36 大神殿と科学
「な、んですって」
アルドーの口から絞り出された。
「破壊された古代機械がどれだけ転用できたかわからんが、おそらくまともに使えたのはほんの少しだ。地方へ行けば行くほど古代機械の運用自体されていなかったからな。害獣に壊される前から壊れていたのが殆どだ。『大神殿』所有の建物の古代機械はずっと使われていたから、最小値は把握している」
「では、新しい基幹部分は全部兵器に?」
「はは、神殿長は抜け目ない」
ベニニタスは豪快に笑い、その後の経緯を話す。
神殿長は修復作業に同行して、その場で一つ一つ手渡した。
元々使われていなかった物の修復は「必要ない」と切り捨てた。
神殿長は建国当初の『科学を捨てる』を忠実に守って、必要最小限を保った。
それが最大の理由だが、実際のところ基幹部分の部品を揃えるには、『大神殿』側としても時間がかかる。
しかも『大神殿』所有の物は『科学』の介入を頑として受け入れず、自ら修復したという。
故に古代兵器に使われた物はそう多くはないと推測される。
「神殿長に感謝しかないですね⋯⋯。思惑はどうであれ」
「そうですわね。でも何丁か作られたのは確実でしょうね」
ベニニタスは二人を見遣り、満足気に口元を緩めた。
「お前たちが着実に育っているのを嬉しく思う。ティワリの息子の情報収集能力もなかなかだ。クレプスクルムを助けてやってくれ」
勿論アルドーもセーレナもそのつもりだが、イシャーンに関してはどうにも断言できない。
彼は常に損得を考えていそうだとアルドーは感じていた。
「陛下、まだ『内務』の話があります。マールム公爵令息にジュゼッペ氏から命令が下されました」
ベニニタスは肘づえをついたまま片眉を上げた。
「クローステール男爵令嬢クリスを籠絡せよ、と。期限は半年」
アルドーは自然と苦虫を噛み潰したような顔になる。
ベニニタスとセーレナが面白いものを見るように口を歪めているのがわかる。
「いつまで経っても色恋で話を進めたがるな、ジュゼッペは。クラーワにも散々男を寄越したぞ」
「そうなんですか? でも、アルドー様が恐ろしくてエミリオ様は手など出せませんわ。お手のインクは落ちまして? ふふふ」
「インク?」
身を乗り出してアルドーの手を覗き込むベニニタス。
手を後ろに組み、セーレナを恨めしげにアルドーは見遣ったが、一向に気にする素振りもない。
それどころかセーレナは続けた。
「クリス様はとても可愛らしい方なんですの、陛下。それに大変な野望をお持ちで、わたくしそれに投資することにしました」
「野望?」
「ええ、わたくしをガラス細工で輝かせて下さるんですって。楽しみで仕方ないのです。アルドー様には負けませんわ」
「若いっていいねぇ」
ベニニタスの言葉が空虚に響いた。




