35 ベニニタスとの対話
王都からの坂を登り主城門を通ると、その先に王城と聖堂が並ぶ。
それらは四方に護衛塔があり、堅牢な城壁で繋がれている。
主城門の外には騎士館と厩舎などの軍事施設と、宰相を筆頭とした文官の官庁がある。
さらに使用人の住居、害獣発生時の為の菜園や穀物庫が配置されている。
王城内には王族の居住塔と中庭、大広間があり、基本的に王族はそれ以外に立ち入ることはない。
厨房や倉庫などは居住塔とは別棟になっている。
アルドーはセーレナと共に居住塔にある国王の執務室へ向かう。
親子であるが国王や王妃と顔を合わせるのは稀だ。
王家では成人前の子供は食事を共にする事すらない。
召喚されるのを待つか、公務の場、または目通りを願ってからでないと会う事が叶わない。
今回は王妃の手配ですんなりと謁見を賜ることが出来た。
イシャーンからの資料を手に、滅多に会えない父親との対面にアルドーは緊張した。
「王族の方は大変ですわね」
「⋯⋯来年には君も王族だよ?」
「あら、そうですわね」
そう言ってセーレナは笑う。
平然とした姿にアルドーの緊張が少し解けた。
「やあ、二人とも健勝か?」
ベニニタス国王は破顔し、両手を広げ二人を迎えた。
重厚な木材を使用した執務机に合わせ、どっしりと重量感のある椅子に座す姿はとても威容がある。
アルドーとセーレナは各々ベニニタスに礼をし、机の前で姿勢を正した。
「すまんな、時間的にあまり余裕がない。そのままで話してくれ」
「承知しました。陛下、こちらは『商務』アルゲンテア侯爵令息、イシャーン・ティワリが纏めた資料です。三つの部門間での使途不明な金の流れを追ったものです。それとこちらはアルゲンテア侯爵からの親書です」
資料を軽く目で追い「ふむ、モクレン」と、後ろで控える白いフードを目深に被った女性に渡す。
女性は右手に立て掛けられた衝立の向こうへ移動した。
紙をめくる音が室内に響く。
ベニニタスは侯爵からの親書の封を切り、書を精読した。
女性が戻り、国王の耳元で小声で何か話す。
そして再び衝立の向こうへ去って行った。
「親書は『内務』に加担しない旨が書いてある。資料は良く出来ている。優秀だな。『大神殿』への『虹の蜘蛛』の反物の流れは問題ない。何に使われたかは把握している」
どういう事か、とアルドーが問う。
ベニニタスは大まかな説明を始めた。
アルドーの祖父、第六十一代国王 ウェントゥスの死因は、大型害獣のスタンピードだ。
今から三十六年前、前年の異常気象による山間部の食料の不作で、害獣がマグノリア各地で里まで降りて来た。
特に未開の地が領地と接する南東部の『エネルギー』と『農務』の一部では壊滅的な被害を受けた。
『農務』の討伐にはベニニタスが、『エネルギー』の討伐にはウェントゥスがそれぞれ討伐隊を率いて向かった。
そこで帰らぬ人となった。
その各地のスタンピードによって住居は勿論、あらゆる公共施設にも被害が出た。
その街や村は打ち捨てられ、住民は他の街に移住した。
破壊された施設内の古代機械のメンテナンスは『科学』の仕事だ。
だが、実は大神殿の持つ技術が修復に必要になる。
比較的軽微な損害で済んだ地域から古代機械は修復された。
その時に古代機械の基幹部分の盗難が大量に見つかった。
『科学』から『大神殿』へ救援要請が出された。
その報酬として『虹の蜘蛛』の反物が納められたのだ。
「陛下、待ってください。『大神殿』の衣服はそこまで高級な物を必要とするのですか?」
アルドーは疑問に思った。
年に一度見るか見ないかの神殿関係者は『虹の蜘蛛』の衣装など着ていなかった。
「いや、彼が着る訳では無い。これから先は王家の嫡子以上の者でないと話せない」
ベニニタスはチラリとセーレナの方を見遣る。
セーレナは扇で口元を隠し、ふ、と小さく鼻から息を漏らした。
アルドーは不敬を咎められると焦ったが、ベニニタスはニヤリと笑ったが何も言わなかった。
「大量盗難の犯人は上がったのですか?」
セーレナの問いにベニニタスは首を振り、「藪の中だな」そう言って両肘を机に突き手を組んだ。
「だが見当はついている。『科学』の仕業だ。盗まれたと言って、新品を欲しがった。⋯⋯としか思えん。
この基幹部分は何に使われたかわかるか? お前も知っただろう?」
ベニニタスが二人を交互に見る。
アルドーとセーレナは息を呑んだ。
「光を集める古代兵器。それに転用出来る代物だ」




