12話 とてもらしい
「それじゃソーマ、敵国をリスト順に偵察に行こう!」
「だな。あーでも、その前に……」
ファッション関係の国で服装を整えた俺達は、一旦ロビーへ戻っていた。
ナミはさっさと次の国へ遊びに行こうとしてるが、その前に一つだけやっておきたいことがある。
「その格好も似合ってるぞ。かわいいんじゃないか?」
「ほへ?」
今のナミの格好はフリフリに改造した明るい色の和服だ。
これがまた、現実のナミをモデルにしたアバターによく似合っている。
「珍しいね。ソーマが改まってそんなこと言うなんて。ふふん。ナミは完璧可愛い美少女アンドロイドですから!何着ても似合うのは当然だよね!ソーマもその格好似合ってるよ!」
「お、センキュー」
俺が来ているのはナミとは反対に落ち着いた色合いの着流しだ。腰に刀とか下げたら武士っぽく見えるヤツ。地味に気に入ってる。
「へへへ。んじゃ早速1つ目の国へしゅっぱーつ最初はここ!宇宙港ステラリスだって!宇宙戦艦に乗れるみたい!」
「早速和服とは縁遠いSFからだな。まぁいいか。行こうぜ」
「うん!」
ログインした宇宙港の国は、天井がガラス張りの巨大ドームみたいな場所で、ドームの外には宇宙が広がっているのが見える。
街並みはSFチックな流線型を多用した建物が並んでおり、ロボットみたいなNPCが歩いていたり、空飛ぶ車が走っていたりする。
なんというか、コッテコテの古典SFって感じだな。個人的にはもうちょいごちゃついたサイバーパンクな感じの方が好みだな。いや、この国も綺麗でいいとは思うけどね?
「ふぉぉぉ!ソーマソーマ!宇宙!地球見えるよ!あれ?あわわわわ!」
ドームに映る地球へ手を伸ばしてジャンプしたナミがそのままふわふわと宙へ浮かびだし、手足をジタバタさせて空中遊泳を試みている。
この国は重力の設定が変なのか?歩く分には違和感はないから、ジャンプすると切り替わるのかも。まぁ理屈はさておき。
「ナミ、手貸せ。よっと。迷子になるから慣れるまでジャンプすんなよ」
「ありがとうソーマ!でも、ふわふわしないとふわふわに慣れないよ?とぅ!ふわふわ〜!」
ふわふわと飛んでいこうとするナミの手を取って地に足を付けさせたのに、また宙の人になってしまった。
無重力っぽく見えるが存外自由に行動できるらしく、俺の肩の可動域限界を確かめるように、手を繋いだまま俺の周りをグルグルと回る。
……今俺もジャンプしたらナミと一緒にどこかへ飛んでいきそうだな。
それも楽しそうだと思ったが、この国の目玉は宇宙遊泳では無いのでやめておこう。100の国を巡るなら時間はどれだけあっても足りんからな。
「ほら、ゲームのスペースへ向かうぞ。あの真ん中のドームで宇宙戦のシュミレーションゲームができるらしい」
「進路オーケー。ソーマ号微速進!ゴーゴー!」
「あ、俺が引っ張って行くのね。はいはい」
背中から伸びるナミの腕が指す方へと、ナミの手を引いたまま微速前進で向かうのだった。
◆◆◆
「割と楽しかったな」
「ね!でも次はナミが勝つ!!」
「ふはは!俺に勝とうなど30年早いわ小娘が!」
「むきー!」
数時間後、俺とナミは並んで宇宙戦のシュミレーションゲームができるドームから出てきた。
俺はてっきり宇宙で戦うアクションゲームが出来るのかと思っていたんだが、実際は5隻の宇宙戦艦を指揮して戦う戦略シミュレーションゲームだった。
宇宙戦艦は艦ごとに、索敵範囲、機動力、射程、火力、耐久力が設定されており、味方艦の索敵範囲外は何があるか分からない状態で行うターン制バトルだ。
このターン制も中々に曲者で、味方艦全てのこのターンでの行動を決定後、敵味方同時に決められた行動を一気に行う方式だった。
下手に動いたら敵艦とぶつかって轟沈するわ、砲撃も範囲攻撃するか偏差射撃しないと碌に当たらないわ、そもそもマップが2Dじゃなくて3Dだから空間把握が大変だわ、の高難易度でめっちゃ頭使った。超楽しかったからまたやりたいな。
「もうちょっと観光していってもいいが、他の優勝国も見に行かないか?全部同じようなクオリティの高さなら楽しめそうだ」
「もちろん!えへへ。ソーマが楽しそうでナミも楽しい!」
「なんだそりゃ」
「いーの。行こ!」
◆◆◆
それから俺達は数日の時間をかけて、歴代の優勝国と今回のイベント参加国を全て回った。
ファンタジーな国では魔法を使った競技に参加した。
アニメ再現の国では2人とも元ネタを知らずに原作の視聴から初めた。
もふもふな国ではもふもふな動物に埋もれて昼寝をした。
メイスの国では武器をメイス縛りでモンスターと戦った。
ホラーな国では無敵のナミの後ろに張り付いて回った。
スポーツの国では俺も知らないローカルな競技を遊んだ。
忍者の国では天守閣へ巻物を盗みに入った。
サバゲーの国ではナミが無双してまったく歯が立たなかった。
無人島の国では生水を飲んで2人とも初日にリタイアした。
謎解きの国では『本当にそれで良かったのでしょうか?』に引っかかり爆死した。
他にも魔法少女になったり、探偵になったり、魚になったり、純粋に景色を楽しんだり。短期間で密度がとんでもない経験の洪水をワッと浴びせかけられた。
俺はAI嫌いから飛び火してVRもあまり好きではなかったんだが、若者を中心にハマる人が多い理由も納得だわ。
「これで全部の国で遊んだね!どこもす〜ごく楽しかった!」
「そりゃ何よりだ。で?俺達の目的は遊び回る事じゃなくて来月の『イザナギの国産み祭』で優勝するための敵情視察だったはずだが、色々見てきて、俺達が作る国の内容は決まったか?」
ぶっちゃけてしまえば、俺が筆を取って国を描けばそこそこいい線は行くんじゃないかと思っている。
優勝国を回った事でユーザー受けしそうな傾向はなんとなくわかったし、それを元に描いて、遊覧飛行のコンテンツでも付ければいい。
誰かに見せる為の絵は描かないと言うポリシーには反するが……そんな我儘を言ってられる状況でもないからな。
俺なら確実に1発優勝出来る!なんて大言は吐けないが、2、3回挑戦すれば一度は優勝できるクオリティにはできるはずだ。
だが……きっとそうはならないと思う。
「どんな国にするか、ナミが決めていいの?」
「あぁ。俺達が作るのはナミと共にいる為の国。つまり、ナミの為のナミの国だ。なら、ナミの作りたい国にすべきだ。だろ?」
「ソーマ……ありがとう!ナミすごい国を考えるね!」
「おう。頑張れ」
頭を捻りながら、うんうん悩み出したナミの姿に小さく笑みが浮かぶ。
さっきナミに言ったことも本心ではあるが、こうも考えていた。
新しく作る国の代表として名を掲げるならば、10年前に一度死んだ俺の名よりも、今を全力で生きるナミの名の方がずっと良いって。
そんな事素直に言えばナミも遠慮しそうだから言わないけどな。
「うーん……よし!ソーマ!どんな国がいいか決めたよ!」
「お、早いな。なら聞かせてくれ。アトラクション系か?それともファッション系?あるいは動物系とか?ナミは、何が作りたい?」
我ながら機械にするとは思えん質問だ。だけど、ナミならきっと―――
「―――全部!!」
きっとこうして、俺の想像を上回る事を言ってくれる。
「ナミね、ソーマと一緒に回った国がみーんな楽しかった!みんな好きになったの!だから、どれがいいかなんて選べない!選ばない!ナミは全部欲しい!全部作りたい!だから……お願いソーマ。ナミに力を貸して!」
「ははっ」
手を合わせて必殺のお願いポーズを取るナミに、思わず笑いが漏れる。
「あははははは!」
「そ、ソーマ?」
漏れた笑いが呼び水となって、気づけば腹を抱えて笑っていた。
何かを選ぶ、切り捨てるのはナミには似合わない。全部抱えようとする姿がとてもらしいと思ったから。
ナミが家に来てすぐの頃、オモチャを全部抱えて身動き取れなくて泣いていた事を思い出し、また笑いが漏れる
あの頃から、ナミの本質は何も変わっていない。だが、それでいい。それがいいんだ。
「ソーマー!何がそんなに面白いの!ナミは本気なのに!!」
「ふ、ははは。悪い悪い……んんっ。いいんじゃないか。美味しい所だけ盛り合わせた欲張りお子様セットみたいな国。しっちゃかめっちゃかでグチャグチャになりそうだが、それはそれで俺達らしいかもな」
「……!それじゃソーマ!」
「あぁ。俺も最大限手を貸すぞ。作ろうぜ、ナミの作りたい国を」
「いぃぃやったぁぁぁ!ソーマありがとう!喜びの舞〜」
「ぶはっ!なんだよその変な動き!あは、ははは!」
「ふにゃふにゃ〜、あはははは!」
俺とナミ、2人しか居ないロビーで、腹を抱えて笑い合う。
ただそれだけで、まだ何にも解決していないというのに、なんとでもなりそうな気になるのだから、人間って単純なもんだ。




