第12話
「防風ゴーグル、呼吸マスク、火炎石、蚊帳、保温スリーピングバッグ、圧縮水元素を満たした水筒……うん、忘れ物はないはず」
女剣士さんは軽く手を振る。
すると地面に並べられていた大量のサバイバル装備が、一瞬で彼女の指輪の中へと吸い込まれていった。
私は自分の小さなリュックを見て、それから彼女の指輪を見て――
目をきらきらさせる。
「それって……もしかして、伝説の収納リング……?」
「容量は三立方メートル程度よ。伝説ってほどじゃないわ」
「それでも高そう……」
「働くようになれば、そんなに高く感じなくなるわよ……あ、そうだ」
女剣士さんはふっと思い出したように言う。
「学校の修学旅行に参加しないメリットもあるわよ。配信しながら旅行できるもの」
「たしかに!」
学校の修学旅行は、個人配信は禁止されていて、学校側の記録映像しか許されていない。
でも私は正式な参加者じゃないから、普通に配信できる。
これなら、同じエリアでみんなと一緒に行動しつつ、
配信で生活費も稼げるし、ポチの嗅覚モジュールも早く買えるかもしれない。
……そう考えると、申し込みに間に合わなかったのも、悪いことばかりじゃない。
女剣士さんは私のリュックを軽くつまんだ。
「今回の配信は長時間になるわ。ポチのバッテリー、多めに持ってきてる?」
「いっぱい持ってきた!」
リュックの半分、ポチのバッテリーで埋まってるし!
一週間は余裕で持つ!
「防風と保温装備は? G172ダンジョンは潮汐ロックされた惑星よ。片側は常に恒星に照らされて、ほぼ溶ける寸前まで焼かれている。一方で反対側は永遠の夜で、気温はマイナス150度。温度差でとんでもない嵐が発生するわ」
「全部持ってる! あと調味料も!」
「……それなら問題なさそうね。じゃあ行きましょう。配信も、旅行も――スタート!」
――二日ぶりに、私は再びG172ダンジョンへ足を踏み入れた。
配信開始。
今回は「永夜」側に近い古代灯台の転送ポイントではなく、
「永夜」と「永昼」の境界に位置する森林エリアを選んだ。
タイミングもちょうどよく、少し離れた場所から先生の説明が聞こえてくる。
「諸君! 本日より君たちは新時代の冒険者だ! 宇宙各地のダンジョンを巡り、宝を見つけ、人類の未来を切り拓いていく!」
引率の教師が、生徒たちの前で熱のこもった演説をしている。
若い生徒たちの目が、期待で輝いている。
「ダンジョンが出現してまだ三年。しかし、そこから持ち帰られた資源は、すでに世界を大きく変えた!」
「雷電シャークの分泌物はAIの電力問題を解決し、覚醒ポーションは人類にスキルを与え、魔導書は日常生活に魔法をもたらした!」
「ダンジョンとAIによって生活は便利になったが……同時に雇用問題も生まれた」
「多くの仕事がAIや魔導人形に置き換えられ、人々はダンジョン関連の職業へと活路を求めている!」
「ダンジョンには――すべてがある!」
「富! 力! 名声! 友情! 愛! 夢!」
「さあ、答えろ! 君たちは何を求める!? 一人ずつ、大きな声で叫べ!」
教師は拡声器を最初の生徒に渡す。
「俺は最強の魔物ハンターになる!」
少年が全力で叫ぶ。
「いいぞ! 次は君!」
「私は最強の錬金術師になります!」
「よし、次! 恥ずかしがるな、もっと大きな声で!」
「すべてのダンジョンを巡って、最も正確な地図を作ります!」
「素晴らしい! 次!」
「仲間と最強の勇者パーティを組んで、S級ダンジョンの魔王を倒します!!」
「いいぞ、その意気だ!」
次々と叫ばれる夢。
地平線の彼方に浮かぶ赤色矮星を背に、全員の顔が青春の光で輝いている。
「次の者――」
「え?」
気づいたら、マイクが私の手に押し付けられていた。
え、待って?
なんで私も参加する流れになってるの?
「少女よ! 君の夢を語れ! どんな夢でもいい! 恥じる必要はない! 口にすることが、実現への第一歩だ!」
教師が親指をぐっと立てる。
いやいやいや、誰!?
私この人たち知らないんだけど!?
クラスも違うよね!?
助けて剣士お姉さん!
私は神代凛華に視線を送る――
……あの人、いつの間にか遠くに避難して、ニヤニヤしてるんだけど。
配信コメントも全部、
[wwwwwwwwwww]
って感じで、完全に面白がってる。
「……」
周囲の熱気と、無数のまっすぐな視線に包まれて、
私はごくりと唾を飲み込んだ。
……この空気、
何も言わないほうが失礼かも。
「……わ、わかりました」
深呼吸する。
「私の夢は――」
「健康でいること!! 一日三食ちゃんと食べること!! ぐっすり眠れて悪夢を見ないこと!! 嬉しいときも悲しいときも、周りに迷惑をかけないことです!!」




