第20話
「――錬金、開始!」
緑髪の少女は、迷いのない手つきで[魔晶粉末]をばら撒き、地面へと錬成陣を描き上げていく。
――直径一メートルほどの円形陣。
その内部に正方形、さらにその内側に四芒星。
四芒星の四つの頂点が、正方形の各頂点と結ばれている。
「四芒星だと……!?」
「嘘だろ……四芒星の錬金陣!? 本物かよ……!?」
周囲から一斉にどよめきが上がる。
「四芒星は四種素材の同時融合を意味する……四階錬金術師の証だぞ……!? こんな人材、普通はSランクダンジョンにいるはずだろ……!」
……は?
私のボロアパートの上の階に、四階錬金術師が住んでたの!?
四階錬金術師ともなれば、完全に高位錬金術師の領域だ。
素材が一種類増えるごとに、作れる薬の組み合わせは幾何級数的に増えていく。
一階錬金術師は単一素材の精製のみ。
二階でようやくa+bの組み合わせ。
三階でabb、acc、abc……新たに七通り。
そして四階では、一気に三十一通りに跳ね上がる。
――だが同時に、必要な魔力量、精神力、そして制御精度も、同じく幾何級数的に跳ね上がる。
だからこそ、四階錬金術師は極めて希少。
どのギルドも血眼で勧誘するレベルの存在だ。
「……まだ安心しないで」
緑髪の少女は静かに言いながら、錬成陣の前に座り込む。
四芒星の各頂点へ、必要素材を一つずつ配置。
そして、中央へ空のビーカーを置いた。
時間はない。
一秒も無駄にせず、すぐに詠唱へ入る。
四隅の素材が、同時に光を帯びる。
そこから、淡い光がすっと立ち上る。
まるで魂を抽出されたかのように。
その光は中央へと集まり、絡み合い、溶け合い――
やがて液体へと変わり、
ぱしゃん、と音を立ててビーカーへと落ちた。
「早っ……もう完成したのか!?」
「うん……でも、使えるかは分からない。私の“スキル”のせいで……」
「何人分だ?」
「三人分……って、え、えええ!?」
彼女が言い終えるより早く、私はビーカーをひったくり――そのまま一気に一口飲み込んだ。
ごくん。
ひんやりした感覚が一瞬で脳天まで駆け上がる。
……いや、冷たすぎない!?
[毒効果反転が発動しました!]
[水属性親和性+5(永久)]
[状態「超高速読解(1時間)」を獲得:視界内のあらゆる文字情報を瞬時に読解・理解可能]
「???」
なにこの毒!?
逆転前は“文字が読めなくなる”とかそういうやつ!?
なんで水属性素材でこんな効果になるの!?
頭に水入るのも水属性扱いなの!?
「ダメ、これ毒!」
私はぶんぶんと首を振る。
「……やっぱり」少女は小さくため息をついた。
すぐに新しい素材とビーカーへ交換する。
再び光が走る。
私は迷わずそれを奪い取り――
ごくん。
「辛っ!? 辛い辛い!」
今度は激辛!?
味もランダムなの!?
[毒効果反転が発動しました!]
[水属性親和性+5(永久)]
[状態「魂帰還(1時間)」を獲得:いかなる恐怖でも魂が肉体から離脱しない]
……いや危なっ!!
元の効果、魂が抜ける系!?
怖すぎでしょ!!
「これも毒」私は即答する。
「材料、こっちで変える。君は錬成に集中して」
神代が収納リングを使い、瞬時に素材を入れ替え、新しいビーカーを設置した。
「……分かった。あと数回なら、まだ魔力は持つ……」
少女の額にはすでに汗が滲んでいる。
再び手を掲げる。
私は完成した瞬間にまた一口飲む。
……
あれ?
体が、急に軽く……
[毒効果反転が発動しました!]
[水属性親和性+5(永久)]
[状態「重力軽減(1時間)」を獲得:重力影響−99%]
「うわあああ助けて――!?」
ふわっ――
吹いた風に乗って、私の身体がそのまま空へ!
――が、神代が即座に腕を掴んで引き戻した。
うん、これもアウト。
「次! 早く! 続けて!」
「急げ! もう限界だ! 完全に呼吸できてない!」とヒーラーが叫ぶ。
「……これ以上速くは無理!」
魔力消費が激しすぎる。
緑髪の少女の顔色は明らかに青白い。
ここまでの高速錬成は、魔力制御を極限まで使い切るものだ。
――もう、限界に近い。
「あああ……お願い……成功して……!」
少女は低く叫びながら、再び手を掲げる。
光が弾ける。
ごくん。
私はまた一口飲んだ。
……あれ?
周りのみんな、なんか小さくない?
あと、なんか……無性に竹が食べたい。
[毒効果反転が発動しました!]
[水属性親和性+5(永久)]
[状態「パンダ化(1時間)」を獲得]
「がお(これ毒)――!」
「……それは見れば分かる」
神代がこめかみを引きつらせながら、私をロープで木に縛りつけた。
放っておいたら風船みたいに飛んでいくからね、私。
「……もう魔力が尽きかけてる」
少女の体がぐらりと揺れる。
唇の色も完全に失われていた。
それでも――彼女は手を上げる。
「……次こそ……絶対に……」
「来い――!」
光が弾ける。
「水元素注入薬剤――!!」




