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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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動き出した未来

 里奈の問いかけに、民衆はざわつく。

 いきなり、誰かのせいにするのは止めましょうと言われたって、誰だって困ってしまう。


 一方の里奈もまた困惑していた。

 今まで静かだった民衆が、急に口々に話し始めたのだ。

 

 それは、まるで自分の言葉が間違っていると里奈に思わせた。



(どうしよ……ちょっと、強引だったかも……)


 

 しかし、過ぎた時間が取り戻せないのと同様に、一度口にした言葉も戻すことはできない。

 そして、このひな壇から、皆が何を言い合っているのか聞き取れない。



「おい、マイクを貸せ」



 急に里奈に向かってアルフォードが言う。

 里奈は言われるまま、手に持っているマイクを彼に渡した。


「アルフォード?」

「今度は、リナが黙って聞く番だ」

「え?」


 そして、アルフォードは一歩前へ車椅子を動かし、ざわつく国民に向かって話しかける。



「こんなどうしようもない私に、もう一度チャンスを与えてはもらえないだろうか? もし、もう一度挽回の機会がもらえるなら、このアムステールを必ず再建してみせる。薬代が高くて医者に診せれない現状も、景気が悪くて自分の店が潰れてしまった現状も、魔法使いに頼り切りだった国防も、変えてみせる。だからどうか、どうか……チャンスをください」



 そして、アルフォードはマイクを膝に置き、息を勢いよく吸って、


「どうか、お願いします!!」


と、声を張り上げ、深々と頭を下げた。



(アルフォード……)



 里奈は、そんな彼をじっと見つめたまま動かなかった。

 里奈だけでなく、アルフォードに罵声を今まで浴びせてきた国民たちも、その姿に対して暴言を吐くことはなかった。


 

 ひな壇の隅で、その姿をイリヤもまた見つめていた。

 彼の表情は、明るいものではなく、どことなく影がある。

 そして、イリヤの目は冷ややかで、真剣だった。


 そんなイリヤの様子を、リチェだけは見逃さず、何かを考え始めていた。




 突然、静まりかえった広場に、聞きなれた声が響き渡った。



「皆の衆、アルフォード殿下に、時間をしばし与えるのはどうだろうか? わしは、彼にチャンスを与えてやってもいいと思っとる」



 エミリアが、民衆の先頭に出てきて、国民に向かって問いかける。

 アルフォードと里奈は、眉間に皺を寄せ、互いに見つめ合った。

 

「一体何を企んでるの?」

「わからない……。ただ、今はとりあえず奴を言葉信じてみるしかない」


 コソコソとアルフォードと里奈が話している間に、国民たちはエミリアに言い寄り、今度は彼に「どういうことか」と質問し始める。


 その中で、エミリアは衝撃的な一言を発する。



「一年……いや、半年だけ様子をみようではないか。その期間に何も変わらなかったら、殿下にはこの国を去ってもらう」


 

 皮肉を込めてエミリアは国民と、そしてアルフォードに言い放った。

 やっぱりエミリアは、アルフォードを追い出したいらしい。

 

 それを聞いた里奈は、信じられない! と言った様子で、勢いよくひな壇から飛び降り、エミリアのいるところまで走り出し、


「ちょっと! つまり何かにつけてアルフォードを追い出すつもりでしょ!」


闘争心むき出しのまま、エミリアに向かって叫ぶ。



「リナ様、それは殿下には『出来ない』と思っているということでしょうか?」

「それは……」


 エミリアは、にんまりと里奈に向かって質問した。

 

 それが、かなり憎たらしい。

 どうして、この人はいつもいつも自分の前に出てきて、色々と難癖をつけるのか。


 里奈は唇を噛みしめ、拳を握る。



 しかし、半年でこの国を再建させるのはかなり難しいだろう。

 アルフォードのことを信じていない訳ではないが、彼の支持率やこの国の最悪の状況を考えると、まだどうやって再建していいかも思いついていないのだ。



「いいだろう。半年でこの国を再建できなかったら、私はアムステールから去ろう」



 アルフォードがひな壇から叫んだ。



「ちょっと、アル……それはいくらなんでも短すぎじゃ……」

「半年で決着をつけよう。その間、我々のすることに暴動を起こさないと約束をしてくれ!!」


 それを聞いたエミリアは、杖でトントントンと地面を強く叩いた。


「いいじゃろう。では、半年後、この場で全国民の投票を行ってもらいます。もし、アルフォード殿下が全国民の過半数の支持を得ることができれば、王座はあなたのものじゃ。もし、過半数の支持が得られない場合は、すぐここから出て行ってくだされ。それまで、我々は一応、あなたに国王の座を貸し与えましょう。それでよいかの? 皆の衆。賛成ならば、その場で拍手を!」



 パチ……パチ……パチ……


 エミリアのすぐ後ろにいた女性が手を叩き始めた。 

 すると、そのとなりの中年の男が叩きはじめ、その隣の青年、その隣の老人へと、どんどん波のように伝わり、拍手の音で会場がいっぱいになった。




「これで決まったのぉ」



 里奈は、なんだかエミリアの手の内で転がされているような気がした。

 しかし、ここまできたらもう後には引けない。



(絶対やってやるんだから!)


 

 里奈は、満足そうにほほ笑むエミリアを睨みながら、一人心に誓ったのだった。












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