45 王族として
夜半まではしゃいだ三人は夜明けと共に起き出し、エミリオとフラッハは街が混雑する前に帰宅した。
昼過ぎに生徒会室に集合し、前日の『お披露目』の片付けの残りを済ませる予定だ。
その後、国王と王妃のパレードが始まる前に公園に向かう。
湯浴みし、身なりを整えたところで「朝食を共に」という国王ベニニタスの招請を受けた。
急ぎ食堂へ向かうが、まだ誰も到着していないようでアルドーは安堵した。
待つことしばし、国王と王妃が連れ立って現れた。
少し遅れて王太子も姿を現す。
アルドーは立って臣下の礼を取り、三人を迎えた。
各々が席につき、国王の合図でパンケーキ、フライドポテト、ソーセージ、スクランブルエッグ、フルーツなど重めの食事が並ぶ。
「アルドー、リカルドだが⋯⋯」
ベニニタスが口を開く。
肋骨にヒビが入り、過去にも複数回殴られた痕が残っているという。
今は眠って古代機械の調整槽に入って治療を施されていると、医療室から報告を受けた。
「エミリオから聞きましたが、精神的にもひどく疲弊していて、投薬を受けているようです。それと、宰相殿は沙汰を待つそうです」
「そうか。いずれにしてもジュゼッペを召喚せねばならんな」
ベニニタスは未成年はここまで、と話を切った。
「『リスエルン祈念』は噴水広場に行くのだって?」
王太子クレプスクルムが少し眠そうにパンケーキにナイフを入れながら、アルドーに話しかけた。
透けるような金髪にアイスブルーの瞳、ベニニタスによく似た大ぶりな顔付きだ。
「ええ、成人前の最後の自由なので、みなと一緒に。セーレナも来ますよ」
「ああ、彼女も式はまだだが、来年はこちら側だからな。楽しんでくるといい」
素っ気ない態度にアルドーは一抹の不安を感じた。
クラーワも気になるのかクレプスクルムの様子を窺い見るのが見えた。
「はい、兄上」
食事を終え、上位の三人をアルドーは見送る。
一度退室したクラーワが少し眉を上げながらアルドーのもとへ戻ってきた。
「噴水広場に行くのでしょう? クリスも一緒ね?」
首肯するとクラーワは続けた。
「今回の事が明るみに出る様な事があれば、キアラの娘と言うことで何らかの反発はあるでしょう。それでもなお、貴方がクリスを望むなら、彼女にはそれ相応の努力をして貰わなければならないわ」
驚きと共に現実が押し寄せてきた。
キアラは利用されたとは言え、悪事に加担した事は言い逃れできない。
爵位が低いと詰る者も出るだろう。
「セーレナの横で実績を積ませなさい。誰もが認めるような。時間は掛かるでしょうが、それで仲が壊れるならそれまでの相手という事よ。⋯⋯いいわね?」
「はい、母上」
王族であり、後にサピエンティア公爵を叙爵するという、重さ。
思い至らなかった自分に忸怩たる思いが浮かぶ。
クラーワはそのまま衣擦れの音を残して食堂から去って行った。
まだまともに思いを告げたことは無い。
受け入れられるかすら分からない。
「でも、クリスと共にいたい」
ざわつく胸を抱え、アルドーは学園へと向かった。
生徒会室のドアについた鍵穴に、アルドーは懐から出した鍵を差し込む。
カチリ、といつもなら乾いた音を立てるはずが、回しても手応えがない。
アルドーは訝しみ、背後にいるはずの護衛に目を向ける。
物陰からするりと黒服の男が現れアルドーより先に部屋に入る。
遠くの祭りの喧騒が微かに聴こえるだけの静けさ。
クリスとセーレナが目を丸くして中央のソファに座っていた。
「ごきげんよう、二人とも。鍵はどうしたの?」
「ごきげんようアルドー様。⋯⋯ペール様が開けてくださいましたわ。鍵を開けるツールで」
当のペールはと言うと黒服の護衛に飛びかかったらしく、両手を掴まれてぶら下がっていた。
そんな状況が楽しいらしく、満面の笑みでジタバタ動いていた。
「セーレナ様と『リスエルン祈念』にみんなで使うランタンとケープを用意しました。扉の前で待つつもりでしたが、ペール様が⋯⋯」
「そう、フェン嬢。次からは遠慮してくれるかな? もっと早く来なかった私も悪いが、勝手に開けるのは犯罪だよ?」
護護衛の手から降ろされ、アルドーに走り寄るペール。
ニッコリ笑って「次から気をつけまーす」と、どこかで聞いたような返事をした。




