5話 空飛ぶサカバンバスピスモドキ
「うーむ。見事に食材が何も無いな」
俺の前で口を開く冷蔵庫には食べられそうな物は何も入っておらず、あるのは扉のポケットに入ったミリ残りの麦茶だけ。後で沸かしておかないとな。
「ソーマ?なにしてるの?冷蔵庫に食べ物が入ってた事なんて一度もないよ?」
「それは、まぁ、そうなんだけどな?ワンチャン何か入ってるかと思ったんだよ」
俺の食生活は毎日殆ど固定されていると言っていい。
朝食 ナシ
昼食 カップ麺
夕食 定期配達の冷凍オカズとご飯
以上。腹が減ってなければ昼食や夕食を飛ばすこともある。
だから冷凍庫を開ければオカズは入っているし、冷蔵庫に何も無くても困りはしないんだが……
折角家事用のアンドロイドが居るんだ。炊事をさせないってのも勿体ないだろう?
「よし、決めた。買い出しに行くぞ。ナミ」
「買い出しって……お出かけ!?行く!ワーイ!やった、やったぁぁ!!ふぅぅぅ!!」
外出の予定を告げられたアンドロイド……ナミは、謎ダンスをうねうねと踊って全身で喜びを現している。
あの日、アンドロイドに名前を求められたとき、俺はコイツに『イザナミ』と名を付けた。
『感情学習型アンドロイド1373号』。1373だからイザナミ。安直な名付けだが、生成AIイザナギを有する高天原社が作ったアンドロイドだと考えればピッタリだろう。
だだイザナミと呼ぶとあまりにも仰々しいので普段は『ナミ』と呼ぶことにしている。
「喜ぶのはいいが、はしゃぎすぎて迷子になるなよ。食材以外にも買いたいもがあるからな。サクサク回るぞ」
「はーい。でもでも、ナミはコーセーノーアンドロイドだから迷わないよ。むしろソーマの方が迷子になっちゃうんじゃない?ナミがおてて繋いでてあげようかぁ?」
「このガキャ……分かりやすく調子に乗りおって」
「へへへへーん。だって生まれて1週間だもーん。もんもーん♪」
テンション上がりすぎてせっかく学習した日本語が怪しくなっているナミを横目に、外出の準備をする。
しばらく外出していなかったからめんどくさがって伸ばしっぱなしの髭を剃り、服を外着へと着替える。
身支度を整えながらもデバイスのメモ帳を起動して買い物リストを開く。
細々とした物を除き、今回買いたいメインは3つ。
1つはさっきも言ったように食材。
次にナミの着替えの服。
最後にナミ用のデバイスだ。
ナミはアンドロイドだから人間の様に汗やら垢やらが出たりはしないため、着たきりすずめでもさほど汚れはしないのだが、見た目美少女のナミが簡素なワンピース一着しか服を持っておらず洗濯もしないと言うのは俺の気分的になんか嫌だ。
洗濯してる間裸で待たせるのも、俺の服を着せるのも変な気分になるので、これを機に数着ナミ用の服を買っておこう。
また、これは正直意外と言うか予想外だったのだが、ナミにはネットへの接続機能が付いていなかった。
テスト機故の情報漏洩防止の観点でスタンドアローンで運用しているのか?とか色々考えては見たが高天原社が何を考えているのかなんて俺が分かるわけがなく。分かるのは、ナミがネットに接続出来ないままでは色々と不便だと言う事のみ。
ナミは一度教えた事は大抵出来るようになるが、俺が教えられる事なんて限度がある。特に料理はさっぱり出来ない。
となると俺以外から情報を得るべきなんだが、俺の部屋には所謂モニターに当たる出力機が1つもない。一人暮らしならデバイスがあれば事足りるからだ。
ナミに俺のデバイスを貸すことも検討したが、常にデバイスを付ける生活に慣れてしまっているので、デバイスが無いとムズムズするし、他者へ貸すと言うのも心理的抵抗がデカイので止めた。
最低限のスペックのデバイスを契約して、2ヶ月後にナミが帰ったら契約解除して中古で売ればいいさ。
ぶっちゃけ今まで上げた全部は通販でも買えるんだが、アナログ人間である俺としてはどうせなら商品は直接見て買いたい拘りがある。
「ソーマー!まーだー!?」
「ちょっと待てって……うし、終わり。どうだ、男前か?」
「あっははは!ソーマ顔ツルツル!変なの!」
そりゃないぜ……
◆◆◆
「おぉぉお!!ソーマ、ソーマ!凄い!これなに!?あれは!?そっちは!?」
「これは電柱。あれは猫。そっちは……知らん。なんだありゃ、なんかのマスコットじゃね?」
「マスコット!凄い!飛んでる!」
「跳ねるな飛ぶな。ナミには飛行機能無いだろ」
恐らくドローンの類だと思われる、空飛ぶサカバンバスピスモドキに向かってナミがすっ飛んでいこうとするので、繋いでいる手を引っぱってなんとか大地へ引き止める。
家にいた時は冗談で手を繋ぐかと言っていたが、実際に外へ出ればナミは凡ゆる全てへ興味を示し最短で真っ直ぐに突っ走ってしまうため、俺が手を引かなければいつまで経っても目的地へ着かない事が判明した。
ナミにとっては生まれて初めての外出になるから、テンション上がるのは分かるが、美少女の形をしたナミと手を繋いで歩いているのに、俺の気分は完全に大型犬の散歩である。
「ソーマソーマソーマぁー!」
「聞こえてる、聞こえてるって。散歩なら今度一人でゆっくり歩いたらどうだ?今日の所は買い物を先に済ませに行くぞ」
「またおでかけしていいの!?あ、でも一人かぁ……。ねぇソーマ。ナミ、次もソーマと一緒のお出かけがいい。ダメ?(うるうる)」
「ヴっ……」
俺の前へと回り込んだナミが、上目遣いのうる目で俺を見上げる。ネットにも繋がっていないのにどこで覚えてくるんだ、こんな仕草。
「………………まぁ、ナミ一人だと帰って来れなさそうだしな。仕方ない、また一緒に行ってやるよ」
「ぃぃやったぁ!ソーマとお散歩だぁー!わーい!ひゅー!クルクル〜!」
「回るな回るな。俺の腕が捻れるだろ!」
見る度に思うが、ナミは顔が良すぎる。一般的に見ても美少女なのは勿論、俺の好みにもドンピシャリと嵌ってやがる。まるで、誰かが俺の好みを分析して設計したみたいに。
まぁ、そんな事する意味もないんだが。
「ほら、遊んでないで行くぞ。この角を曲がれば、目的地は目と鼻の先だ」
「どれどれ……わー!おっきい!頭が回ってる!」
「回ってるのは観覧車な。ここらで買い物をしようとしたら基本はあそこのショッピングモールだ。場所を覚えておけよ」
「うん!ソーマ!早く行こう、観覧車!!」
「……買い物に来たんだからな?遊ぶのは後だ後」
「えー!ヤダヤダヤダヤァーダァー!遊ぼー!!」
「はぁ……」
ナミを連れて買い物に行くのはまだ早かったか?だが、いつかはやらなきゃならんしな……。
まだ到着もしていないのに、ドッと疲れてるんだが、果たして今日一日俺の体力は持つのか???




