17 強襲
「クリス・アンバーブロウ! お前が生徒会役員なのはおかしいですわ!」
エミリオが去って数瞬、勢いよくイブリン・ギルランドが乗り込んできた。
扇をクリスに向かって突きつけながら。
その両脇で『芸術』の二人の令嬢が頷き続ける。
クリスは先程までの悲しみが消し飛び、この又従姉のいつもの嫌がらせに呆気にとられてしまった。
ソファから立ち上がり、イブリンの前に歩み出た。
「おかしいですか?」
「コルデラ侯爵家の娘であるわたくしが生徒会に入るのが当然ですわ。なのになぜお前が入っているのです? みっともなくどなたかに取り入ったのかしら?」
汚いものでも振り払うかのように、閉じたままの扇を肩のあたりで振る。
「そのおっしゃり方は生徒会役員の皆様に失礼になりませんか?」
「ふん、ならどうしてお前のような低い身分の者が生徒会に入れたというの?」
イブリンは扇をクリスの左肩に当て、ぐいと押し込む。
「⋯⋯!」
クリスはバランスを崩し倒れそうになるが、ふわ、と背中を抱き留められた。
「生徒会室で何してるのかな?」
アルドーはわざと甘い声を響かせ視線を集めた。
「あっ、アルドー殿下ぁ。クリスが粗相をしましたので注意していただけですわぁ」
イブリンはしなを作り、顔を傾けて猫なで声を添えた。
「あら、わたくし見ておりましてよ。品のない罵倒をしてらしたのは貴女の方ではなくて?」
クリスが振り返り見上げると、アルドーが笑みを浮かべ支えた手をそっと離した。
その後ろには片眉を吊り上げたセーレナ。
「なっ。お二人はこの女に騙されていますわ! こんな見栄えの悪い小さい女に!」
「騙しているの? アンバーブロウ嬢?」
「⋯⋯⋯これ程小さくて可愛らしい女の子がどこにいるのかしら? おまけに成績も申し分ありませんし。
それにクリス様は『芸術』を盛り立てる努力もされてるわ。貴女たちはそれ以上に頑張っていらっしゃるの?」
未来の王妃、セーレナに一気に詰められ三人の令嬢は竦み上がった。
「クリス! その努力を『芸術』のために使いなさい。お前に『芸術』の聖女役を演らせてやるわ! 少しばかり色が入っているけれど金髪ですもの」
「イブリン様。私は生徒会でコンテストに出場致します。『芸術』のお手伝いは出来ません。申し訳ございません」
「だから言ってるでしょう? 入れ替わりでわたくしが生徒会役員になるわ。いかがでしょう? アルドー殿下?」
なる程そういう論法で来るのかと何となく感心してしまったクリス。
対してアルドーはとんでもなく深い皺を眉間に寄せていた。
そんな事もお構い無しに、ずっとしなを作り続けるイブリン。
その隣でイブリンの取り巻き、コルデラ侯爵夫人の姪ナタリー・マルタンが震えながら佇んでいた。
「あの、それでしたらナタリー様の髪の方が、私より余程お綺麗かと思うのですが」
「や、やめてよ! そんな見世物になるのなんて嫌よ!」
語るに落ちるとはこの事。
クリスに変なものを着せて舞台に上がらせたいのか、それとも上がった後で何か事を起こそうとしているのか。
「イブリン様は私に見世物にしたいのですか?」
「⋯⋯! ち、違いますわ!」
「ねえ、ギルランド嬢。兄妹揃ってこれ以上騒ぐのはやめてもらえるかな? あんまり度が過ぎるとコルデラ卿を呼び出すよう、学園に進言するよ?
そんなに学園の決定に異を唱えるなら学園から去ってもらっても構わないのだけれど」
アルドーは微笑んでゆっくりとイブリンの顔を覗き込む。
よく見ると目が笑っていない。
恐ろしさ半分、アルドーの整った顔が目の前にあることの嬉しさ半分。
イブリンがふるふると震えだす。
「も、申し訳ございません」
「そうそう、これはコルデラ侯爵に伝えて下さる?
わたくし、セーレナ・ラティオはクリス・アンバーブロウ様のパトロンになりますわ。生涯の。
これがどういう事かおわかりね? 『芸術』の方々は他の誰よりも理解できるはず」
その言葉に一番驚いたのは、クリスだ。
今はただの学生だが、来年には王太子妃。そしてゆくゆくは王妃となるのだ。
クリスはセーレナの左手を戴き、深く平伏した。
それを見たイブリンと取り巻きの二人は驚愕の表情で慌ただしく頭を下げる。
「必ず申し伝えます」
イブリンが悔しさを滲ませて言った。
それからすぐにアルドーに追い立てられるように生徒会室から出て行った。




