2話 『アンドロイド 泣き止ませ方』
「きゃっきゃっ♪」
「ん、んうぅ、朝か……冷たっ!」
朝になり目が覚めた俺は、床に着いた手が濡れた冷たさで完全に目が覚めた。
なんで部屋の中に水溜まりが……あぁそうだ、昨日アンドロイドが目から排水して水浸しにしてくれたんだったな。
え、これ俺が片付けるのか?家事をさせる為にアンドロイドを貰ったはずじゃなかったか?
「アンドロイド。そうだ、アンドロイドは?」
「んぅ?」
アンドロイドを探せば直ぐに見つかった。
最初から着用していた真っ白なワンピースの裾と、長いピンクの髪の先を床に広げてペタリと座りこんでいるアンドロイドは、モゴモゴと動かしている口から黒いコードが伸びており、そのコードの先はコンセントに繋がってぁぁぁああああ!
「何やってんだお前ェ!!」
「ぴっ!?」
幼児の感電事故のニュースが脳内を駆け巡り、慌ててアンドロイドに近づいた俺は、口を開けさせてコードを出すと口の中の様子を確認する。
火傷には……見た感じ、なって無さそうだな。驚かせやがって……
「ひ、ひ……」
「あ、」
口内を確認し終えた俺とアンドロイドの目が合う。
クリクリとした綺麗な瞳が再び水を蓄えだし、そして、
「びぇぇぇぇん!!◎$♪×△¥○&?#!(判読不能)」
二度目の大洪水を起こした。
「うぉぉぉぉ!悪かった!ビックリしたよな!俺もびっくりしたんだって!」
「◎$♪×△¥○&?#!(判読不能)」
そのボディの何処にそれだけ貯水されているのか、アンドロイドの瞳から溢れる水は止まる気配がない。このままじゃ俺の部屋が水没しちまう!
「ええい、ままよ!」
「びぇぇ、ん、んぅ……」
俺は泣き叫ぶアンドロイドを抱き抱えると、その頭を左胸に付けるように固定した。
俺の服はビッショビショになるが、部屋が水没する事に比べれば安いもんだ。文字通りの意味で。
「よしよし。ちょっとビックリしちゃっただけだよな。大丈夫だからなー。泣き止んでくれー」
「んんぅ……」
この抱き抱え手法は、昨夜もアンドロイドを泣き止まれた実績のある手法で、今回で二連覇を成し遂げた、画期的手法だ。代償は俺の服と少女型アンドロイドを抱きしめる羞恥心。
『アンドロイド 泣き止ませ方』でググッた時にヒットした赤ん坊型アンドロイドのあやし方の1つだな。心音を聞かせるのがいいらしい。
……赤ん坊型アンドロイドなんて聞いた事も無かったが、どんなものにも需要ってあるんだなぁ。
「んぅ……すぅ……」
「はぁ……落ち着いたか。んで、何を咥えてたんだ?」
アンドロイドから取り上げたコードを見てみるが、コードの先は平べったい板か付いているだけの見た事ない形状をしている。少なくとも俺の部屋に元々あった物ではない。
となると、アンドロイドと一緒に送られてきた物って事になるが……
「すぅ……すぅ……」
「ええい動きずらい。まぁ泣かれるよりはマシだが……」
中高生ぐらいのサイズはあるアンドロイドを抱えたまま、湿った床をズリ移動してアンドロイドが入っていた箱に向かう。
なんか惨めな気分になってきた。なんで俺はこんな酷い目にあっているんだ???
「取説、取説……あった。付属品一覧……充電用ケーブル?はぁ〜ビビらせやがって」
そりゃ見た目が人間とそっくりだろうと、機械だもんな。充電は必要か。アンドロイドがこの板を噛むことで充電ができる、開発陣は誰か絵面にツッコミ入れなかったのかよ。あぁいや、そのためのテスターか。今のところ容姿以外は文句しかないが。
「そもそも家事や仕事の手伝いが出来るって触れ込みだっただろうが。むしろ邪魔しかされてないんだが」
機能の説明欄を探せ。あったあった。
「なになに、学習型アンドロイドー1373は、学習データが入ったチップを取り込む事で知識をインストールする。用途にあったカスタムが可能……あぁ、なるほどな。本当に初期設定を失敗してデータがスッカラカンな訳だ」
失敗したというか、勝手に起動して泣き出したんだがな。これも初期不良として報告書に書いておかないと。だるいな……
「んで、そのデータチップ入れがこれね。はいはいはい。これさえあればちゃんと起動できる訳だ。勝ったわ」
同封されていた筆箱サイズのデータチップ入れを取り出し、勝利宣言をする。とりま家事のデータを入れて、水浸しにした床と服と布団の掃除洗濯をさせよう。そうしよう。
びっちゃびちゃになった部屋の片付けに光明が見えた俺は、ウキウキでデータチップ入れを開ける。
中にはチップを保管するスロットが10箇所空いており、そのうちの1箇所だけにデータチップが入っていた。
「テスター版だし、データは一纏めにされてるのか?」
カスタムする気も無いし、今の赤ん坊状態が直って家事をやってくれるなら、なんでもいいか。
そう思ってデータチップを取り出せば、チップには判別用のラベルが貼られていた。
そのラベル曰く、
『日本語習得用』
との事。
「ん?……んんん?待て待て待て。日本語が習得できるのはいい。何時までも喃語で話されれても意思疎通が出来ないからな。だが……家事は?家事は日本語に含まれてる?んな訳ねぇだろ!」
一人暮らしの悲しき生体、セルフボケツッコミをかました俺は、慌てて取説を読み直す。
そして、こんな追記文を見つけてしまった。
『※テスター版では日本語習得用のデータチップのみ付属』
「詐欺じゃねぇか!タダで貰っておいて文句言うのもなんだが、もうちょっとサービスしてくれよ!!」
いや、高天原社の言いたいことも分かるぞ?データチップは別額のオプションだから、ニュートラルな状態のデータが欲しいんだろ?
だとしてもさぁ。もうちょっとオマケをつけてくれたって良くないか?具体的にいえば家事全般。
「はぁ、まぁいい。機械だけあって素の学習能力も高いっぽいし、教えれば覚えるだろう。ほら起きろ、コイツを読み込め」
「んぅ……?あー♪」
すっかり寝入っていたアンドロイドを揺すり起こすと、寝惚け顔で俺を見てニッコニコの笑顔になった。
なんだよもう。かわいいじゃないかよ。美人ってのはそれだけで得だよな。ズルいわぁ。
「で、このチップは何処に入れればいいんだ?……うなじにソケットがある?ちょっと後ろ向いてろよ」
「うぁー♪」
片手で抱えていたアンドロイドを背中を向くように座り直させ、後ろ髪をかき上げる。
現れた白い肌をよく見てみれば、確かに長方形の蓋が付いており、スライドさせる事でデータチップを挿入するソケットが現れた。
「なんと言うか、こう言う機械部品を見ると、ちゃんとアンドロイドなんだって実感するな。いや、最初からアンドロイドではあったが」
「あー?」
「いや、何でもない。ほら、入れるから前向いてろ」
「あぃ!」
顔を上に反らせて俺を見てきたアンドロイドの頭を抑えて前を向かせる。
えーっと、このデータチップって裏表とかないよな。入れてみれば分かるか。南無三!
「あ、あ、あ……」
「おい、大丈夫か?」
データチップをアンドロイドのうなじに差し込むと、アンドロイドがカタカタと震え出した。心配になってアンドロイドの正面に回り込むと、目の焦点が合っておらず、よく見れば瞳の中に無数の文字が流れている。
これは、インストール中ってことでいいのか?
「あ……あ!」
数秒待つとアンドロイドの瞳の文字は消え、目の焦点も俺と合った。インストールが終わったか?
「どうだ、俺の言葉はわか―――」
「あそぼー!」
「どわっ!」
アンドロイドの記念すべき第一声は、俺へ飛びかかりながらの「遊ぼう」であった。
おい、これ悪化してないか!?本当に家事ができるようになるだよな!?




