07 学園生活のはじまり
「マイヤ様!」
意気揚々と学園の門をくぐるクリス。
入口横の掲示板の前に幼馴染の女子生徒を見付けた。
『建築』フォンス侯爵令嬢 マイヤ・ラグナ。
『建築』と『芸術』は切っても切れない関係だ。
建物には必ずガラスが嵌め込まれる。
『建築』には『建築』の飾り気のない板ガラスの工房はある。
だが装飾の多いバラ窓などのステンドグラスや、照明のガラス製品は『芸術』が担当する。
その為、二つの部門は領地が接している。
クリスとマイヤは親と一緒に行き来する機会が多かった。
クリスに気付いたマイヤは軽く手を振り、笑顔を見せた。
二人は軽く挨拶を交わし、お互いの制服姿を見比べる。
ほっそりと高身長、ダークブラウンの髪に透明感のあるヘーゼルアイのマイヤ。
その逆にクリスの小さく庇護欲を駆り立てるような愛らしさ。
「同じ制服とは思えないくらい印象が違うわ。素敵」
クリスがため息をつく。
「ふふ、貴女は可愛らしくていいじゃない。私こそ羨ましいわ」
マイヤは苦笑した。
掲示板には成績上位者からクラス分けが貼りだされている。
クリスは入学試験で三位。
成績上位者のクラスでのスタートだ。
「クリス様。あなた学年三位ですって?」
「そうみたいね。上はどなたかしら」
「確か一位が『司法』、二位が『医療』だったかしら。あなたみたいな成績優秀者は狙われるわよ?」
学園は学業の他に、まだ婚約者のいない上位貴族が縁組する相手を探す場でもある。
成績の良い血筋を取り込みたい者たちが多数いる。
「ああ、厄介事が増えそうな事は言わないで。私は王城勤めが出来ればそれでいいのよ」
クリスは眉を下げた。
クリスは出身の部門である『芸術』の成績はもとより、将来の夢に向かって勉強に力を入れていた。
彼女の夢はただ一つ『王妃様をガラス細工で輝かせたい』だ。
その為には社交での話題作りも大事だ。
洗練され計算された芸術性、流行への理解などあらゆる知識も必要だろう。
ガラス細工を広める為の情熱は誰にも負けないと自負していたが、それだけでは足りない。
幸い三学年に未来の王妃、ミニュスクール公爵令嬢が在籍している。
今のうちからお近づきになりたい。
──アルドー殿下に橋渡ししていただかなければ!
クリスは教室の前でぐっと拳を握りしめた。
入学式は式典広間で行われた。
生徒代表の祝辞にアルドー第二王子が現れ、女子生徒の目は釘付けになっている。
クリスだけはそんな事はお構いなしに、考えに没入していた。
──瞳の色は濃紺。
金粉を少し散らして、カット面は多い方が映える?
むしろなだらかにした方が⋯⋯⋯?
台座に王家の象徴のマグノリアの花弁を模るとして、髪の胡桃色を何処かに入れる⋯⋯?
ふと気付けばアルドーが舞台から降りようとしていた。
祝辞は上の空で何も聞いていなかった。
ガラス細工の事となると、そちらに集中してしまうのがクリスの悪い癖だ。
「気をつけないと駄目ね」
苦笑いを浮かべてアルドーの後ろ姿を見送った。




