りとし、他の参加予定の国の製作には関われないことになっているらしい。
毎回お決まりのメンバーでの頂上争いを続けられたら新規が入りづらいからかな。イザナギへのお願いっていう固定の報酬もあるし、悪くないんじゃないか?来月の優勝を目指してる俺らにも有利だしな。
「うひゃ〜!なんか凄そうなのとか綺麗なのがいっぱい!ねぇねぇソーマ!どこから行く!?今日中に全部回ろう!」
「今日中はムリだろ。100個ぐらいあんだぞ。……そうだな、最初に行くならやっぱこの辺じゃね?」
数ある国の中から、1つをピックし、ナミへと見せる。
それは、アバターの装備の販売やキャラクリの補助を謳っている国だ。
やっぱ、いつまでもデッサン人形じゃカッコがつかないもんな。
◆◆◆
「見てみてソーマ!ほら、ソーマだよ!」
「おぉ、すげぇな。凄いが、アバターの外見をリアルの俺に寄せる必要あるか?」
「ある!その方がナミが落ち着くから!」
「……そうか、なら仕方ないか」
「うん!!」
ファッション系の国を訪れた俺達は、NPCの店員にキャラクリ方法を教わってキャラを作っていた。
いや、俺達と言ったが正確にはナミが2人分作っていた。
俺的にはここで無駄に時間をかけるよりも、適当なテンプレートセットを使用して国巡りを始めようかと思ったんだが、俺が提案した犬の着ぐるみ型アバターはナミに秒で却下され、ナミの手でオリジナルのアバターを作成された。
既に存在している物を既存パーツの組み合わせで再現するのはAIの得意分野だからだろう。
さほど待たずに作られた2人分のアバターデザインは、リアルの俺とナミの特徴を捉えつつも多少のデフォルメが加えられ、かわいさやカッコよさ、若さが盛られてる気がする。ぶっちゃけ悪くないな。
「素体はこれで決定!それじゃソーマ、服とか小物見に行こ♪」
「うげ、またファッションショーが始まるのか……?」
「もちろん!だってこの国はその為の場所でしょ?なら、楽しまないと!」
「……はいはい。お付き合いしますよ、お姫様」
「うむ!よきにはからえ!……えへへ。一緒に行こ!」
ナミが作ったアバターへと着替えた俺は、同じく着替えたナミに手を引かれて、様々なコンセプトのブティックが並ぶ通りへと繰り出す。
ま、今日はナミが満足するまで自由にさせてやろう。
少なくとも、ここなら車に轢かれることは無いしな。




