15 建国祭の前に
「生徒会が発足したばかりだが、建国祭での『お披露目』の準備に取り掛かる」
生徒会二日目、生徒会役員各自の前に資料が配られた。
春の到来とともにマグノリア王国で開催される、建国祭。
ひと月ほど前から準備が開始される。
清貧を美徳とするマグノリア王国で国民が唯一羽目を外して良い祭りだ。
普段ならば咎められるような派手な色の服やアクセサリーを身に付け、大いに呑み、食べ、そして踊る。
学園でも王族や他部門への新入生披露パーティが行われる。
簡素な立食パーティであるが、会場の設営、食事の手配など全て生徒会が運営する。
パーティの目玉は『聖女コンテスト』。
【王国マグノリア縁起】に登場する聖女ソフィアを讃え、女子生徒に聖女の格好をさせて誰が一番聖女に相応しいかを競う。
出場者は元老院各部門が選出した女子生徒一人。
生徒会でも役員の中から一人コンテストに出場させるのが慣例だ。
「さて、資料にある『聖女コンテスト』だが、生徒会も出場しなければならない。アンバーブロウ嬢、お願いできるかな?」
聖女ソフィアと言えば透けるような淡い金髪に暁の瞳。
そして白いマグノリアの花。
「わたくしがバックアップいたしますわ。今年の生徒会ではあなたが適任ですわ」
セーレナはクリスの手を取り、微笑む。
赤みがあるとはいえ、金髪の持ち主はクリスのみ。
「聖女ソフィアの瞳は青紫の暁色。だが、流石に瞳の色まで同じというのは不問とされているよ。でも、アンバーブロウ嬢は割と近いのではないかな? もっとも、各部門の中で金髪の女子生徒がいなければかつらで良いなんて、かなりいい加減な決まりだが」
「裏を返せば普段諍いを禁じられている元老院の年寄りによる、見栄の張り合いですよねえ」
アルドーの言葉を継いで、イシャーンが毒づいた。
聖女の衣装は白いエンパイアスタイルのシュミーズ・ドレス。
マグノリアの花は生花以外で表現したコサージュかブーケを持たせる。
「マグノリアはどういたしましょう? 毎年『芸術』の皆様は『虹の蜘蛛』の糸で、とても美しいものを手に添えていらっしゃいますけれど」
セーレナはその気になれば金に糸目をつけず、公爵家に出入りする外商に手配することも出来る。
しかし、クリスは折角自分が聖女に扮する機会を得たのなら、挑戦したいと思った。
「今年もそうなるのではないでしょうか。⋯⋯あの、もし良ければグラスビーズで作ってみたいのですが」
「ご自身で?」
「はい。デザインをおこすのも楽しいのですが、ひとつひとつ針を刺していくその時間が何より好きなのです」
ついビーズ愛が溢れてしまうクリス。
少し恥ずかしくなって、口の前で手を合わせ俯いた。
チラリと上目遣いでセーレナを見上げると、何やらグッと口を引き結んで扇を握りしめていた。
不思議に思ったが、すぐにいつも通り落ち着いた笑顔に戻った。
「少し重くなるのではなくて?」
「最近開発された極小のビーズなんです。コサージュ程度ではそれ程重くはならないと思います」
「そう、何か作品がありまして?」
セーレナとフリアが期待の目を向けた。
クリスは嬉しく思い、鞄から取り出す。
「実は⋯⋯、参考にと思って小物を作ってまいりました」
木箱に収められたものを丁寧に中央のテーブルに広げる。
シャラシャラと軽い音がビーズから鳴る。
幾何学模様が織られたループタイの金具とブレスレット。
役員全員がテーブルに集まり目を凝らす。
「この幾何学模様のシートはビーズ織りで、ブレスレットはビーズステッチです」
「ああ、一列まっすぐなのが織りで、互い違いになってるのがステッチなんだね」
気になって手に取ったアルドーが感心しながら見比べる。
セーレナに手渡し、さらにフリア、イシャーンに続く。
「シートを何枚か織って立体的な花の形に縫い合わせます」
「素敵ですわ。他にどんなものが作れるかしら」
セーレナの言葉にフリアも頷く。
「シートを二枚織って縫い合わせると小さなバッグも作れます。
ただ複雑な模様は時間がかかりますし、色を沢山使います。まだ色のバリエーションが少ないので自由な図案は難しいです。
それとレース糸と一緒に編み込む事もできます」
クリスはどんどん早口になる。
大好きなビーズの事になると歯止めがきかない。
それに気付いてセーレナが微笑む。
「そう、色々と出来るのね。ドレスはわたくしが手配致しますので、そちらはお願いしますわね」
「はい!」




