41 すれ違いと盲従
「キアラ・マリーノの娘なぞ恥をかけば良いのよ」
生徒の姿を見送り、ドロテは憎々しげに言う。
「何故です?」
「⋯⋯わたくしからノア様を奪ったのよ。ノア様はわたくしを大事にしてくださったわ。それなのにキアラが横から入ってきて!」
ドロテの言葉にガブリエルは首を振り、ため息を漏らした。
「ドロテ、それは何時の話なんだ? 子供の頃、君とノアは交流を持っていなかっただろう? それに、君は隣のクラスで知らなかったと思うが、一学年の時にはすでに二人は、それぞれの家に交際を認められていたんだ」
「なんですって⋯⋯。でも、ノア様は一人でいるわたくしを慰めてくれたわ! 貴方は婚約者だと言うのにわたくしを放っておいて、他の女子生徒と仲良くしていたじゃないの!」
「誤解だよ。学園で新しい販路を見つける為だった。⋯⋯確かに政略だからと君を大事にしていなかったかも知れない。だが、君だって私と話そうともしなかったじゃないか」
「わたくしのような地味な女が、貴方の様な華やかな人と話せるわけ無いじゃない⋯⋯! そんなわたくしに、ノア様は優しく声を掛けてくださったのよ。恋焦がれて当然でしょう?」
ガブリエルは言葉を無くし、ただ呆然とドロテを見つめた。
こんな二十年も前のすれ違いに多くの人が巻き込まれている事に、アルドーは理解が追い付かない。
「だからと言って、マダム・キアラの誘拐に手を貸したのはややり過ぎではないか?」
「いいえ、殿下! 誘拐されるとは思ってもみませんでした。後からそうだと解ったのです。⋯⋯ジュゼッペ様はキアラを裏切り者だとおっしゃったわ。『内務』から勝手に抜けたと。ノア様がいつ会合に出かけるか教えて欲しいと言われたので、お答えしただけです」
「貴女は知らなかったんですね?」
アルドーの問いにドロテは首肯する。
ジュゼッペへの暴露は意図しないものだとして不問に付す事は出来なくもない。
だが今回のコルデラ侯爵家を筆頭にする『芸術』としての今回の騒動はどうだろう。
『財務』や王家に喧嘩を売った形だ。
考えなしにも程がある。
「改めて聞きたい。『芸術』は王家へ反逆の意志があるのか? 今期の生徒会への嫌がらせはそう取られてもおかしくないが」
「めっ、滅相もない!」
ガブリエルが悲鳴にも似た声を上げた。
隣でガクガクとドロテが震え始めた。
「か、考えが及びませんでした。店を訪れたジュゼッペ様にそそのかされて⋯⋯」
両手で顔を覆い、綺麗に揃えられた爪が頬に食い込む。
目を見開き、ドロテは慄く。
「ギルランド様、わたくしたちは、もしもに備えておりました。ジュゼッペ様の思惑など通用しなかったのですわ」
セーレナはドロテに歩み寄り、頬に食い込む指に触れた。
「貴女のした事を見なかった振りはできる。生徒間の嫌がらせ事件として処理すれば。だが、このまま貴女を解放する事はできない。証言者である貴女を、ジュゼッペから守らねばならない」
「殿下、先代公爵は一体何を?」学園長が問う。
アルドーは学園長、ドロテ、最後にガブリエルに視線を流した。
「ジュゼッペ・ガルシアは国王陛下の弑逆を目論んでいる」
三人の衝撃は如何ほどか。
驚愕の表情のまま動く事が出来ない。
当然だ。
ただの嫌がらせの延長だと思っていたのだ。
「コルデラ卿、夫人には王城の貴族牢に入ってもらう」
ガブリエルは、ただ頭を垂れるばかりだった。
「生徒たちはしばらくの間、自宅謹慎の処分を出しましょう。一部の生徒には何が起こったか知れていますから。隣の会議室に待機させていますので、これから話をしてまいります」
アルドーはドロテの護送の指示を出し、ガブリエルに日常品の手配を促した。
クリスとセーレナには『お披露目』会場の確認に向かわせた。
学園長の報告を待ち、各自大人しく沙汰を受けた事を確認して、自らも会場へと向かった。
会場は生徒のボランティアスタッフによって片付けられていた。
生徒会役員たちは、翌日の『リスエルン祈念』の参加を約束して帰途に就いた。




