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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第一章

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05 駆け抜ける少女

 ガラス細工の工房が立ち並ぶ街『ブジェフ』。

 ふわふわのピンクブロンドを風に流し、クリスは駆け抜ける。


「お嬢! 今日はどちらへ?」

「いいグラスが出来たよ! 後で寄ってくださいよ!」

 職人たちが顔を出しては声を掛ける。


「わかったわ! 後でね。今日はグラスビーズのヤクブさんの所よ!」


 息を切らせて向かう先はグラスビーズを得意とする工房。

 ずっと待っていた新作が完成したとの一報。


 今主流のビーズは鋳型でプレスしたものを、カットした後に表面を研磨する。

 サイズが大きめで用途が限られる。


 だがクリスが工房に依頼したのは、細い吹きガラスのビーズ。

 コルデラ公爵領中央の図書館で、開拓当時の古い本から見つけた。


 

「ヤクブさん、こんにちは。」

「やあ、嬢ちゃん。さっそく見るかい?」


 クリスを迎えた初老の男は、深く皺の入った顔に笑みを浮かべた。

 溶鉱炉などが暑いせいだろう、頭にスカーフを首にはタオルを巻いている。

 工房内の隅に設えたテーブルの上には、色とりどりの小さなビーズが並べられていた。


「これが切る前の筒。こっちはカットしたもの。ここまで来るのに時間は掛かったが、どうだい?」


 クリスは差し出された直径二ミリ程の細い管と、それを直径と同程度にカットした粒の二種類。

 どちらも手に取り、矯めつ眇めつ観察した。


「とても素晴らしいわ。こんなに細くガラスを吹けるなんて! ヤクブさん、凄いわ! カットも綺麗。糸を通して編み込めばシートが作れるわ!」

 クリスは浮き立つ心が抑えられない。


「それは良かった。これはサンプルだ」


 ヤクブは満足そうに笑みを浮かべ、瓶詰めにされた数種類のビーズをクリスに手渡した。

 太さと長さは同じだが色が何種類かに分かれている。


「ありがとう。これを学園に持って行って自由時間に何か作ってみるわ」

「もうすぐ学園か」

 工房長は感慨深そうに目を細めた。

 初めて会ったのはまだまだ小さな女の子だったのだから。


「ええ、三日後にね。王都のタウンハウスから登校するの。だから次は夏の休暇になってしまうけれど、必ず来るわ。私には夢があるから」

「わかった。嬢ちゃんが納得出来るように、このシードビーズの完成度を上げるとしよう」


「お願いね。んー、やる気出るわ!」

 両手の拳を握り、高く掲げた。


 


 ヤクブに別れを告げ、途中で声を掛けられた工房に顔を出す。


「新作です。お嬢様」

 青いカットグラスのタンブラーを差し出された。


「ありがとう! あっ、第二王子殿下にお会いするの。差し上げてもいい?」

「えっ! 王家の方に!?」

「こんなに美しいんですもの! 自慢のガラス細工を見ていただくわ!」


 恐縮する職人から受け取った。


 


 ──アルドー殿下に差し上げる時は、『虹の蜘蛛』のハンカチで包むといいかな?

 弾む心を押さえて、雑貨店に急いだ。


『虹の蜘蛛』の糸は、その名の通り蜘蛛が紡ぐ糸。

 糸を撚ったものを織れば、虹色の光沢を持つ布地になる。


 コルデラ侯爵領で織られる布地は質が良く滑らかで、王族や貴族の典礼用などの衣服に使われる。

 少し品質の低いものは一般用に加工され店に卸されているが、それでも十分に美しいものだ。


 アルドーの瞳の色の紺色に染められた『虹の蜘蛛』のハンカチと白いリボンを手に取る。

 青と白のメッセージカードを添えて。


 クリスはちょっとだけ頬を染めた。

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