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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第三章

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34 商魂

 イシャーン・ティワリは『商務』アルゲンテア侯爵の次男である。


『商務』一門はマグノリア王国内の物流の基盤を整え、各地の商会の揉め事を抑える役割を担う。

 また、あらゆる商品価格を適正に調整する事を仕事としている。

『財務』と情報を共有し、財源となる税金の交渉等も行う。


 イシャーンは将来、相応な貴族に婿入りするか、空位となっている侯爵家所有の男爵位を継ぐかという立場だ。

 両親は如才なく立ち回る彼に、他部門へ婿に出ずに男爵位を継いで欲しいと考えていた。


 イシャーン自身は、まだ十六歳なのだししばらくは好きに生きようと思っていた。

 彼は過去の帳簿や会計記録を見ては、世の中の出来事に当てはめるのが何より好き。

 パズル感覚で楽しむ。


 


 ある日、『科学』と『大神殿』からの受注が目に留まった。

 前後の世情からは読み取れない数字だ。


 首を捻っていると『内務』も何だかおかしい。

 下手につついて握りつぶされるのは勿体ない。


 二学年に進級し、一学年の時と同様に生徒会役員に選出された。

 今年度は生徒会長がアルドー第二王子だ。

 相談するなら彼に言うのが適当だろうかと悩んでいた。


 


 そんな時だ。

『内務』のエミリオとアルドーの間に『芸術』の新入生がいて、何だか揉めている。

 ミニュスクール公爵令嬢まで入って阿鼻叫喚だ。


 尋常でない事態だ。

 アルゲンテア侯爵家子飼いの密偵に調べさせた。


 想定以上の面倒事が起きているのがわかった。

 ひとまず密偵に内密にするよう念を押し、手を引かせた。


 これは一つ王家に貸しだ。

 と、イシャーンの頭をチラリと掠めた。


 


「アルドー殿下、少しお話宜しいですか?」

「殿下、資料室で報告したい事があります」


『お披露目』準備中で慌ただしく動く役員の中、一人書類仕事に精を出すアルドーに声をかけた。

 同時にエミリオもやって来た。


「なんだい? ⋯⋯まずはイシャーンからどうぞ」

 一拍おいてアルドーは順番を決めた。

 エミリオの「資料室で」の一言で、彼の報告内容を察したのだ。


 前日四人で資料室に入って何事か話し合っていた。

 おそらくそれが関係しているのだろう、とイシャーンはピンときた。


「エミリオの話に関係するかもしれません」

 そう言って先に準備していた紙切れをアルドーに渡した。


 そこには『科学』『大神殿』『内務』の三文字。

 アルドーが息をのむ。

 エミリオに紙を渡すと頷き合った。


「やはりまずはイシャーンから。資料室へ行こう」

 アルドーはフラッハに目配せしてから、イシャーンを資料室へと導いた。


 


「この三つはどういう意味?」

 いつもと変わりない、穏やかな調子でアルドーは問う。


「ここ数年、『科学』からこれまでにない鉱石類の受注がありました。主に珪石、アルミ、樹脂です。特に珪石は『建築』と『芸術』より遥かに多い量です。あとは掘削用の機械も何台か受注しています」

「珪石というと、ガラス系? 『科学』の領地でも鉱物は採れるが、『建築』よりは少なかったはず⋯⋯。いや、あれか? 光を集める古代⋯⋯」


 アルドーは口にしかけたが、目の前にいるのがイシャーンだったのを思い出した。


「古代?」

「気にするな。『大神殿』もなのか?」

「いえ、『科学』から大量の『虹の蜘蛛』の反物が品質を問わず大量の受注があり、納品が『大神殿』でした」


「なるほど。で、『内務』は?」

「色々調べまして」


 イシャーンは少し勿体ぶって口の端を持ち上げた。

 貸しにするか? と、悩む。


「将来サピエンティア公爵となった時に、色々と取り計らうと約束しよう」

 本当は取引するつもりは無かったのだが、奥の手にでもさせてもらおうとイシャーンはほくそ笑んだ。


「先代マールム公爵ジュゼッペ氏が、何をしようとしてるかは知っています。あと、『科学』の事も」


 


 瞠目した後、一息ついてアルドーはエミリオを呼んだ。


「イシャーンは自力で調べ上げてしまったよ。商取引の経過を見てね」

「はぁ? 勘が良すぎないか?」

「数字を見れば、色々解るんです。まあ、疑惑があったんで人を使って調べたんですけど。商売の子飼いは見方が違いましてね」

「いや、でも、祖父にバレてるぞ。昨日疑っていたからな。母とうまく誤魔化しておいたけど」

 得意気なイシャーンに少しエミリオは苛立つ。


 


「エミリオの方はどうなの?」

「祖父に命令されました。アンバーブロウ嬢を籠絡しろと。依存するくらいなら尚良し、と」


 アルドーの顔が一瞬固まる。

 それから輝かんばかりの笑顔を見せた。

 ──バキッ!


「あああ、殿下! フリですフリ! しませんよ! って、手! 手にインクがっ」

「ああ、折ってしまったね」


 アルドーは握りしめた手を開く。

 折れたペンと青のインク。

 凄惨な笑みを浮かべた。


 ずいぶん可愛がっているなとは思っていたが、これは本気だったか。

 何かに使えるかな?

 イシャーンはちゃっかり記憶に留める。


 


「ともかく! 祖父が半年の間に何とかしろと。その間は手出ししないと言っていました」

「そう。ならばまず私たち学生がやるべき事は『お披露目』を無事開催する事だ。イシャーンは文書に纏めてあるかい? 国王陛下に報告させて欲しい。勿論君の手で調べられたと添えるよ。

 ⋯⋯が、一番大事な事を聞かせてもらっていいかな?」


 ピンと来た。『内務』のやりたい事は一つだ。

 王位の簒奪。


 イシャーンは人好きする笑みを浮かべ、アルドーが一番聞きたいであろう言葉を口にした。

「『商務』は『内務』に付く事はありません」


「わかった、有難う。『商務』の協力は必ず陛下に伝えよう」


 


 国が荒れて良い事など無い。

 領主間で諍いが起きても武力を伴う争いが起きなかったのは、ひとえに国王の存在があったからだ。

 諍いは国王の沙汰で平定した。

 そもそも、初代国王から続く『平等であれ』が元老院で浸透しきっている。


 国土の開拓は遅々として進まず、大型害獣の対策に今でも追われている。

 開拓の先駆者たちは調査に行ったまま戻って来ない者も多い。

 だが、彼らが遠方で国を作った話など聞かない。


 もし国が出来て戦をもたらされたとしたら、一時的に軍需で儲かるかも知れないが、国は疲弊し経済どころではなくなる。

 どう考えても今は現状維持が一番だ。


『商務』は得にならない波乱を望まない。

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