39 白いドレスは誰のもの?
手首にあしらったコサージュ。
クリスはそっと触れて、心を落ち着けた。
コツコツと慣れないハイヒールで会場へ急ぐ。
生徒会は一番最後の入場。
大勢の招待客の前へ足を踏み入れた。
クリスの父、ノアは爵位を気にして入り口近くにいた。
クリスが笑みをこぼすと、ノアはクシャリと顔を歪めて目元に手を当てた。
それから笑ってクリスを送り出す。
壇上を見上げ、司会進行のアルドーを見る。
呆気にとられてみるみる顔が赤く染まっていくのが分かった。
その隣でエミリオがアルドーの袖を引いている。
クリスはその様子が可笑しかったのと、アルドーに見てもらえたのが嬉しくて自然と笑顔になっていった。
クリスはコンテスト出場者の列には加わらず、司会の二人の間に移動した。
和気あいあいと進行を務め、無事コンテストは終了した。
優勝は『商務』。アルゲンテア侯爵がイシャーンによく似た笑顔を見せた。
その近くで暗い表情でマールム公爵が賛辞を送っていた。
ジュゼッペの姿はない。
何も知らないフリアを除く生徒会役員たちは、この場にいないことにホッとした。
控室に戻り、クリスは制服に着替える。
セーレナは「これは貴女に」といってドレスの入った衣装箱を渡す。
「貴女の為のドレスなんだから、ね?」
押しの強さに負けてクリスは受け取った。
そのお礼にマグノリアのコサージュを贈ろうかと逡巡するが、思い直す。
「これよりもっと良いものを作ります。それを今日の記念に贈らせてください」
と申し出た。
セーレナは花が綻ぶような笑顔を見せた。
「きっとよ?」
クリスとセーレナは連れ立って会場へ戻った。
歓談中の招待客の間を縫ってアルドーが小走りで近付く。
セーレナは耳元で「頑張って」と囁くと招待客の波に紛れていった。
「ああ、もう制服に戻ってしまったんだね。ゆっくり見たかったな」
心底悲しそうな顔を見せるアルドー。
「セーレナ様がくださいました。また着る機会があるかもしれません」
「その時は是非エスコートさせてくれるかい?」
蕩けそうな笑顔でそっと呟き、念を押す。
「だめ?」
「⋯⋯う、嬉しい、です」
「うん、楽しみだな。ところでクリス、明日の生徒会のみんなで『リスエルン祈念』に行かない? ランタンを持って」
建国祭二日目の夜、王都中央の噴水で祈りを捧げる『リスエルン祈念』。
各々がランタンを持ち寄って、王城から昇る天燈を見守る。
王と王妃が放つ天燈は四半刻程で油が燃え尽きるまで空を舞う。
はっきりとした起源は解っていないが、故郷の一地方の風習から始めた事ではないかと言われている。
“リスエルン”とは灯火の器具を指す古語である。
「私は来年、成人したら自由に動けなくなるから、行ってみたいんだ」
返事を待たず念を押す。
成人した王族は王城で天燈を見守り、祈りを捧げる。
クリスがアルドーと『リスエルン祈念』に参加できるのは今回しかないのだ。
「私、行きたいです」
「⋯⋯二人で?」
「えっ」
勢いで言ってしまったが、そう取られてもおかしくない。
動揺してどんどん心臓が早鐘のように打つ。
「生徒会のみんなとは、途中で別れて二人で見よう。⋯⋯護衛がいるから二人きりにはなれないけどね」
クリスはアルドーの微笑みに絡め取られた。




