38 お披露目
マグノリア王国が浮かれ踊る建国祭がとうとうやって来た。
マグノリア国民が羽目を外しても咎められることのない二日間だ。
歌い、踊り、そして大いに呑む。
王都中央の広大な公園には、中央に聖女ソフィアがマグノリアの花を一枝掲げ持つ立像がある。
その立像の足元からは噴水が沸き上がっている。
初日には学園での『お披露目』、二日目には王城から公園までの国王・王妃のパレード。
その後、夜には噴水前で人々がランタンを持ち寄り静かに祈る『リスエルン祈念』で幕を閉じる。
王城からはその年の願いを書いた天燈一つが空に向けて飛ばされる。
そして初日の今日、学園は緊張感に包まれていた。
式次第の始まりは生徒会長からの開始の挨拶、次に国王・王妃が来場。
そして新入生が各部門ごとに壇上に上がり主家に近い者から王に拝謁する。
その後立食の会食が始まり、いよいよ『聖女コンテスト』の開催だ。
ここまでは上手くいっていた。
歓談の始まりと共に、コンテスト出場者が着替えの控室へと移動するまでは。
最初に控室に入った生徒が悲鳴を上げた。
一体のトルソーに着せられたドレスが赤黒く染まっていたからだ。
そのトルソーには生徒会と書かれている。
トルソーの足元には鋏を入れられたコサージュが落ちている。
セーレナと共に入室したクリスはそれを目にするなり呟く。
「やると思った」
セーレナも「期待を裏切らないわね」と微笑んだ。
「まあ、お衣装が酷いことになっているわね!」
イブリン・ギルランドが大声を上げながらトルソーに近付く。
クリスはそれを横目に見ながらドレスの赤黒く染まった部分に顔を近づけた。
そして屈んでコサージュを手に取る。
「染料です。セーレナ様。コサージュは切れてばらけていますね」
「手癖の悪い方のようね。ああ、困ったわ」
「ああ、なんて酷いことを! クリス、男爵家の娘が生徒会など入ったから罰を与えられたのですわ!」
苛立ちを覚えるが、クリスはぐっと堪える。
セーレナがすっとクリスとイブリンの間に入る。
「これではコンテストに出られないわね⋯⋯⋯なんて、言うと思いまして?」
廊下に控えたクチュリエールにセーレナは目配せした。
クチュリエールは頷き、大きな衣装箱とトルソーを付き人たちに運ばせた。
同じ形のドレスがトルソーに着せられる。
付き人は小箱に入ったコサージュを取り出す。
イブリンはただ口を開き、立ち尽くした。
「あれはね、ダミーなの。それとチェルニー、連れてきて」
控室の奥からコルデラ侯爵夫人の姪ナタリー・マルタンを後ろ手に縛って、チェルニーが姿を現した。
チェルニーの手には染料が入っていた瓶が握られている。
「染料を使った時点で身元を明かしてるも同然ですね、マルタン様」
クリスは呆れつつ指摘する。
「このドレス、わたくしが出資しているの。それはご存じ?」
「わっ、私は叔母様に!」
「お黙りなさい!」
イブリンが扇でナタリーの頬を打つ。
ペールが飛び出し、腕を取り後ろに回って拘束した。
「これはもう駄目ね。コルデラ侯爵をお呼びして。学園長にも連絡を。他の皆さんはコンテストの用意をなさって。一番の方から会場に。フリア様はアルドー様にお伝えして下さる?」
セーレナの指示でスタッフは動き、出場者は急ぎ支度を始めた。
クリスもセーレナも何かイブリンが企んでいるだろうと、それぞれがダミーを用意していた。
お互いがそれを知って、二人で笑い合った。
控室のトルソーにそれを着せ、式典へ。
式典中、セーレナの護衛とチェルニーが控室で待機。
コサージュに鋏を入れ、ドレスに染料が掛けられたところで取り押さえたのだ。




