↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/111

34 商魂

 イシャーン・ティワリは『商務』アルゲンテア侯爵の次男である。


『商務』一門はマグノリア王国内の物流の基盤を整え、各地の商会の揉め事を抑える役割を担う。

 また、あらゆる商品価格を適正に調整する事を仕事としている。

『財務』と情報を共有し、財源となる税金の交渉等も行う。


 イシャーンは将来、相応な貴族に婿入りするか、空位となっている侯爵家所有の男爵位を継ぐかという立場だ。

 両親は如才なく立ち回る彼に、他部門へ婿に出ずに男爵位を継いで欲しいと考えていた。


 イシャーン自身は、まだ十六歳なのだししばらくは好きに生きようと思っていた。

 彼は過去の帳簿や会計記録を見ては、世の中の出来事に当てはめるのが何より好き。

 パズル感覚で楽しむ。


 


 ある日、『科学』と『大神殿』からの受注が目に留まった。

 前後の世情からは読み取れない数字だ。


 首を捻っていると『内務』も何だかおかしい。

 下手につついて握りつぶされるのは勿体ない。


 二学年に進級し、一学年の時と同様に生徒会役員に選出された。

 今年度は生徒会長がアルドー第二王子だ。

 相談するなら彼に言うのが適当だろうかと悩んでいた。


 


 そんな時だ。

『内務』のエミリオとアルドーの間に『芸術』の新入生がいて、何だか揉めている。

 ミニュスクール公爵令嬢まで入って阿鼻叫喚だ。


 尋常でない事態だ。

 アルゲンテア侯爵家子飼いの密偵に調べさせた。


 想定以上の面倒事が起きているのがわかった。

 ひとまず密偵に内密にするよう念を押し、手を引かせた。


 これは一つ王家に貸しだ。

 と、イシャーンの頭をチラリと掠めた。


 


「アルドー殿下、少しお話宜しいですか?」

「殿下、資料室で報告したい事があります」


『お披露目』準備中で慌ただしく動く役員の中、一人書類仕事に精を出すアルドーに声をかけた。

 同時にエミリオもやって来た。


「なんだい? ⋯⋯まずはイシャーンからどうぞ」

 一拍おいてアルドーは順番を決めた。

 エミリオの「資料室で」の一言で、彼の報告内容を察したのだ。


 前日四人で資料室に入って何事か話し合っていた。

 おそらくそれが関係しているのだろう、とイシャーンはピンときた。


「エミリオの話に関係するかもしれません」

 そう言って先に準備していた紙切れをアルドーに渡した。


 そこには『科学』『大神殿』『内務』の三文字。

 アルドーが息をのむ。

 エミリオに紙を渡すと頷き合った。


「やはりまずはイシャーンから。資料室へ行こう」

 アルドーはフラッハに目配せしてから、イシャーンを資料室へと導いた。


 


「この三つはどういう意味?」

 いつもと変わりない、穏やかな調子でアルドーは問う。


「ここ数年、『科学』からこれまでにない鉱石類の受注がありました。主に珪石、アルミ、樹脂です。特に珪石は『建築』と『芸術』より遥かに多い量です。あとは掘削用の機械も何台か受注しています」

「珪石というと、ガラス系? 『科学』の領地でも鉱物は採れるが、『建築』よりは少なかったはず⋯⋯。いや、あれか? 光を集める古代⋯⋯」


 アルドーは口にしかけたが、目の前にいるのがイシャーンだったのを思い出した。


「古代?」

「気にするな。『大神殿』もなのか?」

「いえ、『科学』から大量の『虹の蜘蛛』の反物が品質を問わず大量の受注があり、納品が『大神殿』でした」


「なるほど。で、『内務』は?」

「色々調べまして」


 イシャーンは少し勿体ぶって口の端を持ち上げた。

 貸しにするか? と、悩む。


「将来サピエンティア公爵となった時に、色々と取り計らうと約束しよう」

 本当は取引するつもりは無かったのだが、奥の手にでもさせてもらおうとイシャーンはほくそ笑んだ。


「先代マールム公爵ジュゼッペ氏が、何をしようとしてるかは知っています。あと、『科学』の事も」


 


 瞠目した後、一息ついてアルドーはエミリオを呼んだ。


「イシャーンは自力で調べ上げてしまったよ。商取引の経過を見てね」

「はぁ? 勘が良すぎないか?」

「数字を見れば、色々解るんです。まあ、疑惑があったんで人を使って調べたんですけど。商売の子飼いは見方が違いましてね」

「いや、でも、祖父にバレてるぞ。昨日疑っていたからな。母とうまく誤魔化しておいたけど」

 得意気なイシャーンに少しエミリオは苛立つ。


 


「エミリオの方はどうなの?」

「祖父に命令されました。アンバーブロウ嬢を籠絡しろと。依存するくらいなら尚良し、と」


 アルドーの顔が一瞬固まる。

 それから輝かんばかりの笑顔を見せた。

 ──バキッ!


「あああ、殿下! フリですフリ! しませんよ! って、手! 手にインクがっ」

「ああ、折ってしまったね」


 アルドーは握りしめた手を開く。

 折れたペンと青のインク。

 凄惨な笑みを浮かべた。


 ずいぶん可愛がっているなとは思っていたが、これは本気だったか。

 何かに使えるかな?

 イシャーンはちゃっかり記憶に留める。


 


「ともかく! 祖父が半年の間に何とかしろと。その間は手出ししないと言っていました」

「そう。ならばまず私たち学生がやるべき事は『お披露目』を無事開催する事だ。イシャーンは文書に纏めてあるかい? 国王陛下に報告させて欲しい。勿論君の手で調べられたと添えるよ。

 ⋯⋯が、一番大事な事を聞かせてもらっていいかな?」


 ピンと来た。『内務』のやりたい事は一つだ。

 王位の簒奪。


 イシャーンは人好きする笑みを浮かべ、アルドーが一番聞きたいであろう言葉を口にした。

「『商務』は『内務』に付く事はありません」


「わかった、有難う。『商務』の協力は必ず陛下に伝えよう」


 


 国が荒れて良い事など無い。

 領主間で諍いが起きても武力を伴う争いが起きなかったのは、ひとえに国王の存在があったからだ。

 諍いは国王の沙汰で平定した。

 そもそも、初代国王から続く『平等であれ』が元老院で浸透しきっている。


 国土の開拓は遅々として進まず、大型害獣の対策に今でも追われている。

 開拓の先駆者たちは調査に行ったまま戻って来ない者も多い。

 だが、彼らが遠方で国を作った話など聞かない。


 もし国が出来て戦をもたらされたとしたら、一時的に軍需で儲かるかも知れないが、国は疲弊し経済どころではなくなる。

 どう考えても今は現状維持が一番だ。


『商務』は得にならない波乱を望まない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。