Coma
しばらくして、琵琶湖側から京都に入ろうかと考えた。
あまりそっち側を通ったことがなかったからだ。
そして、もうすぐ事故渋滞らしい。
とりあえず、飛島インターで降りる。
「これ、とびしまって言うんだね。飛鳥かと思ってたわ。」
そう言って左を見る。
2人とも寝ていた。
片方は首が心配になるぐらい曲がっていて、もう片方は膝の上で丸まっている。
とりあえず、この独り言はなかったことにして、
そのまま飛島を降りてバイパスへ向かった。
順調に進んでいた。
赤信号に差し掛かり、車を止める。
青に変わり、アクセルを踏む。
その瞬間、確実に違和感があった。
エンジンの回転数だけが上がり、速度が出ない。
もう一度踏む。
回転だけ上がる。
車は、少ししか進まない。
そのとき、わかった。
──────ベルトが滑っている?
運よく、左にガソリンスタンドが見え、私はそこに車を入れることにした。
するとガススタの中央で、車は動かなくなった。
「どうしたの? 動かないの?」
「うん。壊れた。」
私たちは車を押すことにした。
私はこの車に関する知識を得るのが好きだった。
構造も半分くらいは理解しているつもりだった。
だから、きっと分かっていた。
死んだことを。
でも、知りたくなかった。
私はスマホを取り出して調べた。
知っているのに。
もう分かっているのに。
それでも、車の中で調べ続けた。
ただ、CVTの中のバルブボディ。
あれが油圧を作れていないだけなら、
ベルトを挟み込めず、
動力が伝わらない可能性も、まだある。
私はそう思うことにした。
そう思いたかった。
だから、
「これ、CVTのバルブボディが壊れたのかもね。
まだ直せるわ。」
平気を装って瑠璃に言った。
「そうなんだ。」
寝起きなのか、
状況が飲み込めていないのか。
瑠璃は、いつもの調子でそこにいた。
とりあえず、JAFを呼んでレッカーしてもらうことにした。
しばらくしてJAFの人が到着し、診断機をつなぐ。
「CVT異常って出てますね。」
「近くのディーラーまでレッカーしますね。」
二件目で、ようやく受け入れてくれるところが見つかったらしい。
私たちはレッカー車に乗り、ディーラーへ向かった。
レッカー車の中、瑠璃はなぜか楽しそうだった。
多分、レッカー車に乗れることにワクワクしている。
そしてJAFの人と駄弁っている。
「京都に行く途中だったんですよ。」
「これで金沢とか新潟とか京都とか行ったんですよ!
しかも何回も!」
「洗車とかもして、めっちゃ綺麗にしてたんですよ。ね!」
「そうだね。」
すごい饒舌だ。
JAFの人も、ちゃんと会話に付き合ってくれていた。
優しい人だ。
しばらくして、ディーラーに着く。
話を聞いてくれた整備士の胸には、一級整備士のバッジ。
知識量なんて、きっと私は足元にも及ばないだろう。
そして、たぶんこの人が受け入れを許可してくれたのだと思う。
私はいろいろ質問する。
「やっぱりベルトが滑ってるんですかね。」
「バルブボディだけじゃダメですか。」
「CVTFとか、定期的に交換してて……。」
そう言いながら、
自分で作った整備記録の紙を渡す。
そのときの記憶は、あまり残っていない。
もう治らないのだろうか。
という考えが、頭の大半を占めていた。
ただ、話していくうちに
「おぉ。これは結構大事にしてたんですね。
じゃあ、このままという訳にはいかないか。」
笑いながらそう言っていた。
私にとって、この言葉が頭にこびりついて離れなかった。
どれ程、この言葉に救われただろうか。
どれ程、この言葉を望んだだろうか。
誰も、私の車のメンテナンスなんて興味を示さない中で、
最後にこの人だけが理解してくれた。
それが、たまらなく嬉しかった。
涙が出るほど嬉しかった。
でも泣いてはいけない。
私は平静を保ったふりをしていた。




