青薔薇(ブラウエ・ローゼン)
民衆たちは、啖呵を切る里奈の姿を、伝説の魔法使いである『青薔薇』と思ったようで、里奈を応援し始めた。
「青薔薇様、その悪者をやっつけてしまってください!」
「青薔薇様、どうか我々の生活もお助けください!」
「ブラウエ・ローゼン様、どうかあなたのお力で、アムステールをお救いください!」
さっきまで、アルフォードの悪口しか口にしなかった者たちが、いつの間にか里奈の信者へと変わっていく。
(ちょっと、何なの?! さっきまでこの人たち、アルフォードに酷いことばっか言ってたくせに!)
むっとしながら、周りを見渡すと、騎士団の者たちが駆けつけてきて、エルザを捕えて縄で縛りあげている。
そして、いつの間にか側にはリチェーヌがいた。
「リナ様、怪我はありませんか?!」
「あ、うん。大丈夫だよ!」
「よかった……。無茶はしないでください。本当に心配しました……」
里奈の肩に乗せられたリチェの手は、微かに震えていた。
すごく心配させたのだと、里奈は申し訳なく思った。
(急に倒れて、いきなり現れて、ビックリさせちゃったよね……)
そして、リチェの手首を握って、微笑みかけながら、
「リチェ、ごめんね。心配かけて。でも、本当にもう大丈夫なの。ほら、ぴんぴんしてるから!」
里奈は、勢いよくミストルティンを振ってみせた。
「リナ! ちょっと、危ないから、さっさとミストルティンしまってよ!」
足元の小動物が、里奈に向かって叫ぶ。
それは、猫のような狐のような不思議な生き物。
「あ、ごめん、ごめん! えっと、『シール』」
剣が光を放ちながら、しゅるしゅると縮み、元の魔石の姿へと変わって、里奈の右手にすっぽりと収まった。
リチェはその光景を黙って見つめる。
さすがのリチェも、何がなんだか、わからないといった様子だ。
「リナ様……さっきの剣は、まさか……」
「あ、これ? えっと、ミストルティンっていう聖剣らしいよ。ちょーっと色々あって契約したの」
「契約……?! その喋る狐は?」
「誰が狐だ!! 貴様、無礼だぞ!」
毛を逆立てながら、シャーっと歯をむき出しにして、リチェを威嚇をした。
里奈は、その小動物の首根っこをひょいと持ちあげ説明する。
「この子は、フェイ。なんか、ミストルティンの主人を探す魔獣だよ。あ、でも今は私の先生って感じ」
「リナ、離せ~!」
冷徹仮面のリチェーヌの顔が一気に崩れていく。
眉間に皺を寄せ、目をパチパチさせる彼は新鮮だった。
里奈は思わず笑ってしまう。
でも、今は笑ってる場合じゃなかった。
アルフォードの演説は、途中のままだ。
「リチェ、私はちゃんとあなたの作戦通りやったからね。あとはアルフォード次第」
里奈は、茶目っ気たっぷりにウインクしながら、ひな壇の方へ駆けていった。
彼女がフェイと呼ぶ小動物も、あとを追っかけていく。
相変わらず、忙しい人だ……
リチェは、長く息を吐きながら、里奈の後姿を見守った。
一方のアルフォードは、ずっと壇上で一連の騒動を見ているしかなく、リチェ以上に状況を読み込めていなかった。
里奈の持っていた剣……
あれは、失われた聖剣だ。
そして、ずっとずっと国内いや、世界の魔法使いが探し求めていたもの。
なぜそれを、里奈が持っているのだろうか?
演説そっちのけで、アルフォードの頭の中は里奈のことで一杯になる。
とそこへ――――
「ちょっと、アルフォード! まだ演説は終わってないんでしょ! ほら、早くしないと、皆帰っちゃうよ!!」
ひな壇の下から叫ぶ里奈。
伝説の剣を持っていても、彼女はまったく変わっていない。




