対決
「確かに、国家魔法使いはデュエロによって失ってしまった。そして今、魔法使いばかりに頼りすぎていた我々は、彼らがいないと何もできなくなってしまっている。そう、私のこの足と同じように……。でも、そうやって過去に捕らわれるのはもう止めにしたいんだ。今私にできることを、アムステールのみんなのためにできることを、考えさせてほしい!!」
「そんなのきれいごとよ。アルフォード殿下」
その人物は、人をかき分け民衆の一番前に出た。
エミリアは、その人物を見た瞬間、目を見開き叫ぶ。
「やめなさい! エルザ!!」
エミリアの叫びと同時に、中年の女性が、手に持っていた瓶をアルフォードにめがけて放り投げた。
その瓶から、得体のしれない液体が宙に舞う。
そして、その液体は炎と変わり、アルフォードへ向かって突き進む。
「殿下!!」
リチェーヌがアルフォードを庇うため、飛びかかるが間に合わない。
アルフォードは、こないだの火災がフラッシュバックし、体が固まってしまう。
ドクン……ドクン……
(やられる――――!)
ギュッと目をつむった瞬間だった。
「風よ、我に従い皆を守りたまえ!『ウインディ』!」
何かが、激しくぶつかる音が広場に轟いた――――
それと同時に、熱風が波となって全体に吹き荒れる。
強い風の中、アルフォードは必死で目を開けると、炎はなくなっていた。
その代り暴風だけが、この場に吹き荒れている。
「……鳥?」
目の前に見えるのは、とてつもない大きさの透明にうっすらと透けている鳥。
大きな翼を広げ、優雅にこの場の上空を旋回している。
そして――――――
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャじゃーん! とうっ!」
変な掛け声とともに、空から勢いよく降り立った人物が、こちらに進んできていた。
先ほどの水蒸気が立ち込めているせいで、顔が良く見えないが、その声は、聞き覚えがある。
その人物は、髪を高い位置で一つに縛り、ジャックたちが着ているアムステール騎士団の青い服を身にまとっていた。
何かの間違いではないかと、アルフォードは目を擦る。
彼女は、この場にいるはずのない人物。
(目が覚めたのか……?)
爽やかな風が二人の間を通っていった瞬間、すっと霧が晴れた。
「ちゃんと、演説を続けてくれていてうれしいよ!」
元気そうな姿で軽やかにやってきた彼女は、ひらひらと手を振った。
「なんで……ここに……? それに、その恰好は何なんだ!?」
動揺して、いつものように里奈に怒鳴ってしまう。
いざ会ったら、言いたかったことが素直に言えない。
一方の里奈は、余裕な表情で、
「王子様、ちょーっと待っててね。さっさと悪者は、このリナ様がやっつけちゃうから!」
と、にっこり笑っていた。
アルフォードが状況を飲み込めないまま、里奈だけはひな壇から飛び降り、犯人の女を目がけ、がつがつ歩いていく。
エミリアが、エルザと呼ぶその中年の女は、すごい形相で里奈を睨んでいた。
「ねぇ、あなたなんでしょ? 私に毒を盛って黒魔術かけたのも、アルフォードにさっき石を投げたのも」
「そうよ……私がやったわよ。ほんと、あんた、しぶといわね。普通の人は即死なのに」
里奈は拳を握りしめ、女を見つめた。
周りの民衆は、彼女らから距離を置くため、後ろに下がっていく。
そして、里奈とエルザの周りには、大きな円ができた。
リチェーヌが里奈の側へ向かおうと、急いでひな壇を降りる。
「リチェ、来ないで……これは私の戦いだから」
里奈が振り返り、近寄る彼を制する。
そして、里奈は女に向き合い、睨み返し、言いたいことを言い放った。
「それはどうも。生憎私は、そんじょそこらの弱い女の子じゃないの。あんたも残念だったわね。作戦が失敗して」
「くっ……うるさい!! この小娘が!」
勢いよく、エルザが里奈に向かって突進する。
その手にはナイフが握られていて、それに気づくなり、リチェも駆け出した。
「リナ様!!」
「お前なんか私が直に殺してやる―――――――――!!」
エルザは躊躇うことなく、里奈の心臓目がけてナイフを両手で突き出した。
リチェも剣を抜くが、この距離では届かない。
「『リリース』!」
キンッ――――――――
金属音が響き渡り、エルザのナイフが宙に舞って地面に落ちた。
エルザ自身もその勢いで後ろに倒れこむ。
里奈の両手には、ミストルティンが握られていた。
「関東大会個人戦優勝の里奈様を舐めんな!!」
そして、ミストルティンの刃を女の首元に向けて、
「あんたなんかが、アルフォードの命を狙うなんて百万年早いわよ! アルはね、確かに何もしない酷い王子かもしれない。だからって、傷つけていいわけじゃない。暴力は悲しみしか生まないのよ!」
勢いよく言い放った。
里奈の一つに縛った髪がなびく。
青い服に、黒髪の女性、そして伝説の剣――――
「ねぇ、ママ。あの人、青薔薇様? お本に出てくる青薔薇様なの?」
様子をじっと見ていた五歳ぐらいの男の子が、母親のスカートの裾を引っ張りながら尋ねる。
母親は、その子を抱きかかえながら言った。
「そうね……あの方はきっと青薔薇様よ。神様がアムステールを助けるために、お送りになった魔法使い様よ」
そう思ったのは、その子どもと、母親だけではなかった。




