04 少女は王妃様を輝かせたい!
「お嬢、見ててご覧なされ。熱いから気を付けてな」
「うん!」
長い棒の先には透明な丸いかたまり。
横に向けて手元だけ台に乗せる。
台に乗せた手で棒を転がすように、ぐるっと回す。
その先っぽに半透明の赤っぽい黄色の、とろっとした熱々な液体を乗せていく。
まん丸になった液体にトントントンと横から溝を付けたら、トングみたいなので潰してきゅーっと伸ばす。
あっ! お花が出来た!
今度は模様が入った金属の板に熱々をすーっと流す。
上からぽんぽん押して、ぐいーっと伸ばすと葉っぱみたいな形になった。
キレイ! キレイ! すごい! ぴょんぴょん跳ねちゃう!
「お嬢、楽しいか?」
「とっても!」
クリスが初めてガラス工房を訪れたのは八歳の時。
父と共に見たこの光景はずっと忘れられない。
でも、それと同時に、五日前の悲しい出来事も思い出す。
夜半、カントリーハウスの寝室でベッドに入っていたクリスと弟のエリオット。
階下の大きな物音で目覚めた。
男数人の怒声と、──母の悲鳴。
咄嗟にエリオットのベッドへ走り、小さな弟を抱きしめた。
年長の侍女が部屋に飛び込んで来て、二人を階上の空き部屋に隠した。
しばらくすると邸に会合出席で留守だった父が戻り、二人は空き部屋から解放された。
父の引き結んだ口が事の深刻さを表しているようで、クリスは不安に襲われた。
「お母様が連れ去られた。これから情報を集めるから君たちは休んでいなさい」
父は侍女に二人を託すと、再び慌ただしく出て行った。
クリスの母は『内務』マールム公爵に連なる男爵家の娘であった。
学園で父と出会い、同じ男爵位である事から家同士では障害もなく結婚した。
『内務』一門は総じて学力が高い。
彼女も漏れなく優秀であった。
将来は文官として王都で働く事を『内務』主家から期待されていた。
そんな中、彼女は彼らが軽んじる『芸術』一門の、しかも男爵家に輿入れしてしまった。
頭脳の流出に激怒したが、彼等は体裁を気にしてすぐに動くことはなかった。
二人の子が物心がつくまで『内務』は待った。
そして、あの連れ去り事件を起こした。
両親は離婚に追いやられ、母はそのまま『内務』一門の者と結婚させられた。
噂では王城の文官として働いているらしい。
それらが時が経つにつれて少しずつクリスの耳に入って来た情報だ。
クリスは優しい母が大好きだった。
──いつか会いに行きたい。
所在を知ったクリスは、将来王城に出仕する事を決意した。
王妃のアクセサリーデザイナーとして。
「私は王妃様を輝かせたい!」




