31 護衛は兄から色々聞いてます
クリスとペールが握手を交わすのを見届け、アルドーが口を開く。
「もう一つ。マダムの拉致にコルデラ侯爵夫人が関与している可能性がある。それと、学園の双子がアンバーブロウ嬢に嫌がらせをしに来てね、居合わせたんだが暴力も辞さない様子で」
「ドロテが? ジュールたちが暴力を?」
ノアの驚愕のあまり蒼白になった顔に絶望が滲む。
「コルデラ侯爵夫人に関しては、情報提供者も確証はなさそうだ。こちらは今、私が調べている。そういった理由で護衛が必要なのだよ」
「先日コルデラ卿とドロテについて話をしました。学園時代からキアラと不仲であったと聞きました。理由はコルデラ卿には思い当たる事はあるが、不確かだと。私には解りません」
おや? アルドーは少し引っかかりを感じた。
──私には分からないが、コルデラ卿には思いつく事はある。
つまり、ノアは懸想されていた事に気付いていなかったが、コルデラ卿は知っていたという事か?
「今後、王妃陛下と連絡を密にする。マダム・キアラへの伝言を頼む事も可能だが、何かあるかな?」
「⋯⋯クリスもエリオットも会いたがっている、と。」
ノアは不貞を疑われる事は避けたかった。
会いたいと言ってしまえば、それはキアラにとって不貞以外の何物でもない。
「わかった。必ず伝えよう」
「殿下、母は罪に問われるのでしょうか?」
それまで押し黙っていたクリスが問う。
ハッとしてノアはクリスの膝で強く握られた手を片手で包み、もう片方の手でクリスの頭を引き寄せた。
クリスの強い眼差しは、心を抉られるような痛みをアルドーにもたらした。
「私はマダムがどういう状況で王妃陛下に匿われる事になったか知らない。だから、今それに答える準備が出来ていない。すまない」
「いいえ、男爵家の私たちに王族である殿下が謝るような事をしないで下さい。気に掛けて頂けるだけで光栄な事なのですから」
ふるふると首を横に振り、クリスは目を伏せた。
自分が持つ階級意識よりも遥かに大きな隔たりに、アルドーは胸が痛んだ。
「では、これで私は失礼するよ。何かあったら必ずこの者らに話して欲しい。見送りはいらないよ」
「承知しました。クリス、お前は玄関前までお送りしなさい」
無言のままクリスと並んで階段を降り、居間へ。
そこから玄関前に到着して、ペールに先に馬車に乗るように指示した。
アルドーはクリスに向き直り口を開く。
「王妃陛下に叱られてしまったんだ。私がすべき事を怠ったばかりに君とエミリオに不快な対面を強いてしまったと。
私がしっかりしていれば、こんなに君を泣かせてしまうことは無かったかも知れない。本当に申し訳ない」
「いいえ、殿下。いつかはわかる事です。私、生徒会頑張ります」
「ねえ、アンバーブロウ嬢。クリスと呼ばせてもらってもいい?」
「⋯⋯え? は、はい」
「私はね、君の笑顔を曇らせたくないんだ。私が君を守るよ。絶対に」
「⋯⋯」
アルドーはクリスの潤む紫の瞳に魅入られた。
押さえられない気持ちを込めて、髪を一房掬いくちづけた。
クリスの小さな唇が軽く開き、微かに驚きの声を上げる。
「クリス。また明日」
背筋を伸ばして座席に座るペールが満面の笑みを浮かべた。
「聞こえてしまいましたー。兄上に報告していいですかー?」
ペールは侍従見習のフラッハ・フェンの妹。
兄が兄なら、妹も妹だった。




