01 ガラス細工に魅せられた少女
「クリス、コルデラ卿のところへ行っておいで」
春の始まり、コルデラ侯爵邸のガーデンパーティ。
これから冬の始まりまで続く社交シーズンに向けての、『芸術』一門の顔見せの場だ。
クリスは、父のクローステール男爵ノア・アンバーブロウと共に訪れていた。
ノアはガラス細工の街『ブジェフ』『ジェカ』『レスク』の領主でもある。
クリス・アンバーブロウ。十五歳。
ふわふわのピンクブロンドの隙間から、色ガラスを使ったとんぼ玉のイヤリングが光を纏って揺れる。
大きな紫色のアーモンドアイは、それに負けない程キラキラと輝いていた。
クリスはコルデラ侯爵令息への学園の入学祝いの品を手に、足取りも軽やかだ。
ふんわりとしたドレスが風に靡く。
慣れないカーテシー。心の中で苦笑い。
気を取り直して、コルデラ侯爵ガブリエル・ギルランドに小箱を手渡した。
中にはオクタゴンカットが施された、美しいアッシュブルーのガラス細工のネクタイピン。
ガブリエルはクリスから受け取ると、たいそう気に入った様子。
「美しいね。直接ジュールに渡しておくれ」
ほほ笑みながらそう言ってクリスを息子の元へ送り出した。
男爵領の信頼の置ける工房と一緒に作ったネクタイピン。
誇らしい気持ちで小箱をおし抱き、ジュールのもとへ急ぐ。
「クリス・アンバーブロウ! お前のような分家筋の男爵家の女が、主家のコルデラ侯爵家次期当主の僕に軽々しく口をきくなど許さん!」
目にも眩しい赤いスーツに身を包んだ少年、ジュール・ギルランドがクリスの手を振り払う。
地面にネクタイピンとケースが転がり落ちた。
周りの大人たちの視線が二人に集まる。
「⋯またなの?」
「可哀想に⋯⋯」
周囲がざわめく。
「何事ですの? お兄様。あら、クリス、そのゴミはなあに?」
大人たちの間をすり抜け、少年とそっくりな顔立ちの少女が現れた。
赤みの強い金の巻き毛と派手なドレスが目を引く。
「ご機嫌麗しゅう存じます、イブリン様。ご依頼のありましたネクタイピンを、ジュール様にお届けに上がりました」
クリスは恭しくカーテシーをする。
同い年ではあるが主家の令嬢、失礼は許されない。
「コルデラ卿からジュール様の瞳の色で、カットや台座の形をご指定頂きました。先程直接お渡しせよと申し付かりましたが⋯⋯、お気に召されなかったようです」
愛おしむ様に丁寧にネクタイピンに触れ、一緒に転がったケースに収納した。
「とても残念です。もう一度コルデラ卿にお話を伺って、作り直してまいります」
「まっ、待て。父上が? ならばそれを寄越せ!」
慌てたジュールがクリスから奪おうと手を伸ばしたが、双子の妹イブリンが扇でそれを制す。
「お兄様、おはしたない。一度落とした物ですわ。作り直させれば良いのですよ、ねえ? クリス?」
「⋯⋯左様でございますね。では、失礼いたします」
会場の隅まで平静を装っていたクリスだったが、内心かなり腹を立てていた。
「もう! いつも何なの? 職人たちが可哀想だわ」
悔しくてじわりと涙が滲んだ。
物心ついた頃から、ガラス細工の輝く光に囲まれていたクリス。
八歳で父と訪れた工房でクローステール男爵領の名産品である事を知った。
それ以来、王国中にガラス細工を広めたいと強く願うようになった。
「あの二人もいるけど、入学したら頑張って広めるわ」
グッと小さく拳を握る。
紫色の瞳が輝いた。




