4話 PC番号順にキャラ紹介お願いします
「……寝たか?寝たな?ヨシッ」
草木も眠る丑三つ時。
では無く、夜9時の少し前の事。
布団に横になっていた俺は、アンドロイドがスリープモードになっている事を確認し、布団から起きあがる。
いつもはもう少し遅くまで起きているんだが、今日はグズるアンドロイドを布団へ放り込み、充電ケーブルを繋いでとっとと休ませた。
オマケにアンドロイドの耳には密閉型のイヤホンを差し込んで睡眠導入用の音楽まで流している徹底ぶりだ。
まぁアンドロイドに睡眠導入音楽が効果あるとは思えないが、映画館でとある作品のオーディオコメンタリーを聞く為だけに買った、お高いカナル型イヤホンだからな。ノイズキャンセル効果は間違いなくあるだろう。
「ふふふのふん♪っと」
布団から抜け出した俺は、椅子へと座り諸々の準備を始める。
これからの時間はとても重要なものだからな。アンドロイドに邪魔される訳にはいかない。
なんと言ってもこのアンドロイドは2ヶ月後には高天原社へ返送して、そのデータを開発に活用される訳だからな。見られて恥ずかしいシーンは隠れてやるしかない。
今からナニをおっぱじめるのかって?そんなの決まってるだろ。そら、時間だ。
「皆様本日はお集まり頂きありがとうございます。エモクロアTRPG『ハルフィリアのツバサ』初めて行きます。よろしくお願いします」
『『よろしくお願いしまーす』』
「じゃあPC番号順にキャラ紹介お願いします」
当然TRPGをやるんだよ。
TRPGはいいぞ。このタイパの時代と逆行するアナログゲームの代表格(俺調べ)。
卓メンと共にワイワイロールプレイをすれば、日々の育児で溜まったストレスやら何やらが溶けていくようだ。
シナリオはイツメンが持ち回りで用意する事にしているんだが、今回は俺が書いたエモクロアTRPGシナリオを持ってきた。エモクロアTRPGは判定のルールが分かりやすく初心者でも始めやすいのが特徴で、何よりルールブックがネットで無料公開されているのが(以下略)
◆◆◆
「『ようこそパトスへ。私たちは新たな戦士の誕生を歓迎するよ♪』」
「キララは満開の花のように笑って、そう言った」
「ここで一旦休憩入りまーす」
『了解でーす。ちょい離席っ』
『私も飲み物取ってきまーす』
「ごゆっくりー」
ふぃ〜。ここまでは凡そ予定通りに回せたか?まさかキーアイテムとして用意していた鉾と盾が、篭手とマイクに変わるとは予想出来なかったが、予想外こそがTRPGの醍醐味的なところもあるしな!
「んん、俺もトイレしてから、水汲んでこよ」
配信してる訳でもないし慌てなくてもいいんだが、気持ち的に待たせるのは申し訳ない。とっとと用を済ませて席へ戻らねば。
ミュートにしているとは言え、ボイチャを繋ぎっぱなしのデバイスをトイレに持ち込むのは気が引けるため、耳から外したデバイスを机に置いてトイレへ向かった。
「さて、次のチャートではマスターの初登場だな。好きなんだよなぁ。一見ちゃらんぽらんに見えるけど、実は信念のあるおっさんキャ……ラ……?」
次のチャートで初登場するおっさんキャラについてニマニマ想像しながらお茶を入れたジョッキを手に部屋へ戻った俺は、有り得ない物を目にして思考と動きが停止した。ジョッキをひっくり返さなかったのは我ながら偉いと思う。
「名前?うーん。『お前』?あ、『アンドロイド』!そうそう、そんな感じ!」
「な、なにやってんのぉ!?」
「あ、おはよー!」
おはようじゃないが?まだ夜だが?あぁいや、論点はそこではなくて。
なんで起きてんだ!?ノイズキャンセルイヤホンまで差したのに!ん?よく見たらアンドロイドの耳にはイヤホン刺さったままじゃね?なのに会話ができてる……まさか、アンドロイドのマイクって耳以外にもある?ありうる!コイツ機械だもんな!
「ええぃ代われ!……ごめんなさーい!うちのアンドロイドが!」
アンドロイドが指で摘んで持っていたデバイスを取り返し、耳に付けると同時に卓メンへペコペコ頭を下げて謝罪する。本当に、ウチのアンドロイドがご迷惑を!!
『いえいえ、大丈夫っすよー』
『ソーマさんも遂にアンドロイド買ったんですね』
「いや、買ったわけじゃなくて、テスターの仕事を受けてまして……」
「ねー!わーたーしーもー!私がお話するー!代わってぇー!」
「やめろ!しがみつくな登るな!あっと、ごめんなさい!ちょうどキリもいいので今日はここまでにさせて貰ってもいいですか?」
『もちろん。なんか大変そうっすけど頑張ってください』
『私もOKです。なら次回の候補日また投げておますねー』
「ありがとうございます!ではっ!」
デバイスを強奪しようと耳へ手を伸ばしてくるアンドロイドからデバイスを庇いつつ。なんとか穏便に通話を終える。はぁ、俺の癒しタイムが……
「たぁ!ゲット!まいったか!……あれ?聞こえない」
「もう通話は抜けたからな。おい、アンドロイド。そこへ座れ。お説教の時間だ。今日ばかりは泣いても喚いても許さんからな。覚悟しろよテメェ」
食事を取るのに使っているミニテーブルの近くへとドカリと腰を下ろすと、お楽しみを邪魔された俺の怒りを感じ取ったのか、見た事ない程のしおらしさでアンドロイドも俺の隣へ腰を下ろす。
こう言う時は対面に座るもんだと思うが……まぁ、いい。教えてない事は分かるはずがないからな。
「はぁ〜……さて、俺のデバイスを勝手に使った事は……俺の不注意だからいい。使うなとも言ってないしな。だが、その後。俺の体をよじ登ってデバイスを奪おうとしたのはダメだ。もし転んだら怪我じゃ済まなかったかもしれないんだぞ」
「だって……」
「……」
アンドロイドが何かを言いかけたが、しなしなと萎れるように口を噤む。
相手は人では無い。機械だ。感情的に怒鳴り散らしても誰に文句を言われるものでもない。
そう思って口を開きかけたが……なんとなく、待つことにした。
ほら、あれだ。ゲームで負けたからって周辺機器を壊すような奴はろくな奴じゃないだろう?
俺も大した人間では無いが、アンドロイドが言葉を探す時間を待つぐらいの度量はあるさ。
「だって、だってね」
「うん」
「……楽しそうだったから」
そう言って顔を上げたアンドロイドはキッと俺を睨みつける。
いや?微妙に目線がズレてるか、俺じゃなくて俺が耳に付けているデバイスを見ている?
「私と遊んでる時よりも、耳の機械とお話してる方が楽しそうだった!いっぱいお話して、笑ってた!耳の機械ばっかりずーるーいー!」
「……うん?」
なんか、こう、変じゃね?
耳の機械ってのはデバイスだろ?デバイスを使わせろって話……では無さそうだな?
つまり、あれか?俺がアンドロイドよりもデバイスと仲良さそうに見えて嫉妬したって?なんだそりゃ。
「ふっ、はは。いや、そうか。両方機械だもんな。まったく、高天原社はなんちゅうプログラム組んでるんだよ」
「えー?なに?なんで笑ってるの?」
「いや、なんでもない。いいか、この耳に付けてるのはデバイスと言って……あー説明が面倒だな、後で教えてやる。そんな事より、立っている俺の体をよじ登るのは本当に危ないからやめてくれ。お前達アンドロイドと違って人間の体ってのは傷つきやすい上に、壊れたからって修理すればすぐに直る訳でもない。転んで頭をぶつけただけでそのまま死ぬ事もあるんだ。いいな?」
「んー。分かった!ソーマが故障しないようにするね!」
「よし、いい子だ……待て、今なんて言った?」
聞き覚えのある名前が呼ばれた気がしたんだが。
「ソーマ!耳の機械……デバイスがそう呼んでたの!ソーマソーマ!あはは」
「いやまぁ、隠してた訳でもないしいいか……ほら寝るぞ。お前も充電の途中だろ」
「うん!」
俺が布団に入ると、アンドロイドも充電ケーブルを口に咥えてから布団へ入ってくる。
布団が一組しかないから仕方ないんだが、2ヶ月で使わなくなるのが分かってるのに、もう一組買うのもな……
「ねぇねぇソーマ。もう寝た?」
「……なんだ。色々あって疲れたんだが」
つらつらとどうでもいいことを考え、夢に落ちようとしている俺へアンドロイドが声を掛けてくる。その口には充電ケーブルが咥えられたままのはずだが、人間とは発声方法が違うからか声が籠っていたりはしない。
「私もソーマみたいに名前が欲しい。『お前』とか『アンドロイド』って、名前じゃないんでしょ?」
「……」
名前、名前か。正直言って、付けたくないんだよな。
俺は、アンドロイドが嫌いだ。AIと同じぐらい嫌っている。
俺は俺をそういう奴だと、認識している。定義している。
だがコイツに名前を付けてしまえば。
その他大勢の機械とは違う、特別な存在だと定義してしまえば。
俺と言う存在が揺らいでしまう気がして―――
「じゃあスタンプ!スタンプい〜ぱい集めたら、名前欲しいなぁ。おねがいっ」
「……いや、名前ぐらいすぐに付けてやるから、スタンプはもっと別の、自分のやりたい事に使いな」
「ほんと!?やった、やった♪」
だが、これは、無理だ。
名前なんて誰でも持ってる当たり前の物を労働の対価にする?
ふざけんな。俺はどんな鬼畜野郎だ。
これがアンドロイドに好感を持たせようとする高天原社のやり方だって言うなら完敗だよ。まったく。
「なんて名前なの?ねぇねぇ!」
「ちょっと待てって。んー。そうだな」
今まで考えないようにしていた事もあり、パッとは名前が出てこない。何か、名付けの取っ掛りになるものは……
と、部屋の中へ視線を移した俺の目にアンドロイドが入っていたダンボール箱が映った。あぁ、そう言えばこのアンドロイドの正式名称は『感情学習型アンドロイド1373号』だったか。
1373……はっ。とんでもない皮肉だな。だが、悪くない。悪くはないか。
「わくわく。わくわく♪」
「決めたぞ。お前の名前は―――」
――― 2040/07/01 0:00
――― テスター期間終了まで、残り61日




