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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第二章

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09 救いの手? それとも?

「クリス・アンバーブロウ嬢はいるかな?」


 アルドー第二王子がドアから顔を覗かせた。

 その場にいる生徒が、慌てて王族に対する礼を執る。


 だがジュールがクリスの髪を掴んだままだ。

 アルドーはそれを見て取り、普段は出さない靴音を響かせて素早く迫った。


「な、何だ? 第二王子?」

「皆は礼を解きなさい。ここは学園で私はただの生徒だからね。それと、君、手を離しなさい。女性の髪を掴むなど許しがたい行為だが、いったい何があったんだい?」


 アルドーはジュールの腕を掴み、髪を掴んだ指を一本一本剥がしていく。

 その度に髪への圧力が薄れ、クリスは拘束を解かれていった。


 すべての指が髪から外された途端、力の抜けた身体がぐらりと(かし)いだ。

 アルドーがジュールの腕を掴んだままクリスに手を伸ばしたが、それより早く成り行きを見ていたマイヤが受け止めた。


 クリスが顔を向けるとマイヤは少し不安気な目をしながら微笑む。

 胸元のポケットから出した櫛で乱れた髪を梳いていった。




 わなわなと震えるジュールの脇からフィンが歩み出た。


「リーブラ公爵が嫡男、フィン・リヒターがご挨拶申しあげます。発言をお許しください。彼はアンバーブロウ嬢が試験で不正を働いたと告発したのです」

「ごきげんよう。堅苦しい挨拶はなしでいいよ。告発とは穏やかではないが、そもそも暴力を振るっていた時点で穏やかとはほど遠いね、ギルランド君」


「クリスが上位クラスなど、何か間違っているのではないでしょうか! 自分より上などおかしいではないですか」

「そうですわ。たかが男爵家の娘が」

 大声で喚く上位貴族らしからぬジュールとイブリン。


 教室に残っていた生徒全員から非難の目を向けられる。

 双子の粗野な行為は、『芸術』の主家としてあり得ない。

 ましてや相手は王族なのだから当然だ。


 クリスは教室の非難を込めた空気をひしひしと感じ、身が縮む思いだ。


「自分の不勉強を棚に上げて他人(ひと)を貶めるのはどうかな。私は彼女の答案を見せてもらったが、とてもよく勉強して問題を解いているように見えたよ。文字も読みやすく美しかった」

「どうして王子殿下がこんな奴の答案を見たんですか?」

「アンバーブロウ嬢の試験の結果が良かったのでね、教師が生徒会役員に推薦してきたのだよ。生徒会長の私にね。納得がいったかい?」


 噛みつかんばかりに言い募るジュールに、アルドーは丁寧に言い聞かせた。

 クリスは試験の結果を褒められるのは嬉しいが、生徒会役員になれというのは正直困る。

 これ以上双子にあれこれ言われたくなかった。


 ジュールは言い返そうとしていたが、アルドーの方は話を切り上げたい様子でジュールに冷ややかな目を送る。

 口を閉ざし、様子を窺っていたイブリンにジュールは袖を引かれる。


「先日も彼女に難癖をつけていたが、有りもしない事を言うのはやめたまえ。学園と私、もちろんアンバーブロウ嬢への侮辱だと自覚しなさい。

 これからも事を荒立てようとするのなら、どうなるかわかるね?」

「それはっ! 大変失礼致しました。これで下がらせていただきます」

 双子は憮然とした表情を浮かべた。




「お待ちになって。クリス様の事が好きなら、もっとスマートに事を運ぶべきですわ」

 立ち去ろうとする二人に、流れを見てマイヤが口を挟んだ。


「なっ! 失礼します!」

 ジュールはドカドカと机にぶつかりながら逃げるように走り出す。

 うっかりその場に居合わせたクラスメイトたちは、「あー、そういう事?」と顔を見合わせながら囁き合う。

 マイヤの機転でクラスメイトの疑惑の目を少し逸らす事が出来た。


 しかし『芸術』部門内のクリスとしては、こんな醜態を見せた事に頭を抱えた。

 明日からどんな顔で授業を受ければいいのか。


 そんな様子をフィンが気遣わしげに見ている事に気付く。

「リヒター様、有難うございました」

「不正が行われているのだとしたら大変な事なので。⋯⋯いや、どちらに非があるかは一目瞭然ですが」


『司法』という責を早くも自覚しているフィン。

 クリスは我が『芸術』の嫡男との違いを思い知らされた。


「実は君にも生徒会役員をお願いしたいのだが、リヒター君。その高潔な心を生徒会で活かしてみないか?」

 アルドーが破顔し、声を掛ける。


 しかし、フィンは『司法』には覚える事が多く、学生のうちに学習したい。

 そう言って辞退した。


 アルドーは勿体なくも思いながらも、フィンの努力の邪魔はできないと了承する。

「たまに助言を求める事くらいはいいかな?」


 フィンは心苦しさと嬉しさをないまぜにして、つい、と眼鏡をあげた。

「勿体なきお言葉です。僕で宜しければ」

「ありがとう」




 フィンはアルドーとクリスに軽く頭を下げ、その場を去って行った。

 それを見送ったアルドーは、クリスに気遣わしげな表情を向けた。

「大丈夫かい? こんな時にちょっと憚れるが、生徒会役員になって欲しいんだ。それと先日のブローチの話を。カフェテリアに一緒に来てもらえるかな?」


 流れる様な所作で右手を掬い取られ、驚くクリス。

 まるで意に介さない様子で、アルドーはそのままエスコートして歩き出した。

 女子生徒の視線を一身に浴びて、ますます身の置きどころのなさを感じた。


 教室から連れ出されていくクリスに、マイヤが慌てて机の上の鞄を手渡した。


「ありがとう、マイヤ様。明日ゆっくりお話しましょう」 

「ええ、クリス様。ごきげんよう」




 見送るマイヤはこめかみを押さえながらため息を漏らす。

「前途多難ね⋯⋯」

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