第23話
「ガウ(あ、みなさんこんにちは)」
「ガウ(ご覧の通り、ここは紗和のごはん配信ルームです……)」
「ガウ(ぷかぷか飛ばされてるだけだと暇すぎるので、みなさんと一緒に景色でも見ようかなって)」
「ガウ(夕焼け、きれいですよね)」
『??? 何これ、この配信なんでパンダが配信してんの!?』
『配信者どこ行った!? なんで生きる気力を失った顔したパンダだけが空飛んでるの……』
『私、幻覚見てる? なんでこんな怪奇映像が流れてるの……』
「捕まえてーーっ! 捕まえてえええっ!!」
地上では二つの人影が必死に駆け回っていた。
大声で叫びながら、何度も何度も投げ縄を放っている。
風に飛ばされた風船を追いかける子どもみたいだ。
画面だけ見れば、やたら賑やかだった。
「くそっ! 風が強すぎる! 飛ぶの速すぎるって! 縄が届かない!」
神代は何度も何度も投げ縄を放ち続ける。
けれど、私まではまだまだ遠い……。
「ガウゥ(遺言なら、なくもないんですよね)」
私は目を細め、すべてを諦めたような顔で遠くを見つめた。
「ガウ(竹の味、ほんと一回食べてみたかったなあ。パンダにとっては、きっとすごく美味しいんだろうな……じゃなきゃ、あんなに食って食って食い続けるわけないし……)」
『……なんでこのパンダ、急に遺言残しそうな顔してるの!?』
『パンダにしては表情豊かすぎない?』
『ドルイドならパンダとかリスに変身できるって聞いたことあるし、この人ドルイドなんじゃ?』
『いや飛んでるんだがあああ!! パンダって飛ぶの!? ドルイドでもそれはおかしくない!?』
「ガウガウ(ポチポチ、ていうか私なんでパンダになってるの?)」
【パンダ化の原因を分析中……思考完了。所要時間4秒。】
【ドルイドがパンダ化を試みて失敗した場合、弱いモルモットになる例があります。本来の薬剤効果は「弱体化・モルモット化」。反転効果により「パンダ化」へ変質したものと思われます。】
「ガウ!?(ポチ、私の言葉わかるの!?)」
【言語として理解しているわけではありません。ただし、あなたの表情と声色の学習データにより、ある程度は悩みを予測可能です。】
「ガウ!(助かった! じゃあ私どうやって降りるの!?)」
【褒めていただきありがとうございます。当然の職務です。】
「……ガウ!?(誰が褒めたの!? 降り方を聞いてるの!)」
【クリスマスターキーの調理法は、まず下処理を済ませたターキーの内外に下味を均等に塗り込み、12時間以上漬け込みます。詰め物には玉ねぎ、イタリアンソーセージ、角切りパンなどを使用し……オーブンを180℃に予熱後、1kgあたり35分を目安に焼成してください。】
「……」
こいつ、ちょっと頼れるかもって思った私が馬鹿だった。
『このパンダかわいすぎる~~』
『ねー、私も最初そう思ってこの配信開いたんだよ。配信者名を見るまでは』
『……え、動物園配信じゃなかったの!?』
『つまりこの人、変なもの食べてパンダになったってこと!? ははは!』
『だめだ、この配信そのうち笑い死ぬwwwwww』
『だから変なもの拾い食いするなって言っただろ!!!!!!wwwww』
「ガウ!(人の不幸で笑ってないで助けてよ! 誰か案を出して!)」
「……動かないで!」
背後から、縄が空気を裂く鋭い音がした。
次の瞬間。
足首がぎゅっと締めつけられる。
「!?」
「かかった!!」
神代と緑髪の少女が、慌てて縄を掴み、全力で私を地上へ引き寄せる。
風は強い。
しかも全身の毛が風を受けて、空気抵抗まで増えている。
簡単にはいかない。
まるで巨大な凧を回収しているみたいだった。
……なのに、よりによってこのタイミングで。
突然、肩のあたりに凄まじい力が加わった。
下がっていた高度がぴたりと止まり、
それどころか、再び上昇し始める。
「……何あれ!?」
神代と緑髪の少女は縄にしがみついたまま、恐怖に顔を引きつらせ、私の上空を見上げた。
「……あれは……」
『詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ!!』
コメント欄が、突如として狂ったように流れ始める。
『層主!? ありえない……G172ダンジョンってG級評価だろ!? なんでここに層主級魔物がいるんだ!?』
『層主???』
『マジで層主なの!? 勘弁してくれよ!! うちの娘、今朝そのダンジョンに修学旅行で入ったんだぞ!?』
『そうだよ! 今日G172には学生が大量に来てる!!』
『まさか……』
『ダンジョン異変だ!!!』
『嘘だろ……なんでよりによって今日なんだよ!?』




