表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Anpomo tape  作者: Nuo
2/5

Agonal breathing

「もしもし? 明日3時ぐらいに出るよ。深夜割引使いたいから。」


「早い。なにそれ。」


「またね。」


ブチッ。


これはいつもの流れだ。

相手にyesかnoを言われる前に切るのは、たまにとても重要だ。


とりあえず準備をしなくては。


そう思って、車に荷物を積み始める。


この前クーラントを替えた。少し高いやつだ。

エンジンオイルも替えた。

CVTF(変速機のオイル)も自分で高いやつに替えた。


ボタンを押すと、エンジンはいつも通り回る。


メーターは21万キロを少し越えていた。


以前、瑠璃にそれを見せたことがある。


「すごいでしょ。」


「そうなの?」


あの子はあまりピンと来ていないみたいだった。


この前は金沢に二回、新潟にも京都にも行った。

免許を取ってから、距離はすごい勢いで伸びていった。


自分で塗装した車に、旅行の荷物を積んでいく。


充電器。

衣類。

予備のエンジンオイル。


車中泊の道具も必要だな。


そんなことを思いながら、準備を進める。


全部積み終わったあと、瑠璃に電話する。


「もう行くよ。」


「はい。」


瑠璃は文句を言わない。


私の旅にも付き合ってくれるし、

洗車にも付き合ってくれる。


ただ、


「二千キロごとにオイル交換するのは、ちょっとキモい。」


とは言っていた。


みかんを乗せて出発。


しばらくして、瑠璃の家の前に着いた。


「久しぶりだね! みかん!」


発電できそうなぐらい、しっぽを左右に振っている。


リュックと、ちょっとした手荷物。

それをトランクに放り込み、私は車を走らせる。


「ねぇ、朝早くない?」


「深夜割引めっちゃでかいからね。」


「眠い……。」


「これ、この前スタビリンク変えたら静かになったの。」


「へぇー。」


「下に緩衝材噛ませてみた。

エンジンルームもめっちゃ綺麗にしたし。」


「また車の話ばっかり。

なんでそんなことになったの?」


「免許取ってからかな。分かんないね。」


「ほぇー……。え、またこの曲リピート!?」


「いいだろ、別に。」


ノイローゼになりそうな瑠璃を横目に、私はインターへ向かう。


この前、父は


「なんか買った頃の乗り心地に戻ってきたな。」


と言っていた。


それなのに瑠璃はあまり気にしていない。

たぶん興味がない。


まあ、他人に趣味や価値観を押しつけるのは違う。


私はアクセルを少し踏む。


この車は、どこまで進むのだろう。


しばらくして、私たちはインターを通る。


4時ちょうど。


「4時ちょうどってどうなの。」


「なにが?」


「深夜割引。」


「4時までだから、だめなんじゃない?」


「いや、10までの数だったら10入るよ。」


「知らない。出てみればいいんじゃない。」


「まぁ、そうか。」


たしかに、もう起きたことは仕方ない。


「事故渋滞だって。」


「なら小田厚使うしかないね。」


そう話してるうちに、

インターのきついカーブに差しかかる。


その瞬間、

左に置いてあったぬいぐるみが

するすると真ん中に滑ってきた。


「見てこいつ! こっち来たよ!」


瑠璃が爆笑する。


つられ笑いは勘弁してほしい。


「これ伊勢で買ったスヌーピーのやつだよね。

見て。こっち見てる!」


私はなるべく聞かないようにする。


「そういえばさ。」


「なに。」


「熊野古道行こうとしてた時、

山道で鹿にぶつかったよね。」


「うん。」


「あの鹿、生きてるかな。」


「速度遅くてよかったよね。

生きてるよ、きっと。」


「痛そうだったよね……。」


急に、センチメンタル。


そんなことを話しながら、小田厚に乗り換え、

箱根峠を越えていく。


その時は特に問題はなかった。


朝、ボンネットを開けて音を聞いたとき、

少し変な音がした気もしたが、

気にするほどでもないと思った。


箱根峠も無事に越える。


伊豆縦貫から、新東名へ。


制限速度は120。


私の車は15年前の車なのに、

120キロ出しても驚くほど安定していた。


「金沢とか二回行ったじゃん。

どうせなら雪降ってる時に行ってみたいよね。

せっかく高いスタッドレス買ったし。」


「まぁ、いいんじゃない。」


「勉学の地として中々秀逸な土地だよね。

京都と並んで。」


「それは知らない。」


あまり興味はなさそうだ。


私はまだ北海道とか沖縄とかも行ったことがない。


でも金沢に行ったときは、結構感動した。


二十数年生きてきて、

こんな面白い土地があったのかと思った。


新潟のマイナーな朝市も、

あのコミュニティや安さに驚いた。


まだまだ、

いろいろな場所に連れて行ってもらわないとな。


そんなことを考えながら、曲を変える。


しばらく新東名を走る。


追い越し車線に入る。


アクセルを踏む。


エンジンの回転が上がる。


その瞬間、

ほんの一瞬だけ違和感があった。


気のせいか。


まあ、

走行距離も走行距離だ。


多少は仕方ない。


私は車を走らせ続けた。


曲はいつの間にか止まっていた。


新東名は空いている。


朝日が車内に差し込む。


瑠璃はいつの間にか寝ていた。


エンジンの音と、

タイヤのロードノイズだけが続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ