13 調査書
「アルドー様、鵜呑みにしてはいけませんよ」
ふいにセーレナからアルドーは声をかけられた。
振り返ると生徒会室の隣、資料室の扉の陰にセーレナが立っていた。
「君、知っていたの?」
「先日アルドー様がクリス様のお話をされた後に調べさせていただきました。⋯⋯珍しくアルドー様が女性を気にしてらしたので」
アルドーの顔が瞬時に赤く染まった。
教師から推薦の話が出てきた時点で調査すべきだったのだ。
当然他の生徒会役員候補者もすべて。
「クリス様には何の問題もございません。ですが、不可解な事柄にご両親が巻き込まれています」
「ああ、やっぱり私はそういうの気にしないといけないんだよね⋯⋯」
「いつも情報収集されるのに、何故か今回は全然その気配が見当たらなかったので。⋯⋯⋯よっぽどお気に召されたんですね。うふふ」
恥ずかしさのあまりアルドーは両手で顔を覆う。
扇を広げて視線を外しつつ肩を小刻みに揺らしているセーレナ。
さらにアルドーは耳まで赤くしつつも平静を装う。
「詳細を教えてくれるかい?」
セーレナは鞄から大きな封筒を取り出しアルドーに手渡した。
中の書類を軽くあらためアルドーは眉を顰める。
「⋯⋯これは、もう少し調査する必要があるね。この後は私が。ミニュスクール公爵家では踏み込めない所もあるだろう」
「ありがとう存じます」
セーレナは美しいカーテシーを披露して生徒会室から去って行った。
アルドーは学園に入ってからの二年間の自分を悔いた。
本ばかりでなく、人と接して得られる知識の収集をするべきだった、と。
王太子を支えるつもりでいたが、自分は王族としての意識が低かったのではないか。
未来の王太子妃に余計な気を遣わせ、むしろ足を引っ張っているのでは無いだろうか。
あれこれ考えるだけではどうにもならない。
一歩踏み出さなければ何も変わらない。
ガーデンパーティで見た、耳に光るとんぼ玉のイヤリングより輝いていた笑顔。
アルドーはそれを曇らせてはいけないと思った。
一つ大きくため息をついて、護衛を伴い帰途についた。
アルドーは王城の自室でセーレナから託されたレポートを広げる。
ふいにドアがノックされ、間を置かず侍従の服を着た少年が現れた。
「せめて返事を聞いてから入ってはどうだい?」
「隠すような事してたんですか?」
長い艷やかな黒髪、黒曜石の様な瞳。
『教育』フルーメン伯爵令息 フラッハ・フェン。
学園の三学年で成績は三位。何でも卒なくこなす優秀な少年だ。
アルドーが図書館ごもりしていた二年間、同じく本に埋もれていた少年だ。
意気投合して親交を深め、次男である身軽さからアルドーの侍従になる為に修業中だ。
「侍従になるなら当然待つだろう?」
「ああ、友達気分が抜けていませんでした。次から気をつけまーす。それはそうと、何ですか? それ」
次からっていつからだ。全然図々しさが直っていない。
口の端が持ち上がって、アルドーからはからかっているようにしか見えない。
「クローステール男爵令嬢の身辺調査だ。セーレナがミニュスクール公爵家の手のもので調査した」
「やっぱりラティオ様はしっかりしてますね」
「言うな。すでに反省しているから」
「明らかに浮かれてましたよねー。初恋ですかー?」
「頼む、至極真面目な話なんだ。茶化さないでくれ。いや、気付いてたなら言ってくれれば⋯⋯」
おどけた調子に閉口しつつ、自分の非を棚に上げるアルドー。
それを聞いたフラッハがわざとらしい思案顔をした。
「実は私なりに考えて侍従長に指示を仰いだんです。ですが王妃陛下から手を出すなとお達しがあって、私も傍観しておりました」
「うっ。また失敗したか」
『農務』出身の王妃は庭弄りの好きな女性に見えるが、実は結構なやり手だ。
成人前に嫁いだ為に、老獪な元老院を相手に立ち回らなければならなかったからだ。
子供の教育は、時折アドバイスを入れるが常に実践主義である。
まず体で覚える王太子には案外合った教育方針だが、アルドーは出だしが遅れがちだ。
「まあ、侍従長には止められましたが、学生が出来る範囲で調べる事はしましたよ。王都にあるクローステール男爵領の店に行ってくるとかそのくらいは。アンバーブロウ嬢がとっても良い子くらいしかわかりませんでしたが」
「⋯⋯ありがとう。それだけでも助かるよ。将来の侍従は私が足りない所を補ってくれそうで安心したよ。クローステール男爵家の話だからあまり広めたくはないが、私とセーレナだけでは手に余る。君も手伝ってくれないか?」




