アルフォードの演説②
「殿下!!」
すぐさま、イリヤとリチェーヌが駆け寄る。
ジャックたち騎士団が、民衆と壇上の間に立ちふさがり、
「誰だ! 今殿下に石を投げつけたものは!! この不届き者が、成敗してやる!」
と民衆を睨みつけながら、それぞれ剣を抜いた。
そして、エミリアのいる場所にも兵士たちが向かう。
「私は大丈夫だ……」
アルフォードは、出血しているこめかみ付近を右手抑えながら、必死で原稿を自分から遠ざけた。
「速く止血しないと! 医務官はいるか!?」
イリヤが車椅子の取っ手を掴み、壇上から降ろそうと躍起になる。
それにアルフォードは必死に抵抗し、タイヤに手をかけ叫んだ。
「ちょっと待て、イリヤ! このまま演説を続ける。命令だ! 皆下がれ! ジャック、剣を戻せ!」
「しかし殿下、危険です。演説はお止めください! これ以上何かあっては」
「イリヤ、すまない。でも続けさせてほしいんだ」
「殿下……しかし……」
アルフォードはイリヤの手を振り払い、急いで壇上に戻ってマイクの手にした。
リチェーヌは止めるつもりで側に寄ったが、彼の言葉を聞いて演説を見守ることにし、追いかけるイリヤを制する。
彼の頭から血が流れたまま。
演台のそばには、投げられた石が落ちている。
あんなに一生懸命準備した原稿は、真っ赤に染まって、何が書いてあったのか読解不能になった。
その中でも、唯一残された文字は、里奈の書いた
『You can change your world if you change your mind.』
~あなたの考えが変われば、あなたは世界を変えられる~
だけだった。
原稿がなくなったことは、アルフォードにとってかなりの痛手。
次の言葉を必死で思い出そうとするが、何も頭には浮かんでこない。
民衆は動揺しているのか、ざわついている。
このまま演説が中止されると、この場にいるほとんどの民衆は思った。
エミリアは一歩も動かず、その場でアルフォードをじっと見つめていた。
顔は先ほどよりも険しい。
犯人もまだこの場にいるのだろうか?
アルフォードは拳を握りしめて、恐る恐る辺りを見回す。
一部の民衆が自分に背を向け、去っていくのが分かった。
また鼓動が速くなる。
(何か……何か、早く言わないと……)
焦れば焦るほど、何を言っていいか分からない。
台紙のリナの言葉を指でなぞる。
(あいつは、こういう時どうするんだろうか……)
ふと、里奈が原稿のダメ出しをしてきたあの時ことが頭によぎる。
『あのね、私は言葉こそ魔法だと思うの。たった一つの言葉でとっても嬉しくなったり、すごく傷ついたりするでしょ? だから、演説の時は自分の心を込めて、真剣に伝えればきっと伝わる。全員なんて無理かもしれないけど、たった一人でも伝えられればきっと、何か変えられるって信じてる』
いつも前向きな彼女。
リナについて知らないことは多いが、水晶から彼女を観察していたあの時から、その印象は変わらない。
そして、きっとリナに会わなかったら、今自分はここにはいない。
自分の部屋に引きこもり、自分の運命をひたすら恨むだけの毎日を彼女が変えてくれた。
ちゃんと彼女に伝えたかった言葉も、今は伝えられない。
里奈からもらった勇気と希望を、今ここにいる皆に伝えないと、きっとまた彼女に怒鳴られる。
王子なんだから、しっかりしろ!って……
「――――いままで、アムステール第二王子として、国民の皆に何もしてこなかったことを、この場で謝罪したい。本当にすまなかった。ずっと、国民のみんなが苦しんでいることに目を向けず、耳をふさぎ、自分にふりかかった悲しみと責任に耐え切れず、私は逃げ出した。本当に申し訳なく思っている」
アルフォードはマイクを使わず、演台の横で車椅子から深々と頭を下げた。
――――突然静寂が訪れた。
その場にいる人誰一人として、一言も声を発することなくアルフォードを見つめる。
しかし、それは一瞬の静寂。
アルフォードが頭を上げた瞬間、鋭い男の声が弓矢のようにアルフォード目がけて飛んできた。
「そんな謝罪で終わりか? 土下座しろよ! 土下座! ああ、そうか、王子様のその足じゃ土下座どころか、自分で便所もいけないよなぁ?」
ゲラゲラと笑いだす男の声が響き渡る。
それに便乗してか、アルフォードを中傷する言葉が波となって彼を襲う。
「立てない王子に一体何を期待しろってんだ!」
「自分のことも一人でできない人に、この国を任せられないわ」
「どうせ、それも芝居なんだろう?! そんなことしたって無駄だ!」
心無い言葉がナイフとなり、ザクザクとアルフォードの心を引き裂いていった。




