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戦闘開始と新たな武器

封印を解除した大成、義兄の流星が、それを感知し、人間の国が動き出した。

【パルシアの森・人間の国側】


真夜中、月が昇っている中、カナリーダ達は、魔人の国パルシアの森へと辿り着き、森の中を進んでいた。


「ところで、流星。どうしたの?そんな難しい顔をして」

流星の腕に抱きついているメルサは、流星の顔を覗き込んだ。


「いや、変だと思ってな…」

流星は、周りを見渡した。


「何が変なの?」

「順調に進んでいますけど?」

メルサとツカサは、首を傾げた。


「そこが問題だ。待ち伏せどころか、罠も何も仕掛けてないのが特に。接近されるほど、首都に近づかせることになる。だから、普通は、罠を仕掛け軍隊を配備させる。最低限でも、罠を仕掛けていない場合は軍隊を配備するか、今回みたいな足場の悪い場所は、お互い不利になるの場所は軍隊を置かず、代わりに罠を仕掛けるのが定石だ」

「確かに、そう言われたら、そうね…」

「そうですね…」

流星の説明を聞いた2人は、深刻な表情に変わった。


「流星。それよりも、そのことはカナリーダ達に伝えたの?」

「ああ、一応レゾナンスでカナリーダと妹のサリーダ、それに鷹虎兄弟に伝えたが、あいつら笑いながら一蹴して聞こうとしなかった。あいつら、大成をあまく見すぎだ。痛い目に遭うぞ」

頭を掻きながら流星は、溜め息を吐く。


「へぇ~…。あなたを笑ったの…へぇ~」

表情に影が落ちたメルサは、笑っていたが目は笑っておらず、体から異様な魔力が放たれた。


「お、落ち着いて下さい、姫様。流星さんも説得して下さい」

メルサの顔を見たツカサは、恐怖を感じて顔を引きつりながら慌てる。


「そうだな。まず、落ち着けメルサ。それよりも、俺達はあいつらから離れるぞ」

「……。わかったわ」

流星に言われ、メルサは一息ついて落ち着いた。


「えっ!?離れるのですか…?」

「大丈夫。心配無用よ、ツカサ。流星が居れば、敵が誰であっても、どれだけ居ても、流星には敵わないわ」

不安な表情に変わったツカサを、メルサは胸を張って教えた。


「それは、言い過ぎた。今回は、下手をすれば俺達にも甚大な被害が及ぶ可能性がある。だから離れる」

「わかったわ」

「わかりました」

溜め息しながら、流星は説明をし、3人は500mほど距離をとった。




【パルシアの森・魔人の国側・夜】


その頃、エターヌとユピアを除く、大成達はパルシアの森の中央より、少し手前に配備した軍隊と合流していた。


まだ、幼いエターヌとユピアは、護衛の方を任せていた。



大成達は、指揮を任せていたギランに歩み寄る。

「お疲れ様、ギラン。勇者達は、まだのようだな」

「これは、修羅様。それに皆様。はい…ですが、そろそろ罠の区域に踏み込む頃だと思われます」

名前を呼ばれたギランは、振り返って敬礼をした。


大成は目を瞑り、集中して魔力感知を行い、相手の軍隊の人数と位置を感知する。


「そうだな。相手は、およそ1万の軍勢か…。予想したルートを通っている。中には数名、強者が混じっているな。優勢になっても、決して油断はするなよ」

(この気配…やはり、流星義兄さんも来ているな…。それに、あと他の6人いや、少し離れている場所にもう1人いるな。それにしても、厳しいな。離れている奴は、流星義兄さんには及ばないが、ローケンスさんでも手に負えなさそうだな)

深刻な表情で大成は、皆に教えた。


「大成君、魔力感知で感知できているの!?」

イシリアも、森に入った時から魔力感知を鋭敏にしていたが、距離が離れすぎているため、今でも感知できないでいた。


「ん?ああ」

頭の中でいろいろ考えていた大成は、少し遅れて頷き肯定する。


「あの…もしかして、向こうも此方を感知しているのでは?」

不安な表情になったウルミラは尋ねた。

作戦がバレている可能性が高まり、皆はざわついた。


「おそらく、大丈夫だ。確かに、流星義兄さん…。いや、勇者なら感知していると思う。だが、罠を施した位置によって、そのことを教えず、連携をとっていない可能性が高い」

「修羅様、罠の位置とどういう関係があるのですか?」

意味がわからなかったローケンスは、尋ねた。


「ああ、人間の国の軍隊は、一枚岩ではない。そして、罠を施したのは中央だ。わかるか?」

ヒントを出した大成は、周りを見渡した。

だが、誰も理解できていない様子だった。


「わかりやすく言えば、勇者は、俺が入り口に軍隊を配備していないことに気付き、森の入口辺りで、指揮官に罠を警戒するように促すだろう。だが、今回の指揮官は、手柄を自分のものにしようとしているはずだ。そんな奴が、素直に勇者の警告を聞くとは思えない。そして、勇者は、そんな輩を見捨て、次から放置、無視をする」


「なるほどね。入口で無視したことで、中央付近で、私達の気配を感知しても、見捨ているから教えないということね。だから、罠を中央に仕掛けたのね」

顎に手を当て、納得したジャンヌは頷いた。


「まぁ、合っているが。8割の回答だな。罠の配置を中央にしたのは、他にも理由がある。1つは、俺が魔王になってから間もないことで、人脈がなく、人手不足で罠や待ち伏せができないと思わせることや、パレシアの森はアップダウンが多く、キツいだろう?一時、待ち伏せをしていなかったら、相手も戦いにくい場所を遠ざけていると思い込み。勝手に、決戦は森を出た場所と判断し油断する」


「「なるほど」」

「「なるほどです」」

皆は納得し頷いた。


((この子、本当に恐ろしいわね))

ミリーナ、ウルシア、マリーナの3人は、大成の頭の良さに驚いた。



「ところで、大成。気になることがあるの。あなたは、どんな罠を施したの?」

ジャンヌは、大成が罠を設置したと説明を聞いていたが、どんな罠かは聞いていなかった。


「まぁ、1つ言えることは、王道な罠だ」

「「王道ねぇ…」」

「王道ですか…」

「王道か~」

ジャンヌ、イシリア、ウルミラの3人は疑っているような表情で大成を見詰め、マキネは右手の人差し指を口元に当てながら考えた。


他の皆は、大成を信頼していており、何も不安はなく黙っている。


「ん?何だ?」

「「何でもないわ」」

「何でもないです」

そんな視線が気になった大成は尋ねたが、3人は呆れた表情で答えた。


「とりあえず、いつでも突撃できるように準備だ」

「了解!」

ジャンヌ達の反応を気にしないことにした大成は、ギランに指示を出し、ギランは深々と頭を下げた後、すぐに各隊長に指示を出しにいった。




【パルシアの森・中央付近】


森の半ばまで進んでいるカナリーダ達は、大成が罠を仕掛けた場所とは、知らずに足を踏み入れていた。


「聞いてもいいか?カナリーダ」

軍隊の中間にいるカナリーダの隣にいる鷹は、自分より戦の経験が多い、自分の彼女に尋ねた。


「何?鷹」

カナリーダは、歩きながら顔だけ向ける。


「いや、大したことはない。ただ、流星が言っていたことが引っ掛かってな。癪だが、あいつの言う通り、あまりにも順調過ぎると思っただけだ。今のところ、罠の仕掛けも待ち伏せも何もないだろ?こんなことは、あるのか?」

「そうね…。おそらくだけど、奥の方で待ち伏せしているかもしれないわね」

顎に手を当てながら、カナリーダは思考した。


「なぜ、奥なんだ?(あね)さん」

カナリーダと鷹のすぐ後ろに居る鷹の弟・虎は、カナリーダに尋ねた。


「虎。それは、この森はアップダウンが多く、茂みもあり視界が悪いで戦いづらいわ。ここで、戦うのは向こうもリスクがあるの。だから、戦場を森を出た場所に選んだ可能性が高いということ。それでも、普通は所々に罠を仕掛けるはず、考えられる可能性は2つ、1つは時間がなかった。2つ目は、先代の魔王を倒されたことで統制がなく、今回の魔王は、魔王に主任して間もないから人手不足が考えられる。だけど、1つ目はないわね。だって、報告から数日は経っているもの。考えられるのは、2つ目の方かしら」

虎の隣にいるカナリーダの妹・サリーダが姉の代わりに答えた。



「流石、私の妹だ。完璧な答えだ」

「そうだな」

「なるほど。俺の女に相応しいな」

3人は、笑みを浮かべた。

虎とサリーダも恋人同士であった。



その時だった。


先頭を進行していた鷹虎兄弟の騎士団の1人が、足元に仕掛けられていた黒く塗られたピアノ線に足を引っ掛けてしまい切ってしまった。


ピアノ線で吊るしてあった魔鉱石が、ピアノ線が切れたことで、枯れ葉が散らばっている地面に落ちた。

魔鉱石に炎魔法陣の基本ファイアが描かれており、魔力を宿していた。

魔鉱石が落ちたことで、衝撃で魔法陣が発動する。


地面には、カナリーダ達を覆うように、ほぼ無臭の油が撒いており引火した。

カナリーダ達はあっという間に炎に囲まれた。


「ま、まさか森で火刑だと!?正気か!?しかも、油を使用している!?こんなことしたら、大変なことになるぞ!」

驚愕したカナリーダの声が響く。


「「う、嘘だろ!?」」

「「に、逃げろ~!」」

「「うゎ~っ」」

「「ヒィ~」」

前衛の鷹虎騎士団は、逃走する人が大勢おり、軍隊はパニックに陥った。


水魔法で消火すれば、すぐに問題解決できるのだが、不意打ちや敵襲に備えていた隊は、カナリーダ達や魔導師部隊は内側に配備し、外側には魔法は苦手だが武術に長けている鷹虎騎士団を配備していたのが、仇となった。


大成は、この陣形を予想していたのだった。



「くそ、邪魔だ!どけっ」

「お前達、押すな!」

騎士団と魔導師部隊が、ぶつかり合う。

力が強い騎士団は、火が迫り焼き殺されると思い、内側へと逃げようとし、力が弱い魔導師は騎士団から押され圧迫され、魔法が使用できなかった。


「「ウォーター」」

「「バブル」」

魔導師部隊は、消火するため、水魔法ウォーターやバブルを唱えたが、周りの人達に当たり、火元まで届かない。




【パルシアの森・中央付近・魔人の国側】


その頃、大成達は少し離れた場所で待機しており、大成とギランを除くジャンヌ達は、唖然と森が燃えているのを眺めていた。


「「嘘…」」

唖然としていたジャンヌ達は、ハッと我に返った。


「た、大成!あなた、自分が何を仕出かしたのか、わかっているの!」

大成を問い詰めるように、ジャンヌは大声出しながら歩み寄る。


「そうですよ。大成君!パルシアの森は広大なのよ。その森が火事になったら、この戦争に勝利しても、代償が大きいわ。それよりも、早く消火しないと手に終えなくなるわよ」

イシリアも、険しい表情で大声を出す。


「大成さん。何を考えていらっしゃるのですか?」

胸元で両手を握っているウルミラは、ジャンヌとイシリアとは違い、心配している表情で尋ねた。


「言いたい気持ちはわかる。仕方ない、予定変更するか…。ジャンヌ、ウルミラ、イシリアついて来い。口で説明するよりも、見た方が早いからな。それよりも、時間がない予定通りに追い打ちをかける。行くぞ!出陣だ!グリモア・ブック、エア・バースト」

大成は、そんなジャンヌ達を苦笑いしながら見て、グリモアを片手に持ち、エア・バーストで空を飛んで火事になっている場所へと向かう。


「「ハッ!」」

ギラン達も次々に風魔法を使用して空を飛び、少し遅れてジャンヌ達も大成の後を追った。




【パルシアの森・中央付近・人間の国側】


カナリーダの魔導師部隊は落ち着いたが、魔法が苦手な鷹虎騎士団は、未だに乱れていた。


(このままでは、せっかくの私の魔導師部隊が意味をなさない)

「お前達、空を飛べる者は、一旦、空へ避難し、上空から消火しろ」

ハッと気付いたカナリーダは、同時に大きな声で指示する。


「「了解!」」

魔導師部隊は、カナリーダの指示で、すぐに空を飛ぼうとした時、空から魔法攻撃が雨のように降り注いだ。


「「ぐぁ」」

「「うぁ」」

部隊は、次々に被弾していく。


「何事か!?」

「今度は何だ!?」

カナリーダ達は、空を見上げたら、空には大成達が空中に浮かんでいた。


「「ファイア・アロー」」

「「アイス・ミサイル」」

「「アース・ニードル」」

大成達は、空から氷の矢、炎の矢、土の矢など、様々な中級魔法を次々に放つ。


上空から追い打ちをしながら、森全体を見渡したジャンヌ達は気付いた。

((なるほどね。これなら大丈夫わね))

火事になっている場所の外側の周りは、広く伐採されて凍らせており、それ以上炎が燃え広がらないようになっていた。


(あれ?ところで、伐採した木は何処かしら?)

同時に疑問も沸いたが、今は追い打ちをかけ、押しているので、ジャンヌ達は追い打ちに専念し、追求はしなかった。




カナリーダ達は、空から攻撃されたことで逃げ道を絶たれ、場は再びパニックに陥り、手がつけられなくなっていた。


「糞、落ち着け!」

歯を食い縛りながら、カナリーダは、降り注ぐ魔法を振り払い叫んだ。


今度は声が聞こえても、冷静になる者は極僅かだった。


((くっ、このままだと、被害が拡大するどころか全滅してしまう。何かないか…))

カナリーダとサリーダ、そして鷹虎兄弟は、魔法攻撃を防ぎながら打開策はないか考える。



突如、月光を遮り、森を覆う巨大な影が現れた。

「「!!」」

森の中にいる全員は、夜空を見上げた。


上空には、大成達の更に上に、ミシナとドトールがユニゾン魔法アイス・マウンテン・フォールを唱えており、巨大な氷塊を作っていた。


「う、嘘だろ…」

「何だ、あの巨大な氷の塊は…」

「ま、まさか、あれを落とすのか…」

氷塊を見上げた者は全員、戦慄し絶望の表情へと変わる。


「できましたわ。修羅様」

「修羅様。投下しますので、皆を退避させて下さい」

ミシナとドトールは、報告した。


「わかった。全員退避!」

大成の指示で、皆は追い打ちを止め退避する。

そして、ミシナとドトールは、巨大な氷塊が落とした。



「お、おい!落ちてきているぞ!」

「「逃げろ!」」

「「何処にだ!?」」

前方と後方には、油が多く撒かれており、炎の勢いが凄かったが、両サイドの炎は、そこまで激しくはなかった。


「「両サイドの炎は弱い。向かえ!」」

鷹虎兄弟は、周りを見渡して気付き、指示を出した。


「「どけ~っ!」」

「「うぁぁ」」

炎から逃れるため、我先にと両サイドに走った。



「「ぐぁ、な、何だと!?」」

「痛ぇ~っ」

「「ぐぁ」」

騎士団は、両サイドの茂みを抜けようとした時、鳩尾辺りに木の杭が刺さり、悲鳴が響いた。


両サイドの茂みに隠されていたのは、満遍なく丸太で作られた柵で塞がれており、一定間隔に鋭く尖った木の杭が取り付けられていた。


巨大な氷塊が落下し迫ることで、我先にと逃げる者が多く、冷静さが欠けており視界が狭まり気付かなかった。

その結果、多くの者達が被害に合い、一斉に絶命したり、致命傷を負った。


後から続いた者達は、次々に杭を避け柵をよじ登り避難する。




大成達は、追い打ちした場合、せっかくの氷塊に当たり破壊してしまう可能性があったため、何もせず再び元の位置に戻り様子を窺った。


「なるほどね。伐採した木は、柵に使ったのね」

「大成さんは、軍略もできるのですね」

「相変わらず、何でもできるのね。本当に同い年とは思えないわ」

ジャンヌは口元に手を当て感心しており、ウルミラは胸の前で手を合わせ尊敬の眼差しをし、イシリアは呆れた表情になった。


「軽い材料なら未だしも、材木など大きい材料を近い国のラーバスなどから運んだとしても、時間がいくらあっても足りないからな」

説明をした大成は、ローブを羽ばたかせながら、カナリーダ達の様子を窺う。




離れた場所にいる流星達は、その様子を見守っていた。


「大成君、恐ろしいわね。あのカナリーダ達を、ここまで追い詰めるなんて。流石、あなたの義弟さんね」

「まぁ、このくらいやって貰わないとな」

メルサは驚愕し、流星は当たり前のような態度をとった。


「感心している場合ではないですよ。それよりも、あの…流星さん。助太刀を…」

ツカサは、そんな2人と違い、心配をしていた。


「まだ、あいつらからの連絡がないから待機だ」

「で、でも…」

「心配いらないわ、ツカサ。カナリーダ達なら大丈夫よ。なんせ、私達の国の魔導師部隊の隊長なのよ。こんなことで、終わらないわ。信じなさい」

「ツカサ。そういうことだ。あいつらは、まだ力を隠している」

「わ、わかりました」

流星とメルサ2人の言い分も正しいと思ったツカサは、見守ることにした。


「そうだな。圧倒的に不利なのは確かだな…仕方ない。一応、念のために保険をかけるか」

「保険ですか?」

流星の保健という言葉に、ツカサは疑問を感じた。


「まさか、流星。あなたの部隊を?」

「ああ。俺の部隊をここに向かわせる。こんなこともあろうと思って、待機させている。メルサ、すまないが、レゾナンスを頼む」

心当たりがあったメルサは驚愕したが、流星は平然としていた。

メルサの反応見たツカサは、不安が過った。


「わかったわ」

渋々といった感じで、メルサは了承した。




周りは火の海、そして真上から巨大な氷塊が、迫ってくる最中、兵隊達は急いで避難をしていた。


「カナリーダ様達も、お早く」

中央にいた魔導師部隊の隊員達も、周りに人が居なくなったことで、動けるようになり避難しようとしたが、近くに居るカナリーダ達は、全く動く気配がなかったので声をかけた。


「心配するな。やっと、スッキリしたな」

「そうだな。兄貴」

カナリーダ達の後ろから、鷹虎兄弟がボキボキと手を鳴らしながら現れた。


「大丈夫だ」

「問題ないということ」

カナリーダとサリーダは、フッと笑みを浮かべる。


「いくぞ。サリーダ」

「はい。姉様」

巨大な氷塊が迫る中、カナリーダとサリーダは、お互いの手を出して、目を瞑り集中した。


体が溢れる魔力が手に集まり、お互いの手の間に魔力集中し混ざり合っていく。



大成を除くジャンヌ達は、魔力が膨れ上がるカナリーダとサリーダを見て、唖然としていた。


「ねぇ、大成…。あれって…」

ジャンヌは、カナリーダとサリーダを見て驚愕した。


「ああ、あれはユニゾン魔法だな。全員退避!!ユニゾン魔法がくるぞ!」

すぐに大成は皆に大きな声で指示を出し、大成の声で我に返った全員は退避する。



カナリーダとサリーダの魔力は共鳴し、大幅に膨れ上がっていった。


2人は、ゆっくりと目を開けた。

「サリーダ。まずは、氷塊を破壊し、ハエどもを引きずり下ろす」

「はい、姉様」

氷塊が迫ってくる状況でも、カナリーダとサリーダは笑って会話をする。


「「全てを焼き尽くす火竜よ、降臨せよ。エクスプロージョン・サラマンドラ」」

2人は手を空に向けて、ユニゾン魔法、炎と土の複合魔法エクスプロージョン・サラマンドラを唱え発動する。


手から放たれた膨大な魔力は、少し離れた場所で膨張し破裂した。

破裂した魔力は、巨大な炎の渦を生み出す。


「グォォ!」

炎の渦の中から、大地を響きかせるほどの雄叫びが聞こえ、火竜サラマンドラが現れた。


サラマンドラは、西洋竜で皮膚は紅蓮に染まっており、炎を纏っていた。


「グォォ!」

サラマンドラは大きく口を開き、息を吸い込み、そして、氷塊目掛け火炎ブレスを放った。


炎と氷の衝突で水蒸気爆発が起き、同等の魔力だったため、完全には蒸発できず、氷塊は小さく砕け散り、砕け散った氷塊は水蒸気爆発で、更に上に飛び散って大成達を襲った。


「「ぐぁ」」

「「熱っ」」

「「うわっ」」

氷塊は氷だが熱を帯びており、大成達は全体の3分の1が被害にあった。


「チッ」

大成達は、飛んでくる高熱の氷塊を回避したり、武器で弾き防いだ。



空を見上げたカナリーダは、大成を見て獲物を見付けた様な獰猛な笑みを浮かべた。

「あいつが魔王みたいだな。殺れ!サラマンドラ」

「グォォ!」

サラマンドラは、再び息を吸い込み、ブレスで大成を目掛け放つ。


「くっ、このトカゲは俺が惹き付ける。その間に、召喚したあの2人を倒してくれ」

大成は急上昇し何とか回避して、指示を出した。

サラマンドラは、大きな翼を羽ばたかせて空を飛び、大成を追いかける。


「「わかったわ」」

「わかりました」

「「了解!!」」

ジャンヌ達は地上に着地する。



地上に降り注ぐ氷塊は、炎の渦を纏ったサラマンドラ自身の高熱によって、下に居るカナリーダ達に届く前に全て蒸発していく。


地上には、左右に別れ退避している鷹虎兄弟・カナリーダ達の兵隊は、凍った大地で空を見上げていた。


「流石、カナリーダ様とサリーダ様だ!」

「そのまま、魔人達を滅ぼして下さい!」

先程まで、戦意喪失していた隊だったが、サラマンドラが巨大な氷塊を破壊したことで持ち直した。


「「ぐぁ」」

「「うわぁ」」

右側はローケンス隊とマリーナ隊、それにマーケンスとイシリアが向かい、反対側にはミリーナ隊とウルシア隊が襲いかかった。



中央には、ジャンヌ隊とウルミラ隊が舞い降り、カナリーダ達を囲んだ。


囲まれているカナリーダとサリーダだが、慌てたり、怯んだりはしておらず、ただ辺りを見渡している。


「姉様、右です」

「ん?ああ、確か…魔人の国の姫様だったか?」

サリーダに言われ、振り向いたカナリーダは、人差し指を額に当てて思い出した。


「そうよ。私はラーバス国の姫、ジャンヌ・ラーバス。それよりも、早くあの竜を引っ込めて降伏するか、撤退しなさい。そして、もう魔人の国を襲わないと約束しなさい。そうしたら、あなた達全員、今回は見逃してあげるわ」

ジャンヌは双剣を抜き、右手の剣をカナリーダに向けた。


「フフフ、アハハ…降伏?撤退だと?なぜ、勝利する私達が、せねばならないのだ?」

カナリーダは、口元に手を当てて盛大に笑う。


「何を言っているの?どうみても、あなた達の戦力はもう、4分の1まで減少しているわよ」

ジャンヌは訝しげな表情で、カナリーダを睨めつけた。


「フフフ、姉様の代わりに、良いこと教えてあげるわ、魔人の国の姫様。もともと姉様と私、それに鷹虎兄弟だけで十分ということ」

サリーダも、笑みを浮かべながら説明した。


「へぇ~、私達も、嘗められたものね。そう思わない?ウルミラ」

「そうですね。姫様」

ジャンヌとウルミラは、笑顔だったが目は笑っておらず、魔力が高める。


「やる気みたいだな。じゃあ、殺るか。サリーダ」

「そうみたいですね、姉様」

獰猛な笑みを浮かべたカナリーダとサリーダも、魔力を高めた。


4人は、武器を取り出し、身体強化して構えた。


睨み合っている4人が放つ魔力で場の空気が張り詰め、伝染したかのように周りも緊迫する。


そして、4人は姿勢を少し落とした瞬間、4人同時に動く。


「「ヤァッ!」」

「「ハァッ!」」

ジャンヌはカナリーダ、ウルミラはサリーダに、接近し、ジャンヌは双剣を、カナリーダは剣を振り下ろし、ウルミラは矛を、サリーダは短剣を振り下ろした。


「「うっ」」

「「くっ」」

双方、武器同士が衝突し、激しい衝撃波が生まれ、4人は後ろにズリ下がった。


「おいおい、私の剣が少し溶けたぞ。何だその剣は?魔剣か?」

「姉様、私の短剣には霜がつきました」

カナリーダとサリーダは、自分の武器を見て驚愕した。


「魔剣じゃないわよ」

「ですね。大成さんが作った武器です」

ジャンヌとウルミラが答えた。


「大成?」

「姉様、魔王のことです」

「ああ、魔王か。やはり、始末しないと危険な存在だな。それに、サリーダ。武器にもう少し魔力を込めれよ。武器がもたないぞ」

「はい」

大きく目を見開いたカナリーダとサリーダは、さらに魔力を高めた。


「「ファイア・アロー」」

「アイス・ミサイル」

「アース・ミサイル」

ジャンヌとカナリーダはファイア・アローを唱え、ウルミラはアイス・ミサイルを、サリーダはアース・ミサイルを唱えた。


お互いの魔法が衝突する。

ジャンヌとカナリーダの間には爆音と熱風が巻き起こり、ウルミラとサリーダの間には衝突音と冷気が巻き起こった。


「「ファイア・ランス」」

「アイス・ミサイル・ニードル」

「アース・ミサイル・ニードル」

4人は横に走り出し、走りながら魔法攻撃を放った。

放った魔法は相殺したり、避けられ背後の木に着弾した。


4人の衝突で、周りの騎士団達も戦いを始める。



「オラオラ!もっと掛かって来い!」

「何だぁ?それでも、魔人か?手応えが無さすぎだなぁ。ワハハ」

騎士団の人数ではジャンヌ達の方が圧倒的に上回っていたが、鷹虎兄弟の勢いが止まらず、異常な速さで倒されていき、戦況は五分五分だった。


ボルガとカダルも、次々に人間の騎士団達を倒しながら、戦っている最中、2人は鷹虎兄弟を見た。


((あの2人、強いな。このままだと、数の有利が消え、戦況が不利になるな))

「俺は、あの刈り上げ野郎を倒す。だから、カダルは丸坊主を頼んだぞ」

「わかった。ボルガ、勝てよ」

「お前もな」

近くにいたボルガとカダルは、目の前にいる敵を倒し、ゆっくりとお互い歩み寄り、2人は拳を合わせて、鷹虎兄弟に向かって走った。


「フレイム・キャノン」

ボルガは、虎の背後から炎大魔法フレイム・キャノンを唱え、放たれた炎の弾は、銃弾のような回転をし、周囲の空気を貪りながら巨大化していく。


「おっ!?」

膨大な魔力を感じた虎は振り返り、迫ってくる巨大な炎の弾に気付き、両手で炎の弾を下から掬い上げ、上に弾いた。


「あのタイミングで、弾くとはな。俺の名はボルガ。周りから【焔のボルガ】と言われている」

ボルガは腕を組んだまま、声が届く距離まで虎に近づき、自己紹介した。


「自己紹介されたから、俺も名乗ろう。俺は鈴木虎将。異世界から召喚された。周りからは【爆裂の虎】と言われている。お前は他の奴らとは少し違うな。なかなか骨がありそうだ」

虎は、獲物を見つけた表情で、胸元で拳を握り、両手に嵌めているナックル同士をぶつけ、気合いを入れた。


「お互い自己紹介が終わったし。殺るか」

「ああ」

2人は魔力を高め、身体強化し接近する。




一方、鷹は素早い動きで騎士団を翻弄し、両手に持っている小型のナイフで心臓部や喉などの急所を刺したり、切り裂きながら倒していた。


「ウォーター・カッター」

カダルは、水魔法ウォーター・カッターを唱え、右手から高圧の水流を放出して鞭のように操り、鷹の真横からウォーター・カッターを横に凪ぎ払い攻撃する。


当たる直前に気付いた鷹は、しゃがんで緊急回避した。

だが、ウォーター・カッターは、生き物の様に動き、今度は上から襲ってくる。

鷹は、さらにスピードを上げ、これも回避する。


「狙いは良いが、爪があまい。だが、俺様じゃなければ終わっていたかもな」

鷹は褒めながら、一度距離をとった。


「やはり、当たらないか」

カダルは、戦いながら鷹虎兄弟の戦いを見ており、鷹の異常な速さを知っていた。

不意打ちしても、おそらく避けられると予想はしていたのだ。


「しかし、凄い威力だ。流石、【水のカダル】と謡われているだけはあるな」

顎に手を当てたまま、鷹はウォーター・カッターで地面が抉られた跡を見た。


「よく、俺のことを知っているな。だが、すまないが、お前は?」

「俺様を知らないのか!?傷付くぜ。結構、有名なんだが。でも、まぁ無理もないか。俺様達、兄弟は獣人の国を侵攻していたからな。冥土の土産に一応名乗ろう、鈴木鷹博だ。異世界から、この世界に召喚された。この世界では【アクセラレータ】と言われている」

鷹は、両手のナイフをクルクルと回しながら自己紹介した。


「すまないが、早く、あの竜を止めないといけないからな。始めさせて貰うぞ。アクセラレータ」

「そうだな。俺も時間が惜しい。来い!カダル」

カダルは、ウォーター・カッターを再び振るった。




大成は、サラマンドラと空中戦を繰り広げていた。

「グォォ!」

サラマンドラは、左右の鋭い鉤爪で大成を襲ったが、大成は無駄のない最小限の動きで、ギリギリで回避したが服が破れていく。


衰弱した大成は、残りの魔力を考えながら、できる限り体力と魔力を温存したかった。


攻撃を避けられ続けているサラマンドラは、怒り狂った。

サラマンドラの魔力が膨張したので、大成はサラマンドラの上に移動した。


「グォォ!」

サラマンドラは、大成に向けてブレスを放った。

大成は少し大きく移動し、ブレスとブレスの周りの高熱も避けた。


(頭に血が昇っているから、攻撃が単純で助かっているが。しかし、不思議だ。あの2人が、このトカゲを召喚できたことが。これほどの強さを秘めているのに、あまりにも召喚に消費した魔力が少なすぎる。想像したくないが、既に暴走していて、ブレスを地上に向けたりしないよな。こういう嫌な予感は、よく当たるんだよな。早く召喚者を気絶か倒して貰わないと)


大成はできる限り、サラマンドラに近くで戦い、ブレスを放たせないようにし、サラマンドラがブレスを放つ気配がした時は、毎回、大成は上に移動して、ブレスを空に放たせていた。



「グォォ!」

痺れを切らしたサラマンドラは、雄叫びをあげたことで、衝撃波が生まれた。

近くにいる大成や地上にいるジャンヌ達を襲った。


「くっ…嘘だろ…」

大成は、両腕を顔の前に出し踏ん張り、サラマンドラを見て驚愕した。


サラマンドラの巨大な体は、炎の渦で覆われており、その体を覆っている炎の渦が口元に集束していっていたのだ。




ジャンヌとカナリーダの周りは、氷が溶けており、木々はへし折れたり、穴があいて燃えている。


「その歳で、その魔力。流石、姫様ということか。いや、すまない。魔力だけなら未だしも、これほど接近戦ができるということは、幼い頃から血が滲むほど努力していた証拠だな。フフフ、アッハハ…。はぁ、笑ってすまない。だが…楽しくて、楽しくて仕方がない!」

カナリーダは剣の刀身を舐め、ジャンヌに向かってダッシュした。


「あなた、まるで血に飢えた野獣ね」

ジャンヌも、カナリーダに向かってダッシュする。


「エア・ブロウ」

カナリーダは、ジャンヌの手前で、刀を地面に叩き付けながら、風魔法エア・ブロウを唱え発動し、突風を地面に向けて放ったことで、土煙と石や土の塊が飛び散った。


「何て無茶苦茶な」

ジャンヌは、慌てて足を止め、バックステップして、石や土の塊を回避したが土煙に飲まれた。


「くっ」

左腕で口元を押さえながらジャンヌは、魔力感知を研ぎ澄ませながら、音や土煙の動きの変化があるか辺りを見渡し集中する。


すぐに気配を消したカナリーダは、高くジャンプをし、ジャンヌの真上から剣を振り抜いた。

(貰った!)

「!!上!」

カナリーダが剣を振り抜く直後、土煙の変化を見落とさなかったジャンヌは気付き、両手を上に上げ、双剣をクロスにして防いだ。


防がれたカナリーダは、ジャンヌに蹴りを入れようと思ったが、先にジャンヌの左手の剣が襲ってきたので、バックステップして距離をとった。


「ウィンド」

ジャンヌは、続けて右手の剣を横に振りながら、風魔法ウィンドを唱え、土煙を吹き飛ばす。


「おいおい、あれを防ぐのか。それよりも、よく、すぐにウィンドとかで土煙を払わなかったな」

目眩ましをした時、間近で石や土の塊を浴びたカナリーダは、多少だが体に傷を負っていた。


「ええ、すぐにウィンドを使っていたら、殺られていたわね」

笑顔でジャンヌは答えた。


朝練などで、大成はジャンヌ達と手合わせした時に、ジャンヌ達が目眩ましをされても対応できる様に対策を教え、身につけさせていた。



「お前、本当に姫様か?まるで、ベテランの剣士を相手にしているみたいだぞ」

「そう言って頂けると嬉しいわね。あなたも技量は凄いわよ。流石、魔導師なのに、【焔のバーサーカー】と言われる訳ね」

「知っていたか」

「有名だもの」

2人は、笑みを浮かべながら、再び接近する。


大魔法や禁術は発動する際、隙が出来るので、2人は使用できなかった。


そして、ジャンヌとカナリーダは、互角の戦いを繰り広げ、戦いが始まってから10分近く経ち、2人の体は、所々傷だらけになっており、息を切らしていた。


特にカナリーダは、ユニゾン魔法エクスプロージョン・サラマンドラを使用しており、魔力が底を尽きそうだった。


(決め手に欠けるわね…。時間もなさそうだし、仕方ないわ。この双剣に刻印されている魔法を使用して、一気に決着を…。でも、外したら逆に追い込まれ…。ううん、悩んでいる暇はないわ)

ジャンヌは覚悟を決めた。


「何か奥の手があるみたいだな」

「どうかしら?」

「まぁ、良い」

ジャンヌの目付きが変わったので、カナリーダは警戒し、ジャンヌに向かってダッシュする。

ジャンヌは、その場から動かなかった。


ジャンヌは、左右の剣に魔力を込めると、左手の剣は弓になり、右手の剣は矢に変化した。

弓と矢は、炎を纏っていた。


「全てを燃やし消し飛ばせ、アポロン」

技名を唱えたことで、矢を纏った炎は矢に集束し、矢は真っ赤に染まる。

ジャンヌは、弓を射る体勢をとり、狙い定めた。


「チィ」

(何だ!?双剣が弓と矢に変化しただと!?しかも、あの武器から危険な匂いがする)

真正面から接近していたカナリーダだったが、本能的に危険と察知して慌てて走る方向を変え、ランダムに動き回る。


ジャンヌは、カナリーダを追尾するように、体と弓を動かして狙いを定める。


(糞、振り切れない)

カナリーダは、ジャンヌに対抗するため、走りながら禁術を放つことを決めた。

走りながらだと、魔力を練るのが難しく、イメージの集中が散漫してしまい、失敗する可能性が高かったが、このままだと何もせず、殺られてしまうと判断した。


「全てを獄炎で飲み込め、ヘル・フレイム・ファイア・ドラゴン。いけぇ~!!」

カナリーダは両手を前に出し、炎魔法禁術ヘル・フレイム・ファイア・ドラゴンを唱え発動する。


両手から巨大な炎龍が現れ、その大きな口を開き、ジャンヌに襲い掛かる。



炎の龍が迫る中、ジャンヌは慌てて矢を射ず、狙いを定めていた。

そして、炎龍が目の前まで迫る中。


「そこよ!」

ジャンヌは一瞬大きく目を開き矢を射った。


矢は物凄い速さで放たれ、矢は炎を纏い巨大化していき、炎龍を一瞬で飲み込み消し去り、カナリーダに迫る。


「おい…禁術だぞ…。フッ、これだから、戦いは…楽しい…ぜ…」

カナリーダは、自慢の禁術が何の苦もなく消し飛ばれたことに衝撃を受けたが、すぐにスッキリした表情に変わり、その場から動かず、ただ迫ってくる巨大な炎の塊を見て最後に笑った。


あと少しで直撃する瞬間、上空から衝撃波が2人を襲う。


「きゃ~」

「うぁ~」

2人は土煙に飲み込まれ、悲鳴を上げた。

ジャンヌは尻餅をついた。


「ウィンド」

ジャンヌは、風を巻き起こし土煙を吹き飛ばして、空を見上げ驚愕した。


「な、なぜ、あの竜は、こちらにブレスを放とうとしているの!?」

サラマンドラは魔力を口に集中しており、近くにいる大成を無視して、自分達がいる地上にブレスを放とうとしていた。


「ガハッ、ゴホッ…残念だったな…。少し遅かったみたいだな」

カナリーダの声が聞こえたので、ジャンヌは視線を向けた。


カナリーダは、ジャンヌの攻撃が当たる直前、衝撃波で吹っ飛ばされ、直撃は免れていた。

しかし、周囲の熱で、もう助からないほどの重度の火傷を負っていた。


「あなた、まだ生きていたのね。それより、これはどういうことなの?」

「ハァハァ…。私も…自分で…しぶと…いと思ったぜ…。おそらくたが、サラマンドラの召喚するのに、魔力が…足らなかったみたいだ…。私が死んでも…消えないだろう…。自立している可能性が高い…。もう、あれは神獣クラスぐらいだ…。誰にも止めれない…。魔人の国は滅ぶな。悔しいが、勝負は負けたが…戦には勝っ…た…」

最後、カナリーダは笑顔で息絶えた。


「そんな、嘘でしょ!?大成!」

アポロンで、サラマンドラで攻撃しようにも、膨大な魔力を消費するので、連発はできなかった。

ただジャンヌは、大成を心配することしかできなかった。




ジャンヌ達と離れて戦っているウルミラとサリーダは、接近戦を繰り広げていた。


「やっ」

「くっ」

ウルミラは矛で突きを連打し、サリーダは短剣で防いでいたが、ウルミラの突きは鋭く、武器のリーチが長かったので間合いに入れず押され、近くの木に跳び移った。


「驚いたわ。今まで戦ってきた中でも、ここまで鋭い突きは、初めてよ。それにしても、何なの?その矛についている物は?」

木から飛び降りたサリーダは、空いている左手で、ウルミラの矛を指差した。


「製作した大成さんが言うには、グリップという品物みたいです」

別に隠す必要がなかったので、ウルミラは素直に答えた。


ウルミラの矛には、この世界にはないグリップがついていた。


大成が作ったグリップは、魔鉱石で作られており、魔力を込め意識すると、上下にスライドや回転する仕組みになっている。


左手で握っているグリップがスライドすることにより、グリップがない時よりも、安定感と繰り出すスピードが増すので、繰り出す回数が増え、鋭くなっていた。



「あの、できれば、あの竜を解除して頂けませんか?もし、解除して頂ければ、私が大成さんと姫様を説得して、あなた達を無事に帰国させますので」

ウルミラは構えを解いて、サリーダに交渉を持ちかける。


「断るわ。馬鹿にしないで!私達は侵略するために、ここまで来たのよ!それなのに戦わず、おめおめと逃げ帰るなんて、恥の極りよ!それなら、戦って死んだ方がマシよ!それに、私はまだ本気を出してないわ!」

激怒したサリーダは先程より身体強化を高め、一気にウルミラとの距離を詰めて短剣を振り下ろす。


「うっ」

驚愕したウルミラは、目を見開き、慌てて矛を両手で持ち上げ防いだ。


「あれを防ぐなんて、凄いわね。だけど、得物が長い矛では、防ぐのがやっとみたいわね。反撃までは出来ないでしょう」

短剣を振り下ろしたり、横に凪ぎ払ったりサリーダは連撃する。


「そろそろ、終わりよ。えっ!?」

サリーダは連撃をしていたが、突如ウルミラの矛が縮まり、サリーダと同じ短剣ぐらいの長さに変わって連撃を防いだ。


「そんな機能もあったの!?やはり、その機能も魔王が?」

矛の機能に驚愕したサリーダだったが、手を止めず連撃をしながら尋ねる。


「うっ、いえ、これは元々から備わっている機能です」

ウルミラは苦しい表情で答え、短剣同士の戦いになった。



「くっ」

しかし、技量はサリーダに分があり、先程と立場が逆になり、苦戦を強いられたウルミラは掠り傷を負っていくが、どうにか耐えている。


「しぶといわね!」

サリーダは押していたが、しぶといウルミラを倒すため、少し強引に力押しで体勢を崩そうと思い大振りした。


大振りになるのを待っていたウルミラは、それを見逃さなかった。


「アイス・ミサイル」

振り下ろされる前に、真横に跳び回避しながら氷の矢を放つ。


「くっ」

サリーダは、慌てて連続でバク転をし、氷の矢を回避する。

氷の矢は、地面つき刺さっていく。


サリーダがバク転をしている間に、ウルミラはサリーダ接近しながら縮まっている矛を元の大きさに戻して振りかぶる。


すぐにサリーダは体勢を整えたが、目の前にウルミラが接近していた。


「くっ」

「流水の舞」

ウルミラは連撃を繰り出した。

武器を大成から頂いた後、奥義も教えて貰っていたのだ。


「な、何!?この連撃!?」

繰り出されたウルミラの連撃を見て、サリーダは驚愕した。


ウルミラの連撃は、どれも威力が高く、リーチが違い、同じ武器で攻撃しているとはとても思えなかったのだ。


サリーダは短剣を両手で握り、力負けをしなように連撃を防ぐことで背一杯だった。


この連撃の秘密は、グリップにあって簡単で単純だった。


グリップを穂(刃)側にスライドしたらリーチが短くなり、逆に手元側にスライドすれば長くなる。

まるで、流水のように変化自在なのだ。


斬撃を繰り出す時にグリップを伸ばしたり縮めたりして、リーチを変えながら連撃しているだけだが、この連撃は一太刀一太刀は威力があり重い。


リーチが短い時は手が刃から近いので力が入り、リーチが長い時は遠心力がつくからだ。


さらに、ウルミラの得意な属性は氷なので、武器から冷気を発している。

相手が自分の武器を魔力で覆って武器が凍りつかなくしても、発生した冷気は周囲を覆う。

その発生した冷気によって、徐々に相手の感覚を鈍らせていき最後には相手は力が入らなくなる。


だが、欠点もある。

相手が、その場から離れられたら意味がないのだ。


しかし、流水の舞の連撃は一太刀一太刀が重く、殆どの者は防いだら、その場から動けなくなり、最後に感覚が鈍くなって力が入らなくなり決まる。


「体が冷えて、身体中の感覚がなくなっていくわ。力までも、このままではいけない。ガイア・アーマ」

このままだと耐えれそうにないと判断したサリーダは、土大魔法ガイア・アーマを唱え発動する。


サリーダの足元の地面が、サリーダを覆っていき鎧になった。


サンド・アーマは砂の鎧。

アース・アーマは地面の表面の砂や土などの鎧。

ガイア・アーマは、地中の硬い鉱物でできた鎧だ。


ウルミラが振り下ろした矛を、サリーダは軽々と左腕で防いで振り払った。


「くっ」

振り払われたことでウルミラは弾き飛ばされたが、矛を地面に突き刺して後ろにズリ下がった。


「一気にカタをつけるわ。ガイア・ドール」

サリーダは続けて土魔法ガイア・ドールを唱えると、ウルミラを囲う様に地面から人型の人形10体が現れた。


ドールはガーディアンとは違い、そんなに大きくなく、力や耐久力もないが、その分、細かな命令できるのだ。


今回は、ボディがガイアなので耐久面の問題は克服していた。



「行きなさい、私の人形達。あの子を殺すのよ!」

サリーダは短剣をウルミラに向けて人形に命令をし、人形はウルミラに襲いかかった。


「フリーズ」

ウルミラは、左手を地面について氷魔法フリーズを唱えた。

ウルミラ自身を中心に地面を凍らせ、人形も凍らせようとする。


「飛びなさい!」

しかし、サリーダが人形達に命令をし、人形達は一斉にジャンプをしてフリーズを回避しながら、そのままウルミラに跳びかかる。



ウルミラは跳びかかってきた人形達の攻撃を回避したり、矛で防いだり、迎撃をしたが、人形のボディーが硬く弾かれダメージを与えられなかった。

「くっ、硬いです」


ウルミラは人形達の全ての攻撃に対応できず、徐々に傷を負っていく。


「うっ、大幅に魔力を消費しますが、仕方ありません。アイス・フリージング・キャッスル」

ウルミラは、矛を両手で逆手に持ち、矛に魔力を込めて地面に突き刺してアイス・フリージング・キャスルを唱え発動した。


矛に描かれていた魔法陣が、ウルミラの真下の地面に巨大な魔法陣として展開され蒼く輝いた。


魔法陣の端をなぞるように氷の城壁で覆われただけで、ウルミラのいる内側には何も現象は起きていなかった。


「何?遠くに離れた場所に氷の壁ができただけ?アイス・ウォール?まぁ、良いわ。攻撃しなさい!」

一瞬、戸惑ったサリーダだったが再び人形に命令をし、人形達はウルミラに襲いかかった。


ウルミラは目を瞑り、1度深呼吸して目を見開いた。

その場から動かず、ただ無言で左手を前に出しただけだった。


だが、その直後、襲いかかった人形達の周りに冷気が集束し、人形達は次々に凍りついていき動きを封じられていく。


「!?アイス・ロック?ラ、ランダムに動き回りなさい」

(魔法を唱えていない!?)

驚愕したサリーダだったが、すぐに冷静に人形達に命令をした。


今度は、地面からアイス・ニードルにより氷柱ができ人形を突き刺したり、人形がジャンプをしたら、上空からアイス・ミサイルが降り注ぎ、次々に人形達は動かなくなっていく。


「何!?これは何なの?何も魔法を唱えていないのに、どうなっているの!?」

驚愕しているサリーダだったが立ち止まらず、気配を殺して自らも攻撃に参加することにした。


サリーダは、小さな声で命令を出して人形の動きを自然的に動かしながら凍った人形も利用してウルミラの死角から近づいた。


「もらった!」

接近したサリーダは短剣を両手で握り、ウルミラの背後から突き刺そうとする。


「な、何!?」

しかし、突き刺さる瞬間、ウルミラの周りに一瞬で氷の壁ができ、短剣は氷の壁に弾かれた。


「しまった…」

サリーダは慌てて離れようとしたが、凄い勢いでウルミラを中心に冷気を纏った竜巻が発生した。


サリーダは、竜巻に飲まれて氷付けになった。


しかし、サリーダは身体強化の魔力を上げていき、覆っている氷にヒビが入っていく。

そして、氷が砕け散り脱出に成功する。



ウルミラのアイス・フリージング・キャッスルは、魔法陣の端に氷の城壁ができ、術者は、その中では魔法を唱えなくても、イメージすることで魔法や現象が使用ができる。


デメリットは、魔法を唱えたのと同じ魔法を、無言で使用した場合、魔力消費量が多い。

イメージ力がなければ、発動できない。

イメージ力の強さで威力も変わる。

発動した現象が大きいほど、威力が高いほど魔力消費が多くなる。



「ハァハァ、危なかったわ…。危うく氷付けにされて、死んでいたわね…。しかし、この魔力を維持したまま、戦えば凍ることはないわ。私の魔力が尽きる前に倒すわ」

息を整えながら、サリーダは笑みを浮かべた。


戦争開始時にサリーダはサラマンドラを召喚し、ウルミラはアイス・フリージング・キャッスルを使用していたので、お互い魔力があまり残っていなかった。



「流石ですね。【鉄壁のサリーダ】さん。私の矛や魔法が効かないなんて」

「私の2つの名を知っていて光栄だわ。でも、残念だけど、あなたは危険すぎる。始末するわ」

「では、私も最後の切り札を出させて頂きます」

ウルミラは矛をクルクル回して止め、片手で持って構えた。


「私の本気を見せてあげるわ。ガイア・シールド」

サリーダは、左手を前に出して土魔法ガイア・シールドを唱え発動する。

前に出した左手の位置の下の地面から、サリーダの身長と同じ大きさのベース型の盾が現れ掴んだ。


その時、空中から衝撃波が2人を襲った。

「な、何!?」

「な、何が!?」

2人は、空を見上げ固唾を呑んだ。

サラマンドラは、膨大な魔力を溜め込んでいたからだ。


「お、お互い、早く決着をつけないと、いけないみたいわね」

「そうですね」

「じゃあ、いくわよ!」

盾を前に構えたままサリーダは、残りの魔力を身体強化に回し、ウルミラに向かって突撃する。


ウルミラは両手を上げ、サリーダの左右に氷の壁を作り出し進路を狭めた。

そして、すぐに正面にも氷の壁を作り出し進路を塞ぐ。


「はぁぁぁ」

突如、目の前に氷の壁が反りたっても、サリーダは臆するどころか迷いなく衝突して破壊する。


「ハッ、ヤッ」

ウルミラは両手を振り、サリーダの行く手を遮るように、次々に正面に氷の壁を作り出すが、次々に破壊され、止まる気配がなかった。

だが、サリーダのスピードは、少しだが落ちていく。


「無駄よ。そんな氷の壁を何枚作っても、私を止めることはできないわ」

この時、普段は慎重なサリーダだったが、サラマンドラのことで焦っており、冷静さを欠いていた。


「はぁっ!」

ウルミラは、最後の氷の壁を作り出して、右手で矛のグリップを逆手で握り締めて魔力を込める。

矛はランスへと変化し、グリップの能力でランスを回転させ、槍投げの構えをして目を閉じ集中する。


ウルミラは迫ってきているサリーダの行く手を塞ぐ様に氷の壁を作るが、サリーダは簡単に氷の壁を壊す。


サリーダが氷の壁が壊す音が聞こえてくるがウルミラは気せず、ただ魔力を込めることに集中し、ランスの回転速度が上がっていきランスは甲高い音を響かせていく。


そして、最後の氷の壁をサリーダは、破壊した。

崩れる氷の壁の隙間から、ウルミラが槍投げの構えをしている姿が見えた。


「万物を穿つ神槍、グングニール」

ウルミラは、目を見開きジャンプをして、サリーダに向けて高速回転している槍を投擲する。


「無駄よ。今さら、あなたがどんな攻撃をしても、私には効かないわ」

サリーダは、盾を斜め上に構えた。


地中の硬い鉱物でできた盾と、高速回転しているランスが衝突し、風圧が周りを襲った。


「くぅっ」

サリーダは、片手で持っていた盾を両手と右肩を使い、体全体で支えた。

しかし、それでもランスに押されていき、足元の地面が砕けながら沈んでいく。


盾とランスが、衝突した箇所から火花が飛び散り、それと同時に盾が凍っていく。

そして、盾は凍りき、ガラスのように砕けた。


「嘘!?」

盾が砕けたことで、サリーダは大きなショックを受けて硬直し、貫通したウルミラのランスがサリーダを襲う。


「な、何で、私は鉄壁な…はず…姉様…虎…」

サリーダは倒れながら、涙を溢して右手を月へと伸ばし、大爆発に飲まれた。


サリーダが居た場所は、大きな氷のクレーターができており、周囲には巨大な氷柱ができていた。


クレーターの中央に、ウルミラの矛が刺さっており、周囲はサリーダの姿どころか、何もかも跡形もなく消滅して凍りついていた。


ウルミラは、クレーターの中央にジャンプして飛び降りた。


「大成さん、どうか…」

空を見上げたウルミラは、胸元で両手を握りしめ、祈りを捧げた。

次回、サラマンドラ退治です。


投稿が、遅れて申し訳ありません。

いろいろ、新しい武器や魔法のアイディアが幾つも浮かんでしまい、何度も書き直していました。


結局、こんな感じになりましたが、他のアイディアは話が進むにつれ出して行こうかと思います。


編集して修正が終わり、再度更新していましたら、途中でエラーが起き、文章の途中で切れていました。

申し訳ありません。


もし、宜しければ、次回も御覧ください。

では、失礼します。

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