信じる力
「あ~あ……可哀そう。あんなに皆から言いたい放題言われちゃって……」
「…………」
「ねぇ、どうするの? このまま見てるだけ? 助けないの?」
ここは、城門の左右の塔の左側の内部の小部屋。
少し埃っぽいが、小窓からは演説の様子がよく見えた。
先ほどに比べて四分の一の民衆が、彼に背を向け去っていくし、その場にとどまっている者たちは、王子を中傷して、自分たちの不満を投げつけているだけ。
その状況を黙って見ている。
「今出ていったところで、どうすることもできないから。これは彼の戦いだし」
「今の子って、打たれ弱いんだよ~? あんなにズタボロにされたら、また引きこもりに逆戻りじゃない?」
「……でも、私は信じたい……彼は変わったって……」
ふと見上げると、あんなに晴れていた空が、急に曇り始めていた。
暖かかった風が、冷たい風へと変わり、人々に吹きつける。
会場には、不穏な空気が漂い始めた。
「それに、私が今やらなきゃいけないことは、犯人を見つけることよ。絶対許さないんだから!」
そう言いながら、双眼鏡で会場内の人々をくまなく観察する。
アルフォードのいるひな壇に向かって、石を投げた奴は普通の人間ではない。
一番前にいる民衆とアルフォードの距離は、少なくとも五メートルはあるし、ひな壇だって二メートルぐらいの高さがある。
そして、周りには民衆が密集した状態で立っている。
プロの野球選手でも、一発で王子の頭にあの大きさの石を命中させることは、かなり難しいだろう。
そして、失敗は許されないし、少しでも民衆が騒げば、警備の兵士に気づかれてしまう。
死角になる場所から石を投げないと、王子の頭には当てられない。
そうなると、ますます普通の人間では命中させれない。
「さっすが~。あの王子様よりもキミの方がずいぶん男らしい~」
「うるさい!」
「でも気を付けてね。相手は相当のやり手だから」
「わかってるよ」
「あれ……?」
彼女の目が『ある人物』を捕えた。
その人物は『何か』手に持っている。
それが何かは、双眼鏡からでは確認できない。
しかし、その人物は後方の場所からゆっくりとアルフォードのいるひな壇へ向かって、歩き出していた。
太陽がとうとう分厚い雲に覆われ、会場に影が落ちる。
一方の王子は、皆からの暴言に耐えながら、演説を再開し始めた。
「確かに……皆が言うように、私は自分の足で立つことすらできない。でも、もう少しだけ私にチャンスを与えてはもらえないだろうか? アムステールを再建するチャンスを!」
アルフォードの言葉もむなしく、民衆の暴言は、彼の悲痛な訴えをかき消していった。
「五年間も何もしなかったお前に、これ以上時間を与えるだけ無駄だ!」
「そうだ! そうだ!」
「お前ら王宮が魔法使いを皆殺しにしたから、こんなことになっているんだぞ?! 魔法使いが何とかできないのにお前が再建できるわけがない」
「魔法使い様がいれば、こんなことにはならなかったのよ……メアリー様……が生きていれば……」
「メアリー様を見殺しにした王宮なんて、滅びてしまえばいいのよ!!」
その混沌とした状況に交じって、『ある人物』がゆっくり、ゆっくりと前へ進んでいく。
彼女は双眼鏡を外し、「早く止めないと!」と叫びながら、扉へ向かった。
そんな焦る彼女を制しながら、
「今出てっても犯人を見失うだけだ。ほら、やっと出番がきた。今こそ『本来の力』を彼らに見せつけてやろう」
と尻尾をふりながら、小動物はドヤ顔で言った。




