46 リスエルン祈念
次々にエミリオ、フリア、フラッハが、最後にイシャーンが現れ生徒会役員が揃った。
アルドーは多少のトラブルはあったものの、『お披露目』を終えた事を労う。
セーレナが人混みでもそれと分かるように、ワンポイントの刺繍が施されたフード付きのケープを一人一人に渡す。
次いでクリスが『リスエルン祈念』用の小さなランタンを配った。
ブジェフで作られた、マグノリアの透かしが入っているランタン。
王城から飛ばされるランタンは、枠を細工のしやすい靭やかな木製で紙の覆いのある軽いもの。
市民たちが噴水広場へ持ち寄るものは、小さなガラスのランタンだ。
イシャーンとエミリオを先頭に雑踏の中に踏み込んで行く。
じき国王と王妃のパレードが始まるため、民衆は一目見ようと場所取りを始める。
アルドーたちはそれを横目に噴水広場へ急ぎ、あまり目立たぬ位置を選んだ。
時々雑踏の中でくぐもったうめき声がしては護衛が戻る。
護衛に聞けば「ただの酔漢です」と言うが、アルドーは信用していいものか訝しんだ。
イシャーンも「うちのが周りを囲んでますから大丈夫ですよ」と事も無げに告げる。
セーレナも「我が家からも来ておりますわ」と花のような笑顔を零す。
クリスは周りの人間は全部護衛なのでは? と疑問に思った。
パレードは噴水に沿ってぐるりと廻り、観客が手を振る中折り返していった。
その後をついて行くように、人々は酒場へ向かう者、家路に就く者、そして静かに噴水前で『リスエルン祈念』を待つ者と、三々五々散っていった。
「何か召し上がるなら、あの屋台でどうぞ。うちのなんで安心ですよ。あ、あと、あそこの小物屋も」
イシャーンが商売人の顔で笑う。
自分を含め全員の命に配慮しているのだろう、心配りに感謝する。
小物屋を勧めるのは何とも抜け目ないが。
周りを見ると自分とクリス以外は少し離れた所で談笑していた。
その配慮にも苦笑いしつつ、感謝だ。
「クリス、何か食べるかい?」
クリスの右手を掬い取る。
驚きつつ、顔をアルドーに向け、躊躇いがちに首を振る。
アルドーはイシャーンの指差した小物屋へ向かった。
「クリス、この君の瞳の色のネックレス。貰ってくれる?」
ほんの小さな紫水晶が付いたネックレスを指さす。
イシャーンの思惑が透けて見える品揃えで、値段も重くならない程度の小さな鉱物のついた物ばかりだ。
「⋯⋯でも、申し訳ないです」
消え入るような声でクリスは呟く。
「今日の記念に贈りたい。ここにあるガラス製品だと、きっと君はどこの工房のものか判ってしまうのだろう? だから、このネックレスを⋯⋯贈りたいんだ」
押し付けがましい気もするが、どうしても今贈りたい。
クリスは小さく頷いた。
王城の聖堂の鐘の音が鳴った。
『リスエルン祈念』が始まる。
人々は手に持ったランタンに火を灯し、丘の上の王城に身体を向けた。
アルドーはクリスへ顔を向ける。
「クリス、私は春のパーティで君を見かけた時から、ずっと君に惹かれている。出来ればずっと一緒に生きていきたいと思っている。⋯⋯君の美しい瞳に魅入られてる。君自身にも」
クリスは一瞬驚き、その後なんだか躊躇うような顔つきになった。
「私を可哀想な娘だからそう思うのではないのですか?」
アルドーは胸が痛んだ。
「いいや、君はとても強くて、そして優しい。努力家なのも知っている。⋯⋯何より笑顔が好きなんだ」
「⋯⋯嬉しいです。とても。でも⋯⋯」
「君の事を王族の相手として、相応しくないと言う奴が出てくるかも知れない。だから君に今以上の努力を課さねばならないだろう。それでもなお、というのは私の我儘なのは解っている」
必死に言い募るアルドーの繋がれたままの手を、クリスがぐっと強く握りしめた。
その時、噴水前の人々から歓声が上がった。
「殿下、ほら見てください。王城から天燈が上がりましたよ。願いは決まりましたか?」
アルドーは空を仰ぎ見る。
淡い光に浮かぶ噴水と、観衆の持つ暖かい色のランタンの光。
満天の夜空には数多の瞬く星々。ふわりふわりと移ろいながら飛ぶ天燈。
そして、左手のぬくもり。
「私は決まりました。それは⋯⋯」




