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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第二章

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10 未来の王妃は射抜かれた

 セーレナ・ラティオは次代の王妃となるべく幼い頃から育てられた。

 教養も美貌も人一倍優れている。


 手入れの行き届いたしっとりした栗色の髪。

 なめらかな白い肌。青から緑へ移りゆく瞳。

 扇を持つ指はほっそりとしなやかだ。




 セーレナがアルドー第二王子と初めて会ったのは今から七年前、十歳の春だ。


 社交シーズンに先駆けて、貴族は王都のタウンハウスへ居を移す。

 元々国家の運営の重要さから『財務』は領地が王都のすぐ東。

 遠方ではないが、移動の時間短縮に一年のほとんどをタウンハウスで過ごす。


 貴族の仲間入りをした子供たちは、社交シーズンの始まりに王都で一堂に会する。

 王族と部門内外へのお披露目を兼ねた祝宴だ。


 セーレナはそこで、淀みなく言葉を紡ぐアルドーを目にした。

 クラーワ王妃によく似た思慮深い顔立ちを、緊張で強張らせていたのが印象に残っている。

 その時すでに王太子クレプスクルムの婚約者候補となっていたが、アルドーに直接挨拶する事はなかった。




 クレプスクルムとセーレナの婚約式典の後、二人とも十四歳の時に誓いを立てた。

「共に兄上を支えよう。僕は兄上の為に沢山の知識を蒐集するよ」

「わたくしは王太子妃教育を頑張りますわ」




 それから三年。

 アルドーは各部門で行われる『春の顔見せ』に送り出された。

 いつまで経っても婚約者を持とうという気概がない為だ。

 セーレナは女性に疎いアルドーが自力で見つけてくるとは思えないと高を括っていた。


 それが、だ。

『芸術』で気になる女性がいると言い出した。

 しかも「小さくて可愛い」と直接的な表現で。


 セーレナにとっては青天の霹靂だった。

 パーティから五日も経っている上に、その女性は新入生で教師から生徒会役員に推薦されていると言う。

 誰かと問えば、クローステール男爵令嬢とすんなり答えた。


 クローステール男爵領の主産業とコルデラ侯爵との関係をすぐさま記憶から呼び出した。

 これと言って大きな問題はない。


 それならばこの自分を抑え気味な第二王子の為に一肌脱くと奮起した。




 セーレナはすぐさま行動を開始した。

 アルドーは第二王子で生徒会長。

 生徒会役員は側近候補と見做される。


 勿論、将来王太子妃となる自分の側近候補にもなりうる。

 のんびり構えてはいられない。

 恋の成就と、安定した生徒会運営の為に。

 ミニュスクール公爵家の諜報部隊を使う決心をし、そして実行した。




 そして遂に『小さくて可愛い』女子生徒をアルドーがエスコートしてやって来た。

 ふわふわのピンクブロンド。大きな紫色のアーモンドアイ。


 ───か、可愛すぎる。


 セーレナはきつめの顔立ちで誤解されがちだが、実は無類の可愛いもの好きだ。

 王太子妃教育で疲れた心を可愛いもので癒す毎日だ。

 セーレナ付きの侍女も気を使って毎日のように可愛いものを補充し続ける程に。


 もっとも、清貧を国是とする為、ほんのささやかではあるのだが。




「ああぁぁぁ、ラティオ様、美しすぎる」

 唐突に溢れ出た言葉にセーレナは目を丸くした。

 隣では同じ様にアルドーが瞠目していた。


 クリスの目がキラキラ光る。

 今にも飛び跳ねて喜びそうな様に、セーレナは完全に射抜かれた。


「あら、まあ。ふふふ」

「ご機嫌麗しゅう存じます。クローステール男爵家長女、クリス・アンバーブロウと申します」


「ところで、アンバーブロウ嬢。聞いているかと思うが、生徒会役員になってもらえるかな?」

「私は一体どんなお役に立てるのでしょうか?」


 硬直した笑顔で、ガチガチになりながらカーテシーする姿がまた可愛らしい。

 などと感心していたが、どうにもクリスとアルドーの会話が微妙に噛み合っていない。

 不思議に思い、生徒会役員の加入に了承を得たのかとアルドーに問う。


「いや、担任教師が話したと言っていたから⋯⋯」

 目を泳がせながら何ともはっきりしない答え。


 セーレナは手にした扇で口元を隠し、冴え冴えとした眼差しをアルドーへと向けた。

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