表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
94/235

アルフォードの演説②

「殿下!!」


 すぐさま、イリヤとリチェーヌが駆け寄る。

 ジャックたち騎士団が、民衆と壇上の間に立ちふさがり、


「誰だ! 今殿下に石を投げつけたものは!! この不届き者が、成敗してやる!」



と民衆を睨みつけながら、それぞれ剣を抜いた。

 そして、エミリアのいる場所にも兵士たちが向かう。



「私は大丈夫だ……」


 アルフォードは、出血しているこめかみ付近を右手抑えながら、必死で原稿を自分から遠ざけた。


「速く止血しないと! 医務官はいるか!?」


イリヤが車椅子の取っ手を掴み、壇上から降ろそうと躍起になる。

 それにアルフォードは必死に抵抗し、タイヤに手をかけ叫んだ。


「ちょっと待て、イリヤ! このまま演説を続ける。命令だ! 皆下がれ! ジャック、剣を戻せ!」

「しかし殿下、危険です。演説はお止めください! これ以上何かあっては」

「イリヤ、すまない。でも続けさせてほしいんだ」

「殿下……しかし……」



 アルフォードはイリヤの手を振り払い、急いで壇上に戻ってマイクの手にした。

 リチェーヌは止めるつもりで側に寄ったが、彼の言葉を聞いて演説を見守ることにし、追いかけるイリヤを制する。

 

 彼の頭から血が流れたまま。

 演台のそばには、投げられた石が落ちている。

 あんなに一生懸命準備した原稿は、真っ赤に染まって、何が書いてあったのか読解不能になった。


 その中でも、唯一残された文字は、里奈の書いた


『You can change your world if you change your mind.』 

 ~あなたの考えが変われば、あなたは世界を変えられる~ 



だけだった。


 

 

 原稿がなくなったことは、アルフォードにとってかなりの痛手。

 次の言葉を必死で思い出そうとするが、何も頭には浮かんでこない。

 


 民衆は動揺しているのか、ざわついている。

 このまま演説が中止されると、この場にいるほとんどの民衆は思った。


 エミリアは一歩も動かず、その場でアルフォードをじっと見つめていた。

 顔は先ほどよりも険しい。



 

 犯人もまだこの場にいるのだろうか?


 アルフォードは拳を握りしめて、恐る恐る辺りを見回す。

 一部の民衆が自分に背を向け、去っていくのが分かった。

 

 また鼓動が速くなる。


(何か……何か、早く言わないと……)



 焦れば焦るほど、何を言っていいか分からない。

 台紙のリナの言葉を指でなぞる。


(あいつは、こういう時どうするんだろうか……)



 ふと、里奈が原稿のダメ出しをしてきたあの時ことが頭によぎる。



『あのね、私は言葉こそ魔法だと思うの。たった一つの言葉でとっても嬉しくなったり、すごく傷ついたりするでしょ? だから、演説の時は自分の心を込めて、真剣に伝えればきっと伝わる。全員なんて無理かもしれないけど、たった一人でも伝えられればきっと、何か変えられるって信じてる』


 

 いつも前向きな彼女。


 リナについて知らないことは多いが、水晶から彼女を観察していたあの時から、その印象は変わらない。

 そして、きっとリナに会わなかったら、今自分はここにはいない。

 

 自分の部屋に引きこもり、自分の運命をひたすら恨むだけの毎日を彼女が変えてくれた。

 ちゃんと彼女に伝えたかった言葉も、今は伝えられない。


 里奈からもらった勇気と希望を、今ここにいる皆に伝えないと、きっとまた彼女に怒鳴られる。

 王子なんだから、しっかりしろ!って……



「――――いままで、アムステール第二王子として、国民の皆に何もしてこなかったことを、この場で謝罪したい。本当にすまなかった。ずっと、国民のみんなが苦しんでいることに目を向けず、耳をふさぎ、自分にふりかかった悲しみと責任に耐え切れず、私は逃げ出した。本当に申し訳なく思っている」



 アルフォードはマイクを使わず、演台の横で車椅子から深々と頭を下げた。


 



 ――――突然静寂が訪れた。

 



 その場にいる人誰一人として、一言も声を発することなくアルフォードを見つめる。

 



 しかし、それは一瞬の静寂。


 アルフォードが頭を上げた瞬間、鋭い男の声が弓矢のようにアルフォード目がけて飛んできた。



「そんな謝罪で終わりか? 土下座しろよ! 土下座! ああ、そうか、王子様のその足じゃ土下座どころか、自分で便所もいけないよなぁ?」



 ゲラゲラと笑いだす男の声が響き渡る。

 それに便乗してか、アルフォードを中傷する言葉が波となって彼を襲う。



「立てない王子に一体何を期待しろってんだ!」

「自分のことも一人でできない人に、この国を任せられないわ」

「どうせ、それも芝居なんだろう?! そんなことしたって無駄だ!」



 心無い言葉がナイフとなり、ザクザクとアルフォードの心を引き裂いていった。

 




 


 

 



 








 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ