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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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自分の役目

 里奈は、アルフォードに背を向け、ここにいる民衆を見渡した。

 ずいぶん少なくなっているが、まだ大勢の人がこの場に残ってくれているこの状況を、無駄にはしたくない。


 そして、里奈はひな壇へとつながるスロープを勢いよく駆け上がり、演台の上に転がっているマイクをむんずと掴んだ。

 それを握りしめながら、これでもかというくらい、息を吸う。



「おい、リナ。何をするつもり――――」


 アルフォードが言い終ることなく、里奈が一気に言葉をかぶせた。



「ここにいる国民の皆さん!! 私、リナ・ローゼンはこの国を再建するために、違う世界からやってきました。正直、私はこの国のことをほとんど知りません。今までに何があったのかも。でも、一つだけ分かることがあります!」


 

 マイクをスタンドから引き抜き、自分のもとへ引っ張り上げる。

 アルフォードがごちゃごちゃ隣で言っているのも完全無視し、演台の前に立った。



「ここにいるアルフォードは、引きこもりで、いつも上から目線の性悪王子だけど、ちゃんとこの国のことを考えてます。それは事実です。だからちゃんと、この人の話、最後まで聞いてあげてほしいんです」



 アルフォードの時とはうって変わって、里奈の演説を民衆は黙って聞いている。

 それは、彼女が青薔薇だと信じていることが起因しているのだと、アルフォードは自分を納得させるために心でつぶやいた。

 

 そう思わないと自分の存在価値がなくなってしまう。

 アルフォードにとって、今日は本当に踏んだり蹴ったりの日……


 しかし、それでも今の彼は、里奈をありがたく思えるようになった。

 今までだったら、力ずくで彼女の演説を止めさせたし、悪態をついていた。


 でも今は違う。



 里奈はアムステールのために一生懸命やってくれていること。

 彼女の前向きさに助けられてきたこと。


 そして今も、また助けられてしまっている。

 

 アルフォードは、自分の両足をぐっと掴みながら、黙って里奈のスピーチを聞く。



「アルフォードは、五年前の事件から自分の足で立てなくなりました。そして、彼もまた自分の家族を失ってます。ここにいる皆さんと同じように、悲しいことが彼の中でもあるんです。でも、今それじゃ何も変わらないと思って、現実を受け止めて、今皆さんの目の前にいます。皆さんに罵られることを覚悟してアルフォードは、ずっと演説文を考えてきました」



 里奈は、ギュッとマイクを握り直す。

 そして、背後のアルフォードにちらっと視線をやった。


 


「立つことも歩くこともできない人間が、国を再建するなんて不可能だって、だれか言いましたよね? 本当にそうなんでしょうか? 不可能なんですか? 私は……私は、不可能なんかじゃないって思います。諦めてるから、自信がないから不可能って言葉を言ってしまうんじゃないでしょうか?」



 風は里奈の髪を揺らし、言葉を反響させる。

 里奈の言葉はゆっくり、はっきりと風に乗って後ろの方まで伝わっていった。


 

 一見、落ち着いているように見えるが、里奈の心拍数はどんどん上昇していく。

 中学校で、生徒会長や部長を務めていただけあって、人前で話すことには慣れているものの、さすがにこんなに大勢の人の前で話すのは別格だった。


(ちゃんとやり遂げないと――)


 アルフォードの言葉を、最後まで聞いてもらえるようにするのが、自分の役目。

 そのために、私ははここに戻ってきたのだ――



 そう自分に言い聞かせ、スピーチを続ける。



「私は、自分が魔法使いだなんて、全く知りませんでした。ここに来て知らされた時も、全く信じなかった。だって、魔法使いの血が流れているのに魔法が使えなかったら、皆の期待を裏切ることになるから……。それがすごく怖かったんです。皆の期待が怖かったから、私は『魔法使いなんかじゃない』って言い続けました」



 『魔法使いなんかじゃない』……


 ずっと初めから言い続けてきた言葉……



 初めてアムステールに来たときのことが、もうずっと昔のように感じられる。

 ずっと裸足で、舗装されていない道を歩いたし、変な男に連れ去られたこともあった。

 リチェが迎えに来て、王宮に来たら、性悪王子がいきなり、『国家魔法使いになってこの国を救え』なんて、無理難題を言ってきた。

 

 まさか、この私が自ら魔法使いになってしまうなんて、現実主義リアリストの、あの時の私が知ったら、腰を抜かすだろう。



 未来は何が起こるかわからない。

 そして、自分も含めて世界は少しずつ変わっていく……

 いろんな現実を受け止めながら……


 

 里奈は俯きかけていた、背筋をピンと伸ばし、ここにいる国民の顔を見つめながら、声のボリュームをさらに上げる。  



「でも、それは『現実を受け止めずにただ逃げてる』ってことに気づきました。それって、なんか卑怯だなって思い始めたんです。だから、そうやって言い訳するのは、もう終わりにします。もう、自分の置かれた状況を、誰かのせいにするのは止めます。私は今日から魔法使いとして、このアムステールで、自分にできる精一杯のことをしたいと思います。だから皆さんも、自分の不幸を誰かのせいにするのは止めませんか?」



 今まで、分厚い雲で覆われていた太陽が、微かに顔を覗かせ、眩い光がキラキラと地上を照らす。

 それはまるで、神様からのエールのように感じられた。



 


 

 




 




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