24 驚天動地
エミリオが生徒会室に入ると、『お披露目』の準備で忙しく動く役員たちが目に入った。
この日、エミリオには二つしなければならない事があった。
まず、一つ目。
目当ての人物は招待状に一心不乱にペンを走らせていた。
感心するほどの集中力で、何事にも微動だにしそうになかった。
しばらく様子を見て一枚出来上がったところで、横から紙を掬い取った。
「⋯⋯す」
「す?」
「凄いな、これ。あ、いや、この前は、す、⋯⋯すまなかった」
エミリオが女性に対して謝罪をするのは家族以外では初めて。
かなりぶっきらぼうな調子になってしまった。
謝罪されると思っていなかったクリス。
驚愕のあまりぽかんと口を開いたまま硬直している。
淑女とは言い難いひどい表情だ。
それが面白くて、エミリオは後ろを向いて口に手を当てた。
「口を閉じろよ。⋯⋯だから、下位貴族は馬鹿にされるんだよ。せっかく褒めたのが台無しだろうが」
「えっ、あっ、有難うございます!」
「⋯⋯いや、またやっちゃったな。すまん」
もう一度、クリスの方を向く。
クリスは、まだ目をまん丸に開いていた。
エミリオはバツが悪く視線を泳がせると、遠巻きに役員の四人も目を瞠っているのが見えた。
「あの後、従弟⋯⋯ダニエレに会って、少し話したんだ。『内務』の主家だからといって、『芸術』の君を蔑ろにしてはいけないと窘められて。確かにその通りだと思った。申し訳ない」
今のエミリオには精一杯の謝罪だった。
居丈高になっていないか心配だった。
十六年間染み付いた態度はなかなか抜けるものではないと痛感した。
「マダム・キアラの話を母に聞いた。厄介な事に巻き込まれている。王妃陛下に匿われているうちは安心だが、逆に君が危ないかも知れない」
「⋯⋯え?」
「今から殿下とミニュスクール公爵令嬢、それと君にも話したい事がある」
エミリオはアルドーに頷く。
セーレナがイシャーンとフリアに声を掛け、二人にはそのまま作業を続けるよう促した。
アルドーはセーレナ、エミリオ、そしてクリスの三人を資料室へと誘導した。
「狭いけれど、この四人が集まるにはこの場所が一番自然だ。生徒会室でありつつ、窓はない。出入り口も一つ。エミリオ、話してくれるかい?」
壁の分厚い資料室。
王族の為のセーフルームといったところか。
アルドーが中央の書架に取り付けられたハンドルを回すと、壁側に向かって書架が移動した。
四人は空いた空間に、部屋の隅に置かれていた折りたたみ椅子を各自設置した。
「防音はされていますか?」
「問題ない。盗聴器の類は常に調べられている。そういうのはあの壁際の電灯、ああいった物に取り付けて音を拾う古代機械だ」
そんな物が存在する事自体公にされてはいないが、王族には当たり前のことなのだろう。
「『科学』の者が点検しているのではないのですか? か、彼らは危ないかも知れません」
「ああ、大丈夫だよ。『科学』ではないから」
「まずはアルドー殿下、ミニュスクール公爵令嬢、アンバーブロウ嬢。先日は大変失礼しました。お詫び申し上げます。物事を一方からしか見ずに、全てを知ったような気でいました。あの後、従弟ダニエレ・フォンターナと、母のマールム公爵夫人にかなり叱責されました。」
「公爵夫人とも話したのかい?」
おそらくエミリオにそこまで期待していなかったのだろう、アルドーもセーレナも驚きを隠せないでいた。
「昨日お休みを頂いたのはその為です。邸で話をすると筒抜けになるからと外で話しました」
三人ともさらに驚く。
エミリオ自身も家族間でも気が抜けない状態は予想していなかった。
ここが安心ならば伝えなくてはならない。
「『内務』マールム公爵家は王の弑逆を目論んでいます」
三人は息を呑んだ。




