47 透かし入りのランタン
「では、明日。午後のパレードで混雑する前に、生徒会室で集合しよう」
アルドーのその言葉で『お披露目』後の片付けは終了した。
クリスはコルデラ侯爵夫人からの憎悪に対する言い知れぬ胸のざわめきに、身体が重く感じた。
父ノアは本当に何気ない気遣いだったのだと思う。
そういう人だ。それがどうしてこんな事になってしまったんだろう。
そんな思いばかりが心の中で繰り返されている。
「クリス様、ドレスもありますし、家まで送らせてくださいな」
気付くとセーレナが自分の顔を覗き込んでいた。
少し心配そうな、そんな笑顔。
栗色の髪がサラリと流れて、思わず見惚れる。
「明日の『リスエルン祈念』の事で相談したい事もありますの。クローステールのお店のランタンを拝見したいわ」
「憂いが一つ片付きましたわね。双子の今後が心配ですけれど⋯⋯ね」
馬車に乗り込み、セーレナが切り出した。
確かに逆恨みをされそうな予感はする。
コルデラ卿の憔悴が気になった。
「それより『リスエルン祈念』ですわ。わたくし、今まで一度も参加した事がございませんの。クリス様は?」
「私は母がいた頃に一度だけ。とても綺麗でした。⋯⋯ランタンが」
その頃はまだ自領の産業がガラス工芸とは知らなかったが、温かな光のランタンの瞬きが美しかったのを憶えている。
「ふふっ。やっぱりガラスの方なんですのね。邸の者に聞いたところ、夜はまだ少し肌寒いからケープが必要だとか。なのでわたくし、皆さんの分をご用意しましたの。揃いの色で護衛が見分けられる様に特殊な糸で刺繍を施して」
セーレナは勿論、アルドーは王族。
クリス以外は上位貴族だ。
常に気を配っているに違いない、そうクリスは感心する。
「では、私はランタンをご用意致します。お勧めの、他とちょっと違うものがあるんです。店にご案内致します」
場所を告げると、小窓を開き御者に行き先を指示した。
庶民で賑わう中央通りから少し離れた、貴族街に近い店舗だ。
さほど混んではいないだろう。
何代か前、コルデラ侯爵家から自ら平民になった男性が開いた店。
セーレナを案内しても失礼はない。
「楽しみだわ」
「お嬢様、いらっしゃいませ。ご友人でいらっしゃいますか? ようこそおいで下さいました」
店主は貴族を相手にする事も多いので、相応の礼儀作法を心得ている。
「『リスエルン祈念』のランタンはあるかしら? 八つ必要なのだけれど」
そう告げると、形状の同じ三種類のランタンを取り出した。
透明なガラスのごく一般的なもの。
青い色ガラスの嵌め込まれたもの。
最後はマグノリアの花が透かしで入ったもの。
店主はランタンの中の火を灯し、店の灯りを暗くした。
「まだ外が明るいですから、見え方が少し変わりますが。いかがでしょうか?」
セーレナは感嘆の声を上げ、ひとつひとつを手に取る。
「選べないわ」と声を潜めて言う。
このマグノリアの透かしは他では作っていない。
そう言って、クリスは壁に模様を映しながらセーレナを見る。
「まあ、そうなの? では、そうしましょう」
セーレナの了承を得て、クリスは店主に支払いと配送を男爵家宛で頼む。
それとは別にひとつずつ、プレゼントに欲しいとそっとお願いした。
店主は頷き「ご用意でき次第、お邸に伺います」と深々と礼をした。
店を出て連れ立って馬車へ歩みを進める。
馬車に乗り込むとセーレナが口を開く。
「クリス様、少しお話したい事がありますの。お時間いただけないかしら」
「私も折り入って相談したいのです。少し我が家でおもてなしさせて頂けませんか?」




