06 少女の父は心配
ガーデンパーティでの一幕は、ノア・アンバーブロウにとって何とも頭の痛い出来事だった。
勿論娘に非はないし、コルデラ卿にも咎められることもなかった。
が、あの双子の存在が頭痛の種だ。
リビングのソファに腰を下ろし、娘の帰宅を待つ。
視線の先には玄関の扉。
開かれたそこから、ほんのり頬を赤くしたクリスが姿を現した。
手招きして呼び寄せた。
「お父様、お呼びですか?」
「ああ、昨日の事で少しね」
目に見えてクリスの顔が暗くなった。
ノアが眉を下げる。
「お前を叱るつもりはないよ。コルデラ卿からも労りの言葉を受けている。同じ物をもう一度、と。お前は学園の準備があるから私が手配しよう。私が卿に直接渡すから安心しなさい」
「ありがとう、お父様。できれば顔を合わせたくないの。嫌味を言われるから。私を馬鹿にするのは勝手にしろと思うけど、職人のみんなに迷惑がかかるのが我慢出来ないわ」
「困ったものだよ。あの子達はクローステールを男爵家だからと馬鹿にしているようだ。自分達の伯祖母がこちらに輿入れしたというのに。しかもジュールはお前と婚約したいなどと言っているらしい」
「え? 意味がわからないわ」
ガブリエルの父である先代コルデラ侯爵とノアの母は兄妹。
二人は従兄弟同士で同い年、幼い頃からかなり気安い関係だ。
「ああ、私もだ。母が輿入れしているのにお前があちらに行くと、他の分家から文句が出る。コルデラ卿も同じ考えだ。学園では気を付けなさい」
「はい。なるべく接触しないようにするわ」
次期当主と意気込むのであれば主家として『芸術』一門の繁栄に努めるべきだ。
そもそもクリスにその気などまったく無いのが見て取れる。
一体何を考えているのか、とノアは頭を抱えた。
「それはそうと、第二王子殿下から依頼を受けたとか?」
「はい。ブローチか何かを作って欲しいと。入学式の後にお会いする予定です。一部始終を見ていらしたようで、同情してくださったのかと⋯⋯」
アルドー第二王子は下心があるのか?
計りかねてノアは首を捻る。
だが、王家に伝手が出来るのは良いことだ。
クリスの手腕に期待しよう。
「なるほど。では全力で臨みなさい。そして大いに宣伝してきなさい! 我がクローステールのガラス細工を!」
「しょ、承知しました。では部屋に戻りますね」
「待ちなさい、クリス。街まで走って行ったそうだね? 侍女が言っていたよ」
クリスを呼び止め、苦言を呈す。
「馬車で行くには道も狭いし⋯⋯」
ブジェフの街では誰もがクリスを領主の娘として大事に扱ってくれるが、王都ではそうもいかない。
ましてや十五歳の貴族の子女が、侍女も連れずに出歩くなど体裁も悪い。
「これからどこへ行くにも侍女と一緒に移動しなさい。徒歩でもだよ。お前はもう小さな子供ではないんだ。ジュールの事もあるしね。タウンハウスにもお前付きの侍女のロミを連れていきなさい。社交シーズンだ。私も後から行くよ」
学園に寮はあるが、タウンハウスがある者はそこから通うことが出来る。
クローステール男爵家は社交の時期でない冬にも王都での商談が頻繁にある為、規模は小さいがタウンハウスを所有している。
「わかったわ。お父様」
そして三日後、ロミを伴ってクリスは王都入りした。




