49 次世代の誓い
星降る夜空に浮かぶ天燈。
聖女ソフィア像を仄かに照らす噴水の周りにたゆたう、ランタンの温かな灯り。
人々はただ緩やかな祈りの中で空を見つめていた。
「なあ、あれ、どうするの?」
遠巻きにアルドーとクリスを見守っていた生徒会役員の中で、最初に口を開いたのはイシャーンだった。
「どうって?」
肩に寄りかかって来たイシャーンに、エミリオは視線を送る。
「君、先代に命令されてるんだろう? 籠絡しろって」
「出来るわけないだろ。あんなに幸せそうなのに。フリだけでも昨夜殴られるかと思ったよ」
「だよなあ」
イシャーンは首をすくめ、ニヤリと笑う。
叔父リカルドが王家に保護され状況が変わった。
エミリオには先が見えない。
元々、籠絡するつもりなどなかったが。
「そのまま、フリをしてもらえると助かりますの」
背後からセーレナの声がかかる。
「クリス様に交際を迫っている、というパフォーマンスをして欲しいのです」
「パフォーマンス?」
エミリオは聞き返す。
「先代様が区切った残る五ヶ月、秋の『部門別発表会』頃迄かしら? お二人の目眩ましをして頂きたいの。先代様への言い訳に出来るでしょう?」
セーレナの提案の真意が解らず、エミリオは眉をひそめる。
「理由をお伺いしても?」
イシャーンが臆する事なく問う。
「その間にわたくしがクリス様を鍛えます。上位貴族に対抗する術を余すことなく教え、王族に相応しい淑女にします。⋯⋯彼女は覚悟を決めました」
「ははぁ、成る程。僕も協力します。未来の公爵夫人を支えましょう」
イシャーンがセーレナに向かって胸に手を当て頭を下げた。
下を向いているが、エミリオからは計算高い笑みを浮かべているのが見える。
セーレナは扇で口元を隠し、片眉を上げた。
「⋯⋯見返りはあまり期待しないで頂きたいわ。今は何も用意出来ないから」
「ふふ、先行投資です。アンバーブロウ嬢のガラス細工を売り出すのに尽力しますよ」
「⋯⋯心強いわ。わたくしだけでは難しいと思っていましたの。エミリオ様は申し訳ないけれど、ずっと振られ続けて下さる?」
エミリオはふう、と一息ついてから、背筋を伸ばす。
「承知しました。王家の為にご奉仕致します。⋯⋯ただ昨夜、状況が変わりました。半年より早まるかもしれません」
セーレナは、ふむ、と一息ついて、事も無げに言った。
「そう、ならばわたくしたちが卒業する迄ですわね。その後はどうにでもなるでしょう」
「場合によっては叔祖父の家に爵位が移るかも⋯⋯。僕も学園にいられるかどうか」
「確かにマールム公爵位のお取り潰しはないでしょうね。でも、罪を償うのは先代様ですわ。貴方はむしろ協力者として何らかの措置はあるのではないかしら。⋯⋯今は何もかも不確かね。どのみち貴方は、振られ続けて下さる以外ないわ」
にっこり。クラーワ直伝の圧の強い、輝く笑顔。
「⋯⋯重ねて誓います。王家の為にご奉仕させて頂きます」
こうして将来の公爵夫人を育成するために、未来を支える『財務』、『商務』、そして『内務』が手を取り合った。




