18 広がる疑惑
「セーレナ様、ありがとう存じます。私、死ぬ気で頑張ります」
「あら、死なれては困るわ。ずっとずっと私を輝かせてくださる?」
手を握り合いながら微笑む二人。
「で、でも。ふっ、あはは」
一転してクリスはどうにも我慢できないといった風に声を出して笑い出した。
呆気にとられる二人に気付き、クリスはそっとセーレナの手を離す。
クリスは取り乱した事を謝罪する。
馬鹿げた言いがかりが、両親の離婚の経緯で重くなった心が吹き飛んだ。
「あー、日常だなぁって」
「日常って⋯⋯⋯。問題があるのではないか? コルデラ卿は何をしている?」
苦笑いするクリスにアルドーが閉口した。
「幼い頃からずっとなんです。会えば必ず何かしてきました。コルデラ卿は叱ってくださいました。そういえば公爵夫人のマダム・ドロテは見てるだけでした。嫌われているのかしら?」
「何か思う所がおありなのかしら? ご両親方で何か問題でも?」
「確か同時期に学園に在学していたはずだ。まさかこれも関係が?」
『芸術』内の諍いであれば良い。
だが、一連の『内務』との事件に係るならば調べねばならない。
アルドーとセーレナは顔を見合わせる。
クリスは二人がたかが男爵家のことで頭を悩ませているのが心苦しくなる。
「わ、私、自分で何とかしますからっ」
「いいえ」セーレナが口元に扇を引き寄せた。
「可愛い貴女が困っているのが見過ごせないの。わたくし、本当に可愛くて仕方ないの。そうでしょう? アルドー様」
突然話を振られて動揺するアルドー。
みるみるうちに顔が赤く染まる。
絞り出されるような小声で答えた。
「⋯⋯⋯あ、ああ。そうだね」
「そんな。待ってください、セーレナ様。そんな無理やり。⋯⋯⋯でも嬉しいです! 私、父にも聞いてみます」
「そ、そう。今日はここまでにしよう。明日から本格的に準備を始めるよ」
「はい! では失礼します」
大きく頭を下げ、ふわふわの髪を揺らしながらクリスは生徒会室から退室した。
見送る二人には、それぞれ違う笑顔。
眩しそうに眼を細めて微笑むアルドー。
それを見て嬉しそうに笑うセーレナ。
同時刻、王城の『王妃の庭園』。
王妃クラーワ手ずから愛で育てる庭園。
クラーワは、盛りにはまだ早いマグノリアの花のついた枝を手に取る。
丁寧に鋏を当てる。
傍らには二人の女性。
一人はきっちりと纏めたピンクブロンドの髪。
クラーワから切り落とされたマグノリアの花を受け取る。
もう一人は白いローブのフードを目深に被った女性。
一言も話さず、静かに佇む。
「なかなかやって来ないわね。もう少しヒントをあげたほうがいいかしら?」
クラーワはため息交じりで口にした。
「アルドー殿下は諜報員を放った様でございます」
白い女がクラーワの耳元で囁く。
「もう少し待ちましょうか」
ふぅ、と小さくため息。
クラーワは鋏を入れ、枝を切り落とした。
手にしたマグノリアの枝を見やり、浅い水瓶に泳がせた。




