第22話
「今夜は――高橋くんの“死からの帰還”を祝おう!!」
「OHHHHH――!!」
キャンプ全体が、一気に歓喜の熱に包まれる。
その空気は、そこにいる誰一人として例外なく染め上げていた。
――指名手配中の緑髪の少女でさえも。
彼女はその場にごろんと仰向けになり、空を見上げながら、かすかに口元を緩める。
「……そっか」
「私の錬金術……無駄じゃなかったんだ……」
「才能に無駄はない。使い方を間違えていただけだ」
神代が、彼女の隣に腰を下ろす。
少女はしばらく空を見つめたまま――ぽつりと呟いた。
「……ありがとう」
「ん?」
「償う機会をくれて……ありがとう。自分がただ迷惑をかけるだけじゃないって思えたら……少し、楽になった」
「礼を言うなら、自分の努力にだ。それと――」
神代が言いかけた、そのとき。
重く硬い音が、地面を叩いた。
ガン、ガン、と響く鉄靴の足音。
「ダンジョン警察!?」
「なんでこんなところに……!」
人々の間にざわめきが広がる。
「この場に逃亡犯がいる。全員、距離を取れ」
重装鎧のダンジョン警察が身分証を掲げると、周囲の人々は慌てて後退した。
緑髪の少女はゆっくりと立ち上がり――
自ら両手を差し出す。
「……私を捕まえに来たんでしょ。さっさと拘束して。そうすれば、あなたたちも賞金を受け取れる」
――しかし。
神代は、静かに剣を抜いた。
「時間を稼ぐ」
「……え?」
「抵抗するわけじゃない。ただ、説明の時間を少し延ばすだけだ」
「あなた……」
少女は目を見開く。
「あなたの錬成を見た。魔力制御は異常なレベルだ。少なくとも、同年代の中では飛び抜けている」
「短時間で五回連続錬成して、暴走の兆候は一度もなかった。通常状態で魔力暴走を起こして火災になるとは考えにくい」
「だが、手配書には“住宅地での違法錬金、魔力暴走による火災”と明記されている」
神代は一歩踏み出す。
「無実かどうかは、まだ断定できない。でも――」
「私は真相を調べる。あなたに弁明の機会を与える。それが、命を救った報いだと……みんなもそう思ってるはずだ」
鎧の警察官が、重い足音と共に少女の前に立つ。
その圧に、空気が一瞬張り詰めた。
周囲からざわめきが広がる。
「えっ、あの錬金術師が逃亡犯……?」
「マジかよ……」
「でもさっき、必死に薬作ってたじゃん!」
「倒れそうなのに無理してたし……悪い人には見えなかったけど……」
「いや……罪滅ぼしでやってただけかも……」
「……」
「警察の方!何かの間違いじゃないんですか!」
担任教師が、前に出て立ちふさがる。
鎧の男はゆっくりと見下ろし、低い声で言った。
「どけ」
「彼女は、私の生徒を救ってくれたんです! だからせめて、どんな罪なのか教えてください!」
「住宅地での違法錬金、および放火」
「……え、本当に!?」
「証拠は揃っている」
「……」
あまりにも重い罪状に、担任は言葉を失う。
やがて、苦い表情のまま道を開けた。
「でも、彼女は俺の命を救ってくれた!」
「そうだよ! さっき見てただろ!? あのままだったらあいつ、確実に死んでた!」
「減刑とか……そういうのにならないのか!?」
周囲の人々が口々に訴える。
鎧の警官は、その場でしばらく沈黙した。
――そして。
ゆっくりと両手を頭へと持っていく。
カチリ。
ヘルメットが外れる。
「……蒸し風呂かよ……」
「……」
現れたのは、どこか疲れきった中年の顔だった。
彼は頬をぱたぱたと仰ぎながら、困ったように言う。
「救助行為については、きちんと裁判所に報告する。それから罪状についてだが……」
「安心してくれ。すでに検査班を呼んで、“回溯魔法”で現場の再現を行っている。真相はすぐに分かるはずだ。無実の人間を罰することはない」
「回溯魔法!?」
少女が驚いて顔を上げる。
「ああ。珍しいが、今回は都合が良かった。ちょうど通りかかった回溯術師がいてな。現場を再現してもらってる」
「……よかった……!」
少女の顔に、はっきりと安堵が浮かぶ。
「それと――今回、俺は逮捕しに来たわけじゃない」
「え……?」
「火災発生後、お前は必死に住民を避難させ、死傷者をゼロに抑えた。それと、現場にいくつか不審点があること、さらにお前の経済状況も考慮されてな」
「裁判所は、賠償金を準備するための猶予――仮釈放期間を認めた」
「ただし」
男は足元から金属製の輪を取り出す。
「この位置追跡用の足輪を装着すること。裁判が終わるまでだ」
「問題ありません!」
少女は迷いなくそれを受け取り、自分の足首に装着した。
「はぁ……やっと終わった……この鎧、マジで重いんだよ……俺は警察であって騎士じゃねえんだっての……」
ぼやきながら、彼は再びヘルメットを被る。
「よし! 全員――」
手を振り上げて叫ぶ。
「――宴を続けろ!!」
「OHHHHH――!!」
歓声が再び弾ける!
祝祭は続く――命の帰還を祝って!
「……気のせいか? 遠くの空から、なんか叫び声が聞こえたような……」
酔っ払いの男が、ぼんやりと空を見上げる。
「何言ってんだよ。G172にドラゴンなんていねえだろ」
……
……
「がおおおおおおお!(お前ら……なんか忘れてない??)——————」
「がお(TДT)——!」




